相続した不動産の売却事例:農地の売却

遺産相続の相談内容は実に様々ですが、その中でも、最近一番多いのが「相続した農地を手放したい」というものです。

この背景には、農業者の借り手や買い手が少ない状況に加え、農地は手放しにくいという制約や規制があり、このような声となって私にも届くという訳です。

農地を相続すれば、毎年の固定資産税を支払う必要がありますし、草だらけにしておけば病気や害虫が発生しやすく、周りに迷惑をかけるため管理しなくてはいけません。

そんなわけで、今回のブログは、相続した農地の売却事例を紹介します。

相談の内容

相談者からの依頼は、「私の農地を買いたい人が現れたけれど、農地を宅地にできるだろうか」というものでした。
目的は、買主が農地を宅地として造成し、子世帯が住むために住宅を建設することです。

そのためには、宅地として利用できるか確実に家を建てる計画があるか、また、様々な制限がある農地の転用が可能かどうか、調べなければなりません。

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相続した農地は広いのですが

まずは、宅地として利用できるか確認

農地の転用許可を受けた場合に、宅地として利用できなければ困りますから、まず、そこから調べます。

この相続した農地の売却事例では、不動産の登記情報と地図情報、いわゆる公図を入手することから始めました。

(一財)民事法務協会の「登記情報提供サービス」を使えば、インターネットで手軽に入手できます。

依頼者は、所有者と一致

不動産の登記情報を確認したところ、地目や地積、所有者などを確認できました。


所有者は、依頼者と同一人物になっていて、キチンと相続登記が行われていることが分かったので、一安心です。

と言うのは、相続した不動産相続登記が終わっていないと、売買契約さえできないため、この手続きから始めなくてはいけないからです。

道路に面する部分が2mより狭い?

公図を確認したところ、少し問題になりそうな部分があることが判明しました。


それは、土地は広いのですが、道路に面している部分だけが狭くなっている旗竿地で、都市計画地域で必要な最低2mの接道基準を満たすかどうかでした。

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旗竿地で入り口が狭い

あわてて現地で測定したところ、3mあり問題なしと分かったので解決です。

法令上の制限やライフラインの制約もクリア

宅地として利用する際は、都市計画法や建築基準法、文化財保護指定、災害地域指定など、法令上の制限による規制の有無を確認しなければいけません。

市役所の建設課や産業課、教育委員会などで確認した結果、法令上の制限がなく、問題ないことが分かりました。


また、ガスや水道、電気などのライフラインについても、利用に問題がないことが確認できました。

農地の売買には制限がある

ここまで確認して、宅地にできた後は問題なさそうなことが分かりました。


そうなると本題になる、相続した農地を転用できるかが焦点として浮上します。

農地の売買には、農地法による制限や規制があります。
農地は、農地以外のものに向けることが規制されているのです。

市街化区域にある農地は例外

農地のなかでも、市街化区域にある農地は、例外的に転用が認められます

どうかと思って建設課で確認しましたが、依頼を受けた農地は都市計画区域外。
つまり、市街化区域なら認められる例外が、当てはまりません。

農振農用地の指定があると、認められる場合でも時間がかかる

農振農用地」は原則として、農用地として利用すべき区域として位置づけられるため、転用が認められません。

ただし、「やむを得ず農業以外の目的へ転用する必要がある」と認められる場合だけは、農振農用地からの除外を申請することができます。
しかしながら、認められる場合でも、1年程度かかるケースもあり、指定があるとたいへんです。

売却事例の農地は、農業委員会で確認した結果、農振農用地の指定から外れていることが分かりました。
これで、宅地化に向けたハードルを、1つ超えることができました。

最後の関門は、農地の種類

農用地として定められている農振農用地のほかにも、集団的に存在する農地など、良好な営農条件を備えている農地は、原則として転用が認められません。

ただし、第3種農地として区分されている農地なら、転用も可能です。

これには、
・都市的施設が整備された区域内の農地や
・駅や役場などの公共機関からおおむね300m以内にある市街地内の農地、
・市街地に挟まれている農地
などが、該当します。

しかしながら、売却事例の農地は第3種農地ではなく、第2種農地であることが分かりました。


こうなると、あとは第2種農地として転用可能かどうかを調べて、相談に対する回答を判断することになります。

要件に合う場合だけ転用が認められる第2種農地

第2種農地は、第3種農地に近接する区域や、市街地化が見込まれる区域内にある農地で、農業公共投資の対象となっていない生産性の低い、おおむね10ヘクタール未満の小集団の農地が該当します。

第2種農地では、周辺農地で代替できない場合に限って、転用が認められる可能性があります。

ここでようやく、宅地化の可能性が見えました。
代替地が無いことの妥当性と、申請目的である住宅を建設できることが証明できれば、許可を受けることが可能になります。

宅地化するための手続き

農地の売買や宅地などへの転用は、基本的に、市町村の農業委員会を通じて、都道府県知事の許可を得なければなりません。

農地法5条許可申請

売却を前提として宅地に転用する場合は、「農地法5条許可」申請が必要です。
この際は、宅地に住宅を建てる計画があることが前提条件です。

申請には、様式が定められた申請書と様々な必要書類を添付しなければなりません。
特に、土地の選定理由書と周辺農地の所有者の同意書は、許可やプランを実現するためにとても重要な添付書類です。

申請する土地以外に代替可能な土地がないことの妥当性や、周辺農地や農業に悪影響がなく、周囲の農地所有者が同意していることを証明する必要があります。

また、この売却事例での申請目的である、宅地化して住宅を建設することが確実であることも証明する必要があります。

相談者への提案と実現

これで、相談者への提案内容が決まりました。

・宅地としての利用に問題がないこと

・相続登記や農振除外申請手続きは不要なこと

・転用許可を受けることができれば実現できること

そのためには

・農地法第5条第1項の規定による許可申請手続きが必要なこと

・住宅の建設計画や資金の証明が必要なこと

・買主の権利を保護するために、共同で登記手続きを行うこと

これを提案し、申請と売却、そして住宅建設に向けて動き出すことが決まりました。

また、相談の続きとして、農地法第5条の許可申請手続きの依頼をいただきました。

ここが腕の見せ所と、農業委員会から示されている必要書類を準備して、農業委員会に提出。

書類準備に約2週間、その後提出から約1か月後には無事許可を得ることができ、住宅建設が始まりました。

登記手続き

農地を売買して宅地化する場合の登記は2種類です。

権利の移転登記と地目変更登記の申請を別々に行いますが、これは、書類を整えたのちに、連携している司法書士に依頼して完了です。

まとめ

この不動産の売却は、一般的な宅地の売買とは異なる、特殊な事例と言っても良いでしょう。

解説されている事例も少ないため、相続した不動産のなかでも、農地を売却したいと考えている方にとって、参考になるのではないでしょうか。

これからも、不動産の遺産相続について、役立つ情報や事例をお伝えしてまいります。

どうぞご期待ください。

路線価が上昇すると相続税や固定資産税もアップ、納税に支障も

先祖から受け継いでいる土地を相続したら、相続税が高額で払えず困っているといった話を聞くことがあります。
現金や預金なら財産の額もハッキリわかりますが、土地の価格はどのように決めるのでしょうか。
そもそも、相続税は、どのように決まるのでしょうか。

 

相続税や土地の価格は、統一されたルールに従って決められます。
なかでも、市街地や住宅地では、基準となる土地価格について、国が路線価として定めています。

全国の路線価は年に一度公表されますが、そのたびにニュースや新聞などのメディアに取り上げられますから、気にかけている方も多いことでしょう。

 

この路線価から土地の価格を求める方法、そして相続税の計算方法を知れば、路線価と相続税の関係が分かります。

今回は、路線価に焦点を当て、上昇した場合に相続税にどう影響を与えるかについて、紹介しましょう。

 

相続税は土地の価格を含めた総額にかかる

 

相続税は、課税の対象になる財産の合計に対して課されます。

相続によって課税対象となる財産は、現金や預貯金のほか、現金化できるすべての資産が含まれます。
このような資産のことを、本来の相続財産と呼びます。

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相続税計算における本来の財産

本来の財産のほかにも、死亡したことによって支払われる死亡保険金や死亡退職金など、財産扱いされる「みなし財産」があります。
一方、みなし財産の一部や非課税扱いの財産、また借金や葬式費用は、財産の合計から差し引かれます。

 

まとめて計算式で表すと
「課税の対象になる財産の合計額」
=「本来の財産」+「みなし財産」+「生前贈与」-「非課税財産」-「債務」-「葬式費用」
となります。

 

つまり、土地の価格は、相続税を計算する際の合計額に影響を与えることになります。
同じ土地でも、土地の価格が低ければ課税の対象となる合計額も低く、土地の価格が高ければ合計額も高くなることが分かります。

 

路線価は、相続した土地を評価する基準単価

 

では、土地の価格はどのように決めるのでしょうか?
土地には定価がないため、一定のルールに従って評価額を求める方式が採られています。

土地を評価する方式は、路線価方式と倍率方式に分かれ、いずれかの方法が用いられます。
いずれの方式の場合も、1筆(区画)ごとに価格を評価します。

 

どちらの方法を使うかは、それぞれの土地の所在地によって決まりますが、一般的に、市街地や住宅地にある場合は、路線価方式を用いることが多くなっています。

路線価は、道路に面する土地の基準価格を示し、倍率は、固定資産税評価額に乗じる倍率を示しています。

 

一般的に、路線価は公示地価の0.8倍、固定資産税評価額は公示地価の0.7倍に設定され、どちらも、実際の取引価格などに比べて低く評価されます。

なお、公示地価は、一般の土地の取引価格に対する指標として定められるもので、例外もたくさんありますが、おおむね時価に近い価格と言えます。

 

つまり、路線価は、土地の評価額が時価の0.8倍程度になるように定められる土地の単価と言い換えることができるでしょう。

 

路線価による土地評価の計算

 

路線価は、相続税や贈与税を計算する際の基準として、国税庁が公表する「財産評価基準」に掲載されます。公表時期は毎年7月~8月頃で、2019年は7月1日に公表されました。

この財産評価基準は、各年の1月1日から12月31日までの間に、相続や遺贈、贈与によって取得した財産について適用する基準になります。

 

つまり、路線価は毎年1回変わる可能性があり、相続する土地の評価額を求めるためには、相続する年の路線価を使う必要があるということになります。

 

土地評価の計算方法

 

土地の評価は、建物とは切り離して考えます。
倍率方式なら、固定資産税評価額に倍率をかけ算するだけなので、特別な難しさはありませんが、路線価方式の場合は、それぞれの土地条件を加味することもあり、少々複雑です。

 

路線価は、道路に面する標準的な土地の1㎡当たりの単価として、千円単位で決められます。

路線価を使う土地の評価は、計算式で表すと、
「土地の評価額」=「路線価(千円/㎡)X 地積(土地の面積:㎡)× 補正率」
となります。

 

路線価は、正方形や長方形の整形地をイメージした、あくまでも標準的な宅地を想定した価格を示すものです。
このため、土地の形状など、整形地より劣るそれぞれの土地の条件を減額するために、補正率を乗じて調整します。

 

路線価が上昇すると相続税が増える具体例

路線価が上昇すると相続税がどうなるか、具体的に数字で確認してみましょう。
被相続人が購入した時の路線価が、1平方メートル当たり30万円から、相続時には50万円に上昇したケースです。


土地は、幅が20mで奥行きが50mの整形地のため、評価額を計算する際は、補正率を1.0、つまり補正なしとします。

 

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路線価が上昇すると?

 

この例の場合、土地購入時の評価額は、3億円です。
評価額 = 路線価(千円/㎡)X地積(土地の面積:㎡)X 補正率
    =  300千円    X   1,000㎡    X  1.0
    = 300,000千円

 

一方、相続時には路線価が50万円に上昇したため、5億円にアップします。
評価額 = 路線価(千円/㎡)X地積(土地の面積:㎡)× 補正率
    =  500千円   X  1,000㎡ X 1.0
    =  500,000千円

 

つまり、路線価が約1.7倍になったため、評価額も約1.7倍に上昇です。

 

しかしながら、相続税への影響は、この上げ幅だけでとどまるとは限りません。
というのは、財産の金額によっては、相続税率が変わるからです。

仮に、相続税の課税対象がこの土地だけだとして、控除も基礎控除だけの場合を考えてみると、相続時の課税価格が3億円を超えるため、相続税率は45%から50%に上がります。
控除額があるものの、相続税額は約2憶円で、路線価上昇前の約1億円に比べ、2倍になることが分かります。

 

このように、路線価が上昇すれば、相続税を上げる影響がありますが、さらに相続税率にも影響する可能性があることに注意が必要でしょう。

 

路線価上昇の余波

 

路線価が上昇する背景には、時価の上昇があります。
時価が上がれば、固定資産の評価額もアップすることになります。

つまり、土地の相続人が毎年払う固定資産税も上昇します。

 

また、相続税額が増えれば、税金の支払いを考えなければなりません。
相続税は、原則として現金で支払う必要があります。

さきほどの例のように、相続税が1億円増えた場合、簡単に現金を工面できるでしょうか?
工面できなければ、金融機関からの借入や、最悪の場合は物納も検討しなければなりません。

 

このように、路線価上昇は、相続時だけでなく、相続後にも影響することになります。

 

まとめ

 

路線価が上昇したというニュースなどを耳にすると、評価額が上がって嬉しい気持ちにもなりますが、相続税に直接跳ね返る影響があります。
また、相続税率への影響も忘れてはいけません。

 

さらに、相続税は現金で納付しなければなりません。
相続時に納税資金が不足して、銀行融資や物納を考えなければいけないような、相続トラブルを防止するための生前対策にも、配慮が必要ですね。

 

vs-group.jp

節税と相続トラブル回避を実現した売却事例

不動産の遺産相続の節税方法を大胆に分けると、課税額の圧縮と、手持ちの現金や不動産売却で得た資金などを不動産に振り向けることと言えます。

この二つを組み合わせたものは資産の組み換えと呼ばれ、事業用資産の代表的な節税策です。

ブログの初回は、この資産の組み換えを利用して節税と収入アップ、さらに遺産相続時のトラブル回避策となった売却事例を紹介します。

 

相談内容と解決策

 

最初に、相談の内容と提案した解決策の要点の確認です。

 

■相談内容■

相談者は、妻と子ども二人の4人で暮らす65歳、男性です。
自宅としての家屋敷のほか、20年前から賃貸用の店舗と地続きの駐車場を所有し、賃貸用の不動産から得られる賃料収入を生活費に充てています。

 

悩みは、賃貸用不動産について、高額な相続税を支払わなければならない状況に加え、将来の遺産相続で二人の子どもがトラブルになりそうだということでした。

また、賃貸用の店舗は、契約上や収入の面から、簡単には売却できないという状況もありました。

 

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相談者の家族構成と資産


■解決策のポイント■

事業用資産の買換え特例を利用した、賃貸用土地の売却と、売却で得た資金による賃貸用マンションへの買換えです。

 

・譲渡所得の節税効果などにより、借金や投資も必要なしで、資産価値を保ちながら相続税評価額の大幅な減額を実現。
・この結果、相続税の大幅な減額に加え、区分マンションからの賃料収入を生活費として確保。
・さらに、将来の遺産相続時には、資産価値を保ったまま、子供二人が均等に分け合うことができる区分マンションも準備。

 

相談者も満足のいく結果となりました。

 

解決すべき課題の洗い出し

 

相談者からの説明や具体的な数字を確認していったところ、最大の課題は高額な相続税で、手持ちの預貯金では納税に不足することでした。

税理士に相談したところ、駐車場部分を売却処分して税金の支払いに充て、さらに不足分が生じた際は死亡保険金を充てるとのこと。

 

また、将来の遺産相続についても、課題がありました。

相談者は、自分の遺産相続の際、妻に自宅を譲り、子ども二人には残りの賃貸用不動産を相続させたいと考えていました。
ところが、賃貸用の不動産を均等に分割することは難しいため、子ども二人が遺産相続でトラブルになると、相談者は心配していたのです。

 

解決策の検討

 

解決策を提案するために、まず、賃貸用不動産の時価調査を提案しました。
なぜなら、実際の価値が分からなければ、具体的な解決策につながらないからです。

また、賃貸用不動産から得るべき賃料収入の期待額を検討するために、生活費に充てる金額がどの程度必要か検討することを、アドバイスしておきました。

 

不動産の調査結果

まず、賃貸用の土地は、相続税評価額が6憶円で、相続税は税率50%の約2億5千万円です。

 

時価については、信頼できる数社の不動産業者に情報を開示して調べてもらった結果、借家権を残したままの売却価格で最高4憶円の評価でした。

相続税の評価額が6億円に対し、時価が4億円であることから、過大な相続税となることが判明したのです。

 

ここで解決策として浮上したのが、「事業資産の買換え特例」の活用です。
この特例を利用するためには、面積や所有期間などについての様々な要件がありますが、幸い要件を満たしていることが確認できました。

 

この特例を利用すれば、相続税評価額が時価より高い(相続税評価>時価)の事業用不動産は、組み換えで節税効果が生まれやすくなります。

 

そして解決策へ

 

相談者に提案した「事業資産の買換え特例」を活用する具体的な解決策は、次のようなものです。

 

まず、賃貸用土地を時価の4億円で売却し、売却経費が1億円かかるとして、3億円の譲渡所得です。
3億円の譲渡所得に対しては、非居住用財産の長期所得税率20.315%がかかり、税額は約6千万円程度となります。

 

しかしながら、この特例を利用して、売却利益の3億円で賃貸用に区分所有マンションを購入すれば、譲渡所得を8割程度に減額することができます。

この結果、当初6億円の相続財産評価額は、買換え後のマンションでみると、評価額が1憶円以下になるため、相続税は3千万円程度まで下がります。

 

これは、土地と建物の評価額が、それぞれ30%、20%程度は時価よりも低く評価されることに加え、賃貸用では、さらに借地権割合と借家権割合をかけ算した額に減額される効果です。

 

提案した解決策による効果

 

解決策の実行により、資産としての価値を大きく変えないまま相続税の評価額を下げることができ、約2億5千万円の相続税を3千万円程度に減額できることになります。

 

また、区分所有マンションを2棟購入すれば、生活費に充てる賃料収入が確保でき、将来の遺産相続時には、子ども二人が1棟ずつ均等に相続することが可能になります。

 

相談者がこの解決策に納得してくれたため、連携している不動産会社を通じ、買換えが実現しました。

 

事業用資産の買換えで相続税を減らすことができる理由

 

減額できる理由は「事業用の資産を買い換えたときの特例」の仕組みにあります。

一定の要件を満たす事業用の資産を買い換えた場合、個人も譲渡所得の一部を、将来に繰り延べることができる制度です。

 

買換え価格が譲渡価格(売却価格)より低い(売却価格>買換え価格)場合、買換えた資産価格の80%相当額への課税が繰り延べされるため、大きく減額できます。

 

いつまで繰り延べされるか心配になりますが、買換えで取得した不動産への課税は、その不動産を売却するときまでありません。

 

売却事例の場合、4億円で売却した土地を、3憶円の区分所有マンションに買い換える場合の譲渡所得税は、マンション購入価格の8割強相当を差し引いた約6千万円への課税で済みます。

 

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事業用資産の買換え特例(売却価格>買換え価格)

 

まとめ

 

相続税評価額が時価より高い(評価額>時価)不動産の場合、買換えによって相続税を減額できる効果が高まります。
ただし、事業用資産の買換え特例の要件に該当するかどうか、十分確認する必要があることにご注意ください。

相続発生前の売却で、節税と収益性アップを実現した事例

相続税が高額になることが分かっていれば、相続が発生する前に対策も可能です。
不動産の相続税が高額になるのは評価額が高いためですが、時価と比べて評価額がかなり高い場合は、買換えにより大きな節税効果が現れる可能性が高まります。

 

今回は、相続が発生する前に、相続税評価額が高額な底地の売却によって相続税評価額を下げながら、収益性も上げることができた事例をご紹介しましょう。

 

相談内容と解決策

 

まず、相談者からの依頼内容と、提案した解決策のポイントを確認しましょう。

 

■相談内容■

 

相談者は、妻と2人で暮らす67歳の男性と、その長男です。
子どもは長男一人で、近くに別世帯を構えて夫婦二人で暮らしています。

 

相談者はいわゆる地主で、自宅のほか、アパートや駐車場、底地など多くの不動産を所有しています。
遺産相続が発生したら長男に財産を譲る予定でしたが、相続税を計算したところ、総額3億円。

これに慌て、新たな投資や借金をすることなく、節税できないかというのがご相談の内容です。

 

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相談者の家族構成と資産

 

■解決策のポイント■

 

評価額を調査した結果、相続税の総額が3億円の資産の中で、底地が最も評価額を押し上げていることが判明。
底地は、住宅用に貸し付けているもので、1区画当たり平均30坪のものが20区画もあります。

 

信頼のおける不動産会社に依頼して調査したところ、底地の時価は約2億5千万円で、相続税評価額4億2千万円を大きく下回っていました。

 

そこで、底地を一括で売却し、その収入をもとに相続税評価額が低い不動産への買い替えを提案。
この際、収益性をアップさせるために、収益性の高いものを選ぶことを併せて提案しました。

 

解決すべき課題の洗い出し

 

調査で洗い出された課題は、底地の高額な評価額と時価との乖離、また、低い収益性の解決であることが判明しました。

 

調査結果

 

底地を調べていくと、相続税評価額が4億2千万円と高額にもかかわらず、時価は約2億5千万円。
さらには、収益性が低い状態で、利回りで言えば約1%、年に500万円程度しかありません。

 

底地とは?

 

貸地や貸宅地とも呼ばれますが、土地に借地権が設定されている状態の土地が底地です。
底地の所有者は、土地を貸すことによって地代収入を得ています。

 

底地と借地は、混同しやすいですね。


底地は地主の権利、借地は土地を借りる人の権利で、賃借人と賃貸人のどちらか見た状態を表すかによって、呼び方が変わります。

 

解決策の検討

 

相続税を減額するとともに、資産価値を上げる方法として、不動産の買換えがあります。

買い換えの際には、広い面積でも価値が低い不動産を、狭くても価値が高く、収益がアップする不動産を選ぶと、買換えの大きな効果が期待できます。

 

評価額だけが高い不動産を所有していても、収益性が低ければ、固定資産税や維持費がかかるばかりですから、資産価値が低いと言えます。

 

事例における検討の視点

 

相続税評価額と時価が大きく乖離している場合、時価から見た資産価値を大きく変えずに、評価額の低い不動産への買換えが、有効な解決策になることがあります。

この事例では、底地の評価額が高額で、しかも収益性が悪いところに着目し、相続発生前の買換えを前提としました。

 

買い換えの条件として、
・評価額を減らすために売却価格よりも購入価格が低い不動産を選ぶ
・新たな投資や借金をせずに買い替えるために、買換えの費用を抑える
これが前提です。

 

解決策とその効果

 

売却価格よりも買い換える不動産の購入価格が低ければ(売却価格>購入価格)、評価額の低い不動産への組み換えを、より効果的に行うことができる解決策があります。

それが、事業用宅地の買換え特例の利用です。

 

要件に該当して利用できれば、買換えに伴う譲渡所得税を8割程度軽減できます。

ただし、この特例を利用するための要件に該当するかどうかは重要なポイントですから、慎重に検討しました。

 

解決策の効果

 

相続税評価額4億2千万円の底地を一括で、評価額の約60%程度に相当する約2.5億円で不動産業者に売却し、約2億円で利回り7%と収益性の高い賃貸マンションに組み替えです。

 

この事例では、特例の要件に該当したため、有利な条件で買換えが実現しました。
その有利な条件とは、譲渡所得税が8割程度軽減できることで、新たな投資や借入も一切必要なしで、組み換えが実現しました。

 

その結果、相続発生前に、4億2千万円相続税評価額は約2億円と半分以下とすることができ、収入も3倍以上の資産に生まれ変わったのです。

 

事業用資産の買換えで相続税を減らすことができる理由

 

相続税を減額できる大きな理由は、「事業用の資産を買い換えたときの特例」による譲渡所得税の節税にあります。

個人でも、一定の要件を満たす事業用の資産を買い換えた場合、譲渡所得の一部を将来に繰り延べることができる制度です。

 

譲渡価格(売却価格)が買換え価格より低い場合、買換えた資産価格の8割程度分の課税が繰り延べされるため、大幅な減額となります。

 

逆に言えば、買い換えに多額の譲渡所得税がかかる場合は、追加投資や借金なしでのスムーズな組み換えが難しいと言えます。

 

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事業用資産の買換え特例(売却価格>買換え価格)

 

高額な土地への買換えの場合も、譲渡所得を大幅節税

 

「事業用資産の買換え特例」は、他の不動産や手持ち資金などを、より資産価値の高い不動産に集約するようなケースでも効果があるでしょうか?

 

紹介した事例は、売却価格よりも買換え価格が低い(売却価格>買換え価格)ケースですが、特例が利用できれば、逆の場合も大きな節税効果があります。


特例の要件に当てはまる場合は、譲渡所得が80%程度軽減できるのです。

通常、譲渡所得は、売却価格から売却時の必要経費を差し引いた額(売却価格-必要経費)ですが、どちらも20%だけが税額計算の対象です。

 

たとえば、売却価格が3億円、購入価格が5億円の買換えで、必要経費が1億円なら、2億円の譲渡所得となるところ、特例が適用されると4千万に下がります。

 

なお、相続税の評価額がどの程度アップするか、あるいは低くできるかなどを確認しながら検討することをお忘れなく!

 

 

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事業用資産の買換え特例(売却価格<買換え価格)

 

まとめ

 

借地権付きの底地は、売却できないと思っている方も多いことでしょう。

 

継続して貸し付けている場合は、改めて考えることも少なく、そのままにしているケースが多いと思われます。
これは、事例のような底地だけでなく、他の不動産についても同じことが言えます。

 

相続発生前に行う不動産の組み換えにより、相続時に大きな節税効果を発揮することが期待できます。

ただし、相続税評価額や時価、特例の要件なども調べた上での検討が重要です。