相続人の死亡日によって相続人の数が変わる?代襲相続と数次相続

 

相続した不動産を売却したいと思ったときに、長期間に渡って名義変更手続きを放っておくと、手間取ったり、支障が生じたりしやすくなったります。

 

今回は、寄せられる相談の中でも特に多い、相続未登記の不動産を売却するために必要な、相続手続きに関する問題やトラブルについて紹介します。

 

売却前には、不動産登記の所有者について、亡くなった人から名義を変更する手続きを行っておく必要があります。

 

この際には、相続したことを証明する様々な添付書類を提出する必要があるのですが、取得や準備に手間取る事態が発生しやすくなるのです。

 

また、相続が発生してから登記申請までの期間が長くなれば、相続人も死亡して数次相続が発生することがあり、相続関係が複雑化します。

 

今回のブログでは、相続登記を放置したケースについて、売買契約前に必要な相続手続きや、その際に発生しやすいトラブル、数次相続が発生した場合の問題点を紹介します。

 

相続登記を放置していた不動産、売却したい場合の問題点

 

相続登記、いわゆる名義変更を行っていない不動産は、そのまま売却することができません

 

所有者が亡くなった後に、固定資産税の支払いや管理を行ってきた場合でも、登記簿上で所有者になっていなければ、売買契約の売主になることはできません。

 

登記申請するためには相続手続きが必要

 

相続した不動産を売却する際は、事前に相続登記を行って、登記簿上の所有者を相続した者に変更しておく必要があります。

 

この相続登記の申請手続きを行うためには、相続手続きを最初から行わなければなりません。

つまり、遺言書の有無や相続人の調査、相続人全員による遺産分割協議などの相続手続きを行って、申請手続きに必要な書類をそろえる必要があるのです。

 

相続発生から長期間が過ぎると相続関係が複雑化

 

相続登記をしないまま長い期間が経過した場合、相続人も歳を取り、世代交代も進んでいきます。

こうなると、戸籍から相続人をたどっていく相続人調査は、難航することが多くなります。

 

相続人が亡くなっている場合は、子孫が相続することになり、血縁関係の遠い相続人が加わるだけでなく、相続人の数が増えることになります。

 

また、相続人が、相続発生より後に死亡した場合は、新たに別の相続が発生する数次相続の状態になり、相続関係は複雑さを増していきます。

 

複雑化した相続関係では遺産分割協議が成立しにくい

 

名義を変えないまま放置した不動産は、いざ相続登記をしようと思っても、このように複雑化した相続関係になると、遺産分割協議が成立しにくくなる傾向にあります。

 

代襲相続数次相続が発生すると、兄弟姉妹の子孫など、会ったこともない、住んでいる場所も知らないなど面識のない相続人たちと、遺産分割協議を行わなければならない状況も発生します。

 

また、遠方や国外に住んでいるケースや、連絡がつかないケース、わずらわしい協議に関心が得られないケースなど、遺産分割協議を始めることができない事態も発生します。

 

このような状況で、遺産の分け方の話し合いがスムーズに進むことが想像できるでしょうか?

 

代襲相続と数次相続の違い

 

名義を変えないまま放置した不動産は、いざ相続登記をしようと思っても、相続関係が複雑化してスムーズに進みにくいことを紹介しました。

 

中でも、代襲相続と数次相続は、正確に判定しなければなりません。

似ているようにも思われますが、相続人に違いがあるため、どちらに該当するのか戸籍から見極める必要があります。

 

代襲相続

 

代襲相続は、相続が始まった時点において、相続人となるべき者がいない場合に、相続人の代わりにその子孫が相続できる制度です。

 

単純に言えば、被相続人が死亡した日よりも前に相続人が死亡している場合、その子が代わって相続できる仕組みです。

 

たとえば、夫が死亡して被相続人となる場合、それ以前に子が亡くなっているケースが該当します。

孫がいれば、子に代わって孫が相続できます。

 

なお、代襲相続が発生する原因は、相続人の死亡が最も一般的ですが、相続人として相応しくない「欠格」者、相続から廃除された者にも代襲相続が発生します。

 

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代襲相続の例

 

数次相続

 

数次相続は、相続が発生した後であって、しかも遺産分割協議や相続登記を済ませる前に相続人が死亡して、別の相続が新たに発生してしまうことを指します。

 

先ほどの例で言えば、夫が死亡して相続が始まり、妻と子が相続人になったものの、相続登記を済ませる前に子が死亡した場合が該当します。

 

孫が、子の財産を相続することになるところは、代襲相続と同じです。

しかしながら、子の財産を相続するのは、配偶者と孫となる点で、代襲相続とは異なるのです。

 

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数次相続の例

 

代襲相続か数次相続かの判定方法

 

相続が発生してから長期間が過ぎた後で相続人を確定する際には、相続人が死亡している場合でも、代襲相続か数次相続を見分けなければなりません。

 

すでに確認したとおり、代襲相続と数次相続では対象となる相続人が異なり、数次相続に該当すれば、さらに相続人の数が多くなる可能性もあるのです。

 

被相続人の死亡日と相続人の死亡日との前後関係で判定

 

代襲相続と数次相続は、被相続人の死亡日と相続人の死亡日を比べ、どちらが先かで判断します。

相続人の死亡が先なら代襲相続、相続人の死亡が後なら数次相続です。

 

相続関係説明図を作成すると効果的

 

代襲相続か、あるいは数次相続かを見分けるには、相続関係説明図を作成する方法が効果的です。

図で具体例を確認しましょう。

 

先に死亡した兄に代襲相続、後で死亡した弟に数次相続の例

 

被相続人の死亡日は、2000年1月1日です。被相続人は未婚であったため、配偶者と第一順位の子がいません。

また、第二順位の両親はすでに死亡していて、相続人には該当しないとします。

 

この場合は、第三順位の兄弟が相続人ですが、兄は10年前の1990年1月1日に死亡しています。

このため、兄には代襲相続が発生し、兄の子aと子bの2人が相続します。

ちなみに、兄の妻は相続人ではありません。

 

また、被相続人となる弟は、相続発生から10年後の2010年1月1日に死亡したとします。

この場合、弟には数次相続が発生することになり、弟の妻と子c、子dの3人が相続人に加わることになります。

 

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【例】代襲相続と数次相続による相続人の違い

まとめ

 

被相続人の死後、長期間にわたって相続登記を放置した不動産を売却する場合は、要注意です。

相続手続きが終わらない限り、売却契約を交わすことができません。

 

相続人が行方不明で連絡がつかないケースや、相続人の住所が分かっても反応が得られないケース、遺産の分け方に合意が得られないケースなど、様々なトラブルが発生しやすくなります。

 

このようなケースに該当する場合は、自分で処理することが難しいため、専門家に相談しながら進めることをおすすめします。

不動産の相続登記は、できるだけ早めに済ますことが得策です。

相続未登記の農地を借りて一時転用できた事例

所有者が分からないまま放置されている家屋や土地の存在は、地域の円滑な経済活動に支障を及ぼすケースが目立つようになっています。

 

所有者が死亡して名義変更されていない土地は、売買や貸借などの対象にできないケースが多く、有効に利用されないまま放置されていることも珍しくはありません。

 

今回のブログでは、工事を行うために一時的な設備の設置場所を確保するため、相続未登記の農地を借りて一時転用できた事例を紹介します。

 

今回のブログでは、所有者が不明な場合の連絡方法と、相続未登記の土地を借りることができる相手、農地の一時転用申請に添付しなければならない書類の3つがポイントです。

 

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相続関係説明図

■相談の内容■

 

相談者は地元の建設業者の方で、建設資材置き場として、工事用地に隣接する耕作されていない農地を借り受けたいとのご相談です。

 

所有者は分からないが、ほかに代替地が無いため、どうしても借り受けたいので調べてほしいというものです。

 

■相談者への提案■

 

所有者と連絡が取れない農地の貸借は、大きく三つの問題をクリアしなければなりません。

一つ目は所有者と連絡が取れるかと、二つ目は農地として転用可能かということです。

 

そして、さらに大きな問題が相続未登記ではないかということです。

 

すべてを調べ上げるには時間がかかること、また、必ずしも借り受けられる保証がないことを説明しつつ、それぞれの調べ方を提案しました。

 

ほかに代替地が無いため、可能性がゼロでなければ調べてほしいとの回答であることから、調査と手続きに着手することとなった次第です。

 

所有者が分からない土地の連絡先を調べるには?

 

荒れ地になっているなど、不作付け地や荒廃地を借りたいケースでは、連絡を取るべき相手が分からないケースが多く見られます。

他出した所有者一家に代わり、地元に残る親族や知人が窓口になっていたものの、世代交代が進んで疎遠になれば機能しなくなる傾向にあります。

 

地番を探し出して登記情報を取得する

 

所有者の連絡先を知る親族や知人がいなくなれば、通常は連絡の取りようがありません。

そんなケースでは、登記情報または登記簿謄本を取得して、所有者の住所・氏名を確認することから始めます。

 

登記情報は、土地の地番さえ分かればインターネットから容易に得ることができます。

 

しかしながら、地番が分からない場合は、住宅地図で見当をつけ、登記所に備え付けられているブルーマップから地番を探し出す作業が必要になります。

 

ブルーマップは精密なものとは言えませんが、住居表示が黒字、公図と地番が青字で表記されていて、だいたいの地番を調べることができます。

 

地番を探し出したら、その地番の土地が描かれている公図を取得します。

公図には、最近の測量によって作成された「14条地図」と、旧土地台帳付属図面とも呼ばれる「14条地図に準ずる図面」の2種類あります。

 

「準ずる図面」は、明治の地租改正時に測量された地図をもとにしたもので、いわゆる「縄伸び」や正確な形状を示していないものなどもあり、現状に合わない部分が多く見られます。

 

知りたい土地の地番は、公図と住宅地図を見比べ、道路との位置関係や土地の形状や大きさから探し当てます。

 

登記情報の所有者に連絡

 

登記情報を取得すれば、最新の所有者について住所と氏名が確認できます。

 

ただし、登記簿の住所は登記した時の住所であり、その後に転居した場合でも、所有者が住所変更登記を怠っていれば反映されません。

 

また、世代交代が進み、所有者が死亡している場合がありますが、相続登記、いわゆる名義変更手続きが行われていなければ、相続人全員の共有状態です。

 

本題からそれてしまいますが、この2つが所有者不明土地の大きな発生要因となっています。

 

しかしながら、公的に得られる情報はここまでですから、登記情報に記載された住所と所有者名から連絡先を探し当てることになります。

 

農地の場合、近隣農家や地区担当の農業委員、管轄する農業委員会から連絡先に関する情報を得られるケースもあります。

 

また、連絡先について情報が得られなければ、住所地への訪問や、郵送で返信を依頼する方法があります。

 

なお、郵送の場合、特定記録郵便などの配達を確認できる方法で送り、切手を貼った返信用の封筒を入れておくと、返信の確率があがります。

 

所有者が死亡して相続未登記の土地を借すことができるのはだれ?

 

登記情報で確認した所有者本人と連絡を取ることができれば、土地を借りたい相談もスムーズに進むケースが多いことでしょう。

しかしながら、登記情報の所有者が死亡して相続未登記の場合、賃貸借契約に印鑑を押せる本人が実在しません。

 

相続未登記の土地を借すことができる相手方

 

所有者が死亡して相続未登記の土地は、相続人全員がそれぞれの相続分で権利を持っています。

したがって、相続未登記で所有者が確定していない土地でも、相続人全員の承認があれば、借りることができます

 

この先を進めるためには、戸籍の調査が必要になります。

調査を進めるためには、相続人のうち一人と連絡が付き、その相続人から依頼を受けることが最低限必要な条件です。

 

相続人探し

 

ただし、戸籍を調べて相続人全員を特定する必要があります。

つまり、相続登記の手続きと同様、まず、死亡した所有者の出生から死亡までの戸籍を取得し、そこから順に相続人をたどっていく作業が必要です。

 

また、相続のために戸籍を取得できるのは、相続人あるいは相続人から依頼を受けた専門家に限定されますから、注意が必要です。

 

相続人全員から承認を得る

 

相続人探しが終わったら、相続人全員の連名方式で土地の賃貸借契約書を作成し、記名と実印での押印を依頼します。

 

農地を転用できる条件と手続き

 

農地を借りるためには、所有者の承諾、あるいは相続人全員の承諾のほかにも、農地を転用できるかという問題があります。

 

農地は、他の土地と異なり、農地法による規制があるため、転用不可能な農地であれば手続きを進めることができません。

 

転用可能な農地か確認

 

転用可能かどうかについては、あらかじめ管轄する農業委員会に相談しておく必要があります。

 

農地を転用するためには、農振農用地の指定から除外可能なことに加え、農地以外の目的に利用できない区域に該当しないことが必須の条件です。

 

農振農用地に指定されている農地の場合、除外を申請する手続きがありますが、すべてのケースで認められるわけではありません。

また、認められるケースでも、許可されるまでに長期間を要することが一般的です。

 

単純に言えば、農振農用地に指定されておらず、第3種または第2種農地に分類されている場合は、転用の可能性があると言えます。

 

農地法第5条許可申請

 

転用できる可能性がある農地なら、管轄する農業委員会に農地法第5条許可申請手続きを行って、審査を受けます。

 

知事決済のこの許可が下りれば、転用が実現できることになります。

 

農地の転用許可申請は、相続人であることを証明する戸籍などを添付

 

所有者が死亡している相続未登記農地の転用手続きは、極めて稀なケースと言っても過言ではありません。

土地の賃貸借契約同様、権利関係を確認しながら、手探りで手続きを進めることになります。

 

相続人全員が賃貸人側の申請者

 

通常、許可申請は、賃貸人と賃借人が連名で手続きを行います。

しかしながら、土地の所有者は死亡していますから、所有者に代わり相続人全員が相続分の権利を持つ状態で申請を行うことになります。

 

添付書類

 

相続人全員が賃貸人側の申請者となるため、所有者の相続人であることを証明する書類の束を添付しなければなりません。

 

具体的には、死亡している被相続人と相続人全員の関係を示す「相続関係説明図」、これを証明する全員の戸籍や戸籍の附票、印鑑登録証明書が添付書類です。

 

申請者は合計8名の相続人となったため、申請書とは別に賃貸人を連名で記した様式を用意し、全員が住所、氏名、職業を記載して、実印を押印します。

 

相談者への提案と解決

 

調査を進めたところ、死亡している所有者の相続人と連絡がつき、転用可能な農地と考えられることが判明しました。

 

さらには、相続人全員とも連絡が取れ、あわせて承諾を得られたことから、農地法第5条の許可申請を行う手順ことができました。

 

この事例では、様々な課題をクリアしながら進める必要があったため、相談者には逐次報告と提案を行いながら手続きを進めました。

 

この結果、「運よく」一時転用許可にたどり着いたというのが、今回の結果です。

 

まとめ

 

農地の転用手続きだけでも、かなり難関です。

今回は、これに加えて所有者不明、相続未登記という大きな問題がある農地でしたから、当初は実現困難かと思われました。

 

「運よく」実現に至りましたが、今回のように上手く行くケースは稀と考える方が良さそうです。

 

自宅以外の不動産、より有効利用するには生前贈与?それとも相続が得かの検証事例

財産を不動産として所有する方法は、現金や預貯金として保有することに比べて評価額が下がるため、相続税対策として有効です。

 

しかしながら、所有する不動産の相続については、亡くなった方の自宅を同居の親族が相続する場合などを除くと、相続税額をさらに下げる節税は期待できません。

 

また、生前贈与についても、夫婦間の自宅贈与なら非課税枠が利用できるものの、それ以外のケースでは所有している不動産の贈与税軽減は期待できません。

 

今回のブログでは、所有する不動産について、相続税額を下げるというよりも、より有効活用する視点から、生前贈与と相続を比較した事例を紹介します。

 

■相談内容■

 

相談者は、2人の子が数年前に独立し、ご自身は年金を満額受給できる年齢になった女性です。

3カ所のセカンドハウスがあり、そこから得られる賃料収入は、生活にゆとりを与えてくれています。

 

2年前の夫の他界を機に、不動産全てを自分名義に相続登記したのですが、この先遅かれ早かれ発生する自分の相続について思案するようになりました。

 

いろいろ考えた結果、自分一人で生活するための収入に不安はないため、セカンドハウスを子どもに生前贈与したいとのアイデアをお持ちです。

 

というのも、子は開業したばかりで資金が必要な状態にあるため、不動産を贈与すれば、子がそれを担保として資金融資を受けることや、売却による資金化も可能とお考えです。

 

つまり、さらなる節税策を考えたいというよりも、所有する不動産をより有効に活用する方法として、生前贈与を選びたいが得になるだろうかとのご相談です。

 

また、不動産を生前贈与しておけば、相続時の財産が減るため、相続税を減らす対策にもつながるだろうと想像しています。

  

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家族構成と財産

■ご提案■

 

親から子や孫への生前贈与は、年に110万円の暦年贈与や住宅資金の贈与、相続時精算課税制度などの節税策がありますが、不動産そのものを贈与する場合は税軽減の対象になりません。

 

まず、不動産そのものを贈与する方法は、選択肢から除外することを提案しました。

 

セカンドハウスを生前贈与する方法として、売却して現金を贈与することが考えられますが、売却に伴う税金や費用が発生するため、必ずしも節税につながるわけではありません。

 

選択するかどうかを判断するためには、生前贈与と相続の場合で税額や費用がどれくらいになるかを、具体的に比較することが重要です。

 

このため、一定の仮定を置きながら、それぞれの額についてシミュレーションを行って比較することを提案しました。

 

また、シミュレーションの結果から、収益性の低い2か所の不動産を売却し、その収入で費用や税金を賄いながら、非課税枠を利用する生前贈与を提案しました。

 

結果的に、余計な負担もなく、ご相談時に考えていたアイデアが実現できることになり、満足していただけるものとなりました。

 

不動産そのものの贈与は選択肢から除外を提案

 

居住用不動産やセカンドハウスを取得すれば、評価額が市場価格の7~8割に下がるため、現金で保有することに比べ、有効な相続税対策です。

 

しかしながら、不動産そのものを贈与する場合は、親子間なら税率が多少下がるほかには、特別な節税策がありません

 

ちなみに、親から子への不動産贈与にかかる贈与税は、不動産の評価額が2,000万円の例で見ると、基礎控除110万円を差し引いた後の額に45%を乗じ、贈与税の控除額265万円を差し引いた額になります。

 

評価額が2,000万円の不動産を贈与すると、約586万円と高額の贈与税がかかることになります。

贈与税 = ( 評価額 - 基礎控除 ) × 45% - 控除額

= ( 2,000  - 110   ) × 45% - 265 

=  585.5

 

まず、不動産全てを相続した場合に相続税がどれくらいになるか確認

 

生前贈与と相続を比較するためには、相続税の総額を知っておくことが大切なため、まずは全ての不動産を相続発生まで所有することを前提にシミュレーションします。

 

相続税を計算するための不動産は、自宅と賃貸用を合わせ4種類で、評価額は次のとおりです。

 

自宅マンションが2,500万円、賃貸用のマンションが2,000万円、以前住んでいた自宅マンションが1,800万円、相続した戸建住宅が1,500万円で、合計7,800万円です。

 

相続人が同居していれば、居住用と賃貸用の土地の評価額が減額される「小規模宅地等の特例」が適用できます。

 

この特例は、相続財産のうち、要件を満たす敷地のうち限度面積までの部分について、評価額から80%または50%減額できる制度です。

 

相談者の場合は、相続人である子ども二人がそれぞれ自宅を取得して独立しているため、適用できない状況が続くと仮定します。

 

また、不動産以外の財産として、月々の生活費と予備費を含め、300万円の現金を所持していたと仮定します。

 

相続税の基礎控除は、子二人が法定相続人となるため、固定額3,000万円と相続人それぞれ600万円ずつを加えて、合計4,200万円です。

 

この結果、相続税の課税対象となる額は、不動産の評価額から基礎控除を差し引き3,900万円です。

相続の課税対象額 =      相続時の財産         - 基礎控除

         =   現金300 + 不動産評価額7,800  -  4,200

         =     3,900万円

 

相続税の総額は、課税対象額を法定相続分で相続した場合の税額を計算し、合計する方法で求めます。

子一人の法定相続分は、合計の2分の1ずつですから、それぞれ1,950万円が課税対象額です。

 

それぞれの相続税額を計算すると、相続税率が15%控除額が50万円のため、243万円です。

それぞれの子の相続税 = 1,950万円 × 15% - 50万円

           = 243万円(1万円未満は四捨五入)

 

この結果、相続税の総額は、法定相続分で求めた相続税額を2倍して486万円となります。

 

一部を売却して相続税を減額し、売却利益を贈与するシミュレーション

 

不動産全てを相続発生まで所有し続けた場合は、相続税の課税対象額が3,900万円、税額は486万円でした。

 

次は、計算の対象とした不動産のうち、収益性の低い2種類を生前に売却するケースのシミュレーションです。

 

収益性の低い2種類の不動産を売却したときは相続税が下がる

 

相続した1,500万円の戸建住宅と、以前住んでいた1,800万円の自宅マンションについて、生前に売却した場合の相続税を計算します。

 

相続発生時に残る不動産の評価額は、自宅マンション2,500万円、賃貸用マンション2,000万で合計4,500万円です。

 

現金と基礎控除は同じ条件で計算すると、相続税の課税対象額は600万円です。

 

相続の課税対象額 =      相続時の財産         - 基礎控除

         =   現金300 + 不動産評価額4,500  -  4,200

         =     600万円

 

相続税の額は、法定相続分で相続した額について計算することになりますから、子はそれぞれ2分の1で一人につき300万円が課税対象額となります。

 

子一人当たりの相続税は、税率10%で控除はないため、30万円です。

それぞれの子の相続税 = 300万円 × 10%

           = 30万円(1万円未満は四捨五入)

 

したがって、相続税の総額は、法定相続分で求めた相続税額の2人分の60万円となります。

 

相続税は下がっても、同程度の売却費用と税金がかかる

 

相続前に収益性の低い不動産を処分することによって、相続税額を486万円から60万円に減額することが可能です。

 

しかしながら、売却時には税金や費用がかかるため、相続税の減額分より大きくなるようであれば、生前贈与を選んでも特にはなりません。

 

売却時にかかるのは、譲渡利益が出た場合の譲渡所得税と、不動産業者に支払う媒介手数料です。

 

媒介手数料は、次の式で上限額を知ることができます。

媒介手数料 = 売却価格 × 3.24% +64,800円

 

また、譲渡所得税は、売却で得た収入から、取得時の費用や売却するために要した費用を差し引いた残り、つまり利益があればかかることになります。

税率は、5年以上所有していた場合で20.315%、5年未満の場合で39.63%です。

 

売却価格がそれぞれの評価額程度と仮定して計算すると、売却収入は3,300万円で、媒介手数料に最大113万円程度かかります。

また、譲渡所得税は、一定の仮定に基づいて計算すると約290万円となります。

 

なお、一定の仮定は以下のとおりです。

・税率20.315%

・以前の自宅マンションは、取得価格と売却価格が同じで譲渡による所得ゼロ

・相続した戸建は、評価額と同額で売却し、売却経費は売却価格の5%

 

この結果、2種類の不動産を売却する際は、相続税が426万円程度下がる代わりに、仲介手数料と譲渡所得税で合計400万円程度の出費が見込まれることになります。

 

見方を変えると、生前贈与するために不動産を売却する場合も、相続によって与える場合も、かかる税や費用の合計額にそれほど大きな差がないことになります。

 

なお、収益物件の売却を行う場合、不動産会社への支払いや固定資産税がなくなる一方、家賃収入がなくなるため、一般的には収支に影響が現れます。

 

このケースでは、家賃を、固定資産税と維持管理費用、管理会社への支払額の合計額としているため、所有するにしても売却するにしても、実質的な収支への影響は考慮しなくて済みました。

 

家賃 = 固定資産税 + 維持管理費用 + 不動産管理会社への支払額

 

売却から得られた利益は、非課税枠を使って贈与

 

この売却で得られた現金は、非課税で生前贈与することができます。

子にしてみれば、相続税の負担が少なく、早い段階から遺産の恩恵を受けることができることになるわけですから、感謝されることでしょう。

 

したがって、不動産の売却収入を非課税で生前贈与すれば、相続時まで不動産をそのままにしておくことに比べ、損もせず、より有効に活用できると言えるのです。

 

非課税で生前に贈与する方法としては、目的や相手を問わない年間110万円までの暦年贈与が良く知られています。

 

また、相手や資金の使用目的は限定されるものの、最大1,200万円まで非課税の住宅取得資金贈与や、1,500万円まで非課税となる教育資金贈与などがあります。

 

なお、2,500万円までの贈与が相続時に一括して精算される相続時精算課税制度もありますが、生前の贈与額が相続時の財産額に加算されるため、このケースでは得策ではありません。

 

相談者への回答

 

相談者へは、ここまでのシミュレーションの結果を説明し、不動産を売却して得られた現金を贈与する方法をとれば、相談者のアイデアが実現することを説明しました。

 

また、生前贈与の方法としては、暦年贈与と住宅取得資金贈与の組み合わせを提案しました。

 

シミュレーションでは、売却価格を評価額程度と仮定しましたが、売り急ぎさえしなければ、一般的に評価額より3割程度高い市場価格での売却が可能です。

 

売却の手間はあるものの、相談者の意向を反映した不動産の有効活用が可能となるため、満足していただくことができる結果となりました。

 

まとめ

 

生前贈与は、必ずしも節税につながるとは限りません。

生前贈与が得か、あるいは相続発生までそのまましておく方が得かなどは、具体的に数値化した上で判断することが重要です。

 

なお、数値化する際は、売却価格や将来の税率、さらにはご自身や家族の寿命など、様々な仮定を置くことになります。

このため、比較には限度があることを知った上で、比較や検討の目安として利用することが大切です。

 

正確な税額や費用については税務署や税理士に、また、売却のための賃貸借契約解除などについては不動産会社などに相談することをお勧めします。

相続前に行う、身近な人が亡くなったときに必要な手続き

身内が亡くなると、通夜や葬儀をはじめ、初七日、四十九日など、法要や遺品の整理、遺産の分割など、すべきことが様々あります。


そのなかでも、相続の有無にかかわらず、行わなければならない手続きがあります。
最初に行うべき重要な手続きは、死亡届の提出です。

 

今回は、相続手続き以外にすべき手続きや、死亡届の書き方について、紹介しましょう。

 

身近な人が亡くなったら、すぐに行う手続き

 

まず、身近な人が死亡した時に行うべきことを、まとめて確認しておきましょう。

 

■7日以内■

 

亡くなった日から7日以内に、死亡地や本籍地、住所地のいずれかの市区町村に、死亡届を提出します。
この時、同時に死体火・埋葬許可申請書も提出します。

 

年金については、速やかに社会保険事務所での受給停止手続きが必要です。
なお、国民年金の場合は、市区町村で14日以内に手続きを行います。

 

■14日以内■

 

介護保険資格喪失届、住民票の抹消届(通常は死亡届と連動)、世帯主の変更届(3人以上の世帯)を、市区町村に提出します。

 

身近な人が亡くなったら、早めに行う手続き

 

運転免許証やパスポートは、早めに警察署や都道府県の旅券課に返却します。
また、携帯電話や公共料金、プロバイダー、介護サービス、給食サービスなどの契約サービスついても、死後速やかに、それぞれのサービス契約先に連絡して解約します。

 

葬儀費用の補助、高額医療費の払戻し、年金の一時金など、遺族への支給手続きは、該当する会社や行政機関に、2年以内に請求します。
また、高額医療費の申請が可能な場合は、故人の健康保険組合や社会保険事務所、市区町村に提出します。

 

提出書類は、国民年金の死亡一時金請求書、健康保険埋葬料請求書、埋葬費の付加給付金請求書など各種あります。

支給手続きや書類は、健康保険組合などへそれぞれ照会してください。

 

市町村や社会保険事務所、健康保険組合への資格喪失届などを提出する際に、一緒に確認すると良いですね。

 

身近な人が亡くなったら、状況に応じて行う手続き

生命保険の死亡保険金や雇用保険、労災などは、それぞれで状況が異なりますが、該当する場合は手続きが必要です。

 

雇用保険を受給していた場合は受給資格者証を、1カ月以内にハローワークへ返還します。
自営業や年収2千万円以上の給与所得者であった場合は、住所地の税務署への所得税準確定申告・納税手続きを、4カ月以内に行います。

 

相続が前提になる手続きもある

 

故人が生前に所有していた不動産や動産などの相続財産のほか、契約していたサービスなども場合によっては、相続財産とみなされるものがあります。

また、名義変更には、遺産相続の手続きが前提になるものが多く、契約サービスなどを解約する場合も、未精算の料金や残債などあれば相続財産扱いです。

 

相続財産に該当するものは、遺言の執行や遺産分割協議の後で手続きを行うことになるため、ご注意ください。

 

死亡届の届出と記載事項

死亡届は、死亡を知った日から7日以内に、死亡地か本籍地、住所地のいずれかの市区町村に提出します。

手続に必要なものは、死亡届のほか、医師の死亡診断書あるいは警察による死体検案書、届出人の印鑑です。

 

なお、死亡届出書の様式は市区町村で入手しますが、死亡診断書(死体検案書)と一体です。

また、提出は葬儀社からの代理提出も可能で、国外にいる場合の提出期限は、3カ月以内とされています。

 

提出時間は、通常24時間受け付けてくれますが、埋葬許可書を発行してもらう必要がありますから、市区町村役場が開庁している時間が望ましいでしょう。

 

死亡届のポイントについては、表を参考にしてください。

 

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死亡届のポイント

 

■届出人(届出義務者等)■

 

水難や火災などで死亡者の身元が不明などのような特別な場合を除き、同居する方や家主、地主、家屋や土地の管理人は、死亡を届け出る義務があります。
これらの方なら、どなたでもかまいません。

また、届け出の義務がない方でも、親族や後見人、保佐人、補助人、任意後見人は、届け出を行うことができます。

 

なお、水難や火災などの災害で身元不明、死刑執行、刑事施設収容中に死亡して引き取り手がいない場合などは、取り調べをした官公庁や、刑事施設の代表者が、届け出の義務を負います。

 

■届出時期■

 

特別な場合を除き、届出の義務を負う方などは、死亡の事実を知った日から7日以内に届け出なければなりません。
なお、死亡地が国外の場合は、死亡の事実を知った日から3ヶ月以内に延長されます。

 

■届出地■

 

特別な場合を除き、死亡した方の本籍地または提出者の所在地が、基本的な届出地です。
なお、国外で死亡した場合は、本籍地に届け出ます。

 

以下は、特殊な場合の届出地です。


災害などによる死亡の場合は、死亡した場所に届け出ることになります。

死亡地が明らかでないときや移動中の場合は、死体が最初に発見された場所、交通機関で移動中は、死体を降ろした場所、航海日誌を備えていない船舶は最初の入港地となります。

また、死亡者の本籍が明かでない場合や、死亡者を認識することができない場合は、警察署から死亡地に報告することになります。

なお、さらに特殊な事例として、死刑の執行や、刑事施設に収容中死亡して引取人がない場合は、施設の所在地が届出地になります。

 

■記載事項■

 

死亡届に記載する事項は、戸籍法施行規則により次のように定められています。

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出典:法務省「死亡届の様式」
「届出人」

届出人については、
① 届出の年月日
② 死亡者との関係
③ 住所・本籍・生年月日
を記載し、署名・押印します。

 

「死亡した方」

死亡した方については、
① 氏名・生年月日
② 死亡年月日
③ 死亡地
④ 住所・本籍
⑤ 配偶者の有無
⑥ 死亡した時の世帯の主な仕事と死亡者の職業・産業
を記載します。

 

「死亡診断書または死体検案書」

 

なお、医師や警察などが記入する死亡診断書または死体検案書には、以下のような事項が記載されます。
① 氏名・性別・生年月日
② 死亡日時
③ 死亡した場所・場所の種類
④ 死亡原因・死亡の種類(病死、自然死、不慮の外因死、不詳など)

 

まとめ

 

身近な人が亡くなった時には、相続手続きの有無とは別に、行政機関や金融機関などへの様々な手続きが必要になります。
あらかじめ知っておけば、あわてずに済みます。

 

なお、遺産相続の手続きは、遺言がある場合とない場合では、大きく異なります。
いざという時に慌てないように、相続手続きについても、あわせて確認しておくことをおすすめします。

物納したいと考えた相続不動産を延納しながら売却して得した事例

評価額が高額な不動産を相続した場合、高額な相続税がかかるため、納税に支障をきたすことも少なくありません。

このようなことにならないように、生前に対策しておくことが重要ですが、実際にその場面を迎えた相続人はたいへんです。

納税が困難なため、物納したいと考えた不動産を、延納しながら時価で売却して得した事例を紹介しましょう。

 

相談内容と解決策

 

まず、相談者からの依頼内容と、提案した解決策を確認しましょう。

 

■相談内容■

 

相談者は、定年退職し、妻と2人で暮らす62歳の男性です。
会社員として働いてきましたが、60歳で定年退職となり、現在は65歳まで再雇用されています。
退職金で自宅を新築したため預金は少額ですが、63歳からは部分的な年金支給も始まるため、生活に困ることはありません。

 

しかしながら、6カ月前に90歳で亡くなった父親から、地方都市にある土地を相続しました。
相続税を計算したところ、土地の評価額は5憶円で、税額は2億円近くになることが分かりました。
そこで、給与振込などを利用している銀行に相談しましたが、融資を断られてしまいました。

 

資産に余裕はなく納税が不可能なため、相続税分を物納して、同時にすべてを手放したいと考えているのですが、最善の解決策を知りたいというのがご相談です。

 

■解決策■

 

物納は、相続税納税の最終手段として認められています。
しかしながら、物納の条件は厳しく、また、物納が認められる場合でも、物納の評価額は時価より2割程度低く見積もられるなどのデメリットがあります。

 

このため、延納制度を利用しながら、時価の6億円で売却することを提案しました。
延納に伴う利子税の支払いは生じるものの、時価で売却できることによって、収入が1憶円以上増えることになります。

 

さらに、売却益には譲渡所得税が発生しますが、相続発生から3年10カ月以内の売却によって、2千万円以上節税することができます。
この結果、物納に比べ、大幅にお得な解決策となります。

 

解決策の検討

 

支払いが困難な場合、まず、不動産を売却する方法や、納税資金を借入れる方法を検討します。
ただし、相続税は、相続開始から10カ月以内に支払う義務があるものの、すでに6カ月が経過し、残り4カ月に迫っているため、早急な対応が急務です。

 

売却資金で納税

 

売却の場合は、最低でも3カ月以上の期間が必要です。
短期間で不動産を売却する方法としては、不動産会社が自ら買い主となって物件を買い取る「買取」があります。
不動産会社から提示される価格で納得できれば、早く売却できます。

 

ただし、買取は、仲介手数料がない反面、物件の買取価格が市場相場よりも低いことがデメリットです。

不動産会社は、再販費用や売却できないリスクを抱えるため、条件の良い不動産でも時価の60~80%水準で、相続税の評価額を下回る買取価格になってしまい不利です。

 

金融機関からの借り入れで納税

 

現金による納税が困難な場合、納付資金を金融機関などから借入れる方法もあります。
延納でかかる利子税と、借入金の利子額を比較し、どちらが得になるかを判断する必要があるでしょう。

 

ただし、融資を受けるためには審査があるため、時間的な余裕がない場合は間に合いません。

この事例では、すでに付き合いのある銀行での融資審査で認められなかったこともあり、新たな融資先を探すことは諦めるべきでしょう。

 

物納は得か?

 

相続税の支払いが困難な場合に限り、物納も認められます。

物納では、不動産の価格は原則として、相続税評価額です。
土地の相続税評価額は時価の約8割、建物の相続税評価額は時価の約6割と、低めに評価されます。

 

また、相続税を超える部分を含めることは難しく、土地の場合は、相続税相当分を分筆することになります。
この場合、土地が複数の道路に面しているなど、分筆しても条件が変わらない場合は別として、時価価値を落とす結果につながりやすいことが問題です。

 

物納できる土地に分筆する場合も、一般競争入札で売却できる価値を持たせる必要があるため、接道しないような部分を当てることはできません。

 

事例の土地を接道部分があるように分筆すれば、残りの土地の接道部分が減り、条件が不利な旗竿地になってしまします。

条件が不利になった残りの土地を、時価で売却できた場合でも、分筆しない状態と比べれば価格が下がることは目に見えています。

 

このため、物納は避けるべきとの判断に至ります。

 

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公図

 

「物納の現状」

2006年の税制改正以降、物納手続きの厳格化がされたため、物納件数が一気に減少しました。
改正前の2005年には1,733件あった申請は、2017年に68件、2018年は99件しかありません。

 

これは、物納には様々な要件がありますが、なかでも、延納によっても金銭で納付することが困難であることを詳細に数字で証明しなければならないことが大きな要因と考えられています。

実態として、最低限の生活費を超える預貯金が残る状態では、物納は難しいと言えます。

 

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延納・物納の理由書

解決策

 

現金で支払うことが困難な場合、物納に至る前段で、分割払いが認められる延納制度を利用することもできます。
物納と同様、納税が可能な金融資産がある場合は認められませんが、相談者なら認められる状況です。

 

延納期間は、原則として5年以内ですが、不動産が50%以上を占める場合は、最長20年まで延納が可能です。
ただし、延納期間に応じて、年1%前後の利子税がかかります。

 

一方、延納を選択後も、相続税の申告期限から10年以内であれば、物納へ切り替えることができます。
また、延納中に不動産を売却できれば、途中で一括納付することが可能です。

 

不動産を売却すると譲渡所得税がかかりますが、これは、相続開始から3年10カ月(納税期限から3年)の間に売却すれば「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」によって、大幅に節税できます。

 

この事例では、延納を利用した上で、現状の条件を保ったまま普通売却を行って、利益を確保することを解決策として提案しております。

また、特例を利用することによって、譲渡所得税を軽減できることも大きな魅力ですから、相談者も納得の結果となりました。

 

提案した解決策による効果

 

相続した土地は、相談者の父が、亡くなる11年前に4億円で取得したものです。
土地は、相続開始後2年目に、時価相当額の6億円で売却でき、大幅な増益が実現しました。

 

通常なら、長期譲渡所得の20.315%の税率が適用され、約4千万円の譲渡所得税がかかるところでしたが、特例が適用できたため、約1千500万円と譲渡所得税も大幅に縮減しました。

 

この結果、物納による評価額に比べた売却益が1憶円以上増え、売却益にかかる譲渡所得税も約2千500万円の節税を実現することができたのです。

 

まとめ

 

高額な不動産を相続しても、相続税の支払いに困惑する方が少なくありません。

生前の相続対策が重要なことは言うまでもありませんが、いざ相続人になった方は、10カ月以内という制限の中で、相続税の問題を解決しなければなりません。

 

延納や物納は、相続人の資産が多ければ認められませんから、単純に選択することはできません。
通常の選択肢としては、金融機関からの借入金を納税に充てることや、買取の利用なども含め、総合的に検討することが大切です。

 

このためにも、生前の相続対策や遺言などによって、スムーズな遺産分割になるよう心がけたいものです。

相続した不動産の相続登記が義務化される?所有権放棄なども検討中

社会問題化した所有者不明土地の問題を解決するために、法整備に向けた検討が具体化され始めました。   2019年12月に示されたのが「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案」(全37ページ)です。   この中間試案を見ると、発生を予防するための方法として、相続登記の義務化や土地所有権の放棄など、新たな方向性が打ち出されています。 不動産の所有者や相続人に影響が及ぶ話でもあり、関心の高い方も多いことでしょう。   そこで、今回のブログでは、この中間試案から、検討の背景や課題、検討全体の概略を、また、相続登記の義務化と土地所有権の放棄についても、詳しく紹介します。  

所有者不明土地は、なにが問題なのか

 

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  土地の所有者が死亡すれば、通常であれば、相続する者の名義に登記を変更する「相続登記」を行います。   しかしながら、この相続登記が行われないケースが多いことなどが原因となって、登記簿で所有者が確認できないケースや、判明しても連絡がつかないケースが多く存在しています。   土地を売買する場合、買主が所有者であることを対外的に証明できるように、所有権移転登記を行います。この登記は、権利を主張するために行いますから、登記されないという事態は非常にわずかです。   一方、住所変更登記や相続登記については、行われないまま放置されていることが大きな原因となって、様々な問題を引き起こしています。   所有者に連絡がつかず、同意や承認が得られなければ、売買や賃貸借をはじめ、様々なケースで利用に支障が発生します。   また、所有者不明土地の場合、相続人の特定や現住所を探す必要やなどがあり、所有者探しや連絡に多大な労力と費用がかかります。   見つかれば良いのですが、結局、相続人全員が死亡しているケースや、相続人を特定しきれないケース、相続人が海外にいて連絡が取れないケースなどもあります。   所有者が不明だと様々な問題も  

所有者不明土地の発生を予防し、利用しやすくする検討

  所有者不明土地に対しては、主に、共有制度や財産管理制度、相隣関係、遺産共有、遺産分割など民法に関する部分と、不動産登記法に関する部分の見直しが検討されています。   以下では、発生予防と利用の点に分けて、概略を紹介します。  

発生を予防する仕組み

  発生を予防するための仕組みとして、相続登記の義務化や土地所有権の放棄、遺産分割の促進などが検討されています。  

不動産登記情報の更新を図り予防

  登記内容を現状と一致させる仕組みとして、相続登記申請の義務化や、登記所が自ら更新を図る仕組みが検討されています。  

土地所有権の放棄や遺産分割を促進して予防

  発生を抑制する方法として、所有権についての放棄を認め、公的な機関などに帰属させることや、遺産分割についての期間制限を設けることなどが検討されています。  

利用する仕組み

  土地の利用面からは、「共有制度の見直し 」、「財産管理制度の見直し」、「相隣関係規定の見直し」の点で検討が進められています。  

共有制度の見直し

  共有名義など、数人で土地を共有している場合に生じる「共有物の管理や共有物の変更・処分」「共有者の同意を得る方法」「共有物の管理者」などについて、新たな規律や制度が議論されています。  

財産管理制度の見直し

  管理コストの高い財産管理制度について、特定の財産だけ管理する制度や、共通の財産管理人を選任することができる制度などの整備が検討されています。  

相隣関係規定の見直し

  隣接する土地に関する問題については、規定や請求方法の見直しが行われています。 たとえば、隣地から越境する枝など管理不全状態の解消や、損害を受けている場合の請求方法、隣地との境界の確定や測量などが挙げられます。  

どう影響する?想像登記の義務化と土地所有権の放棄

  発生を予防する仕組みとしては、単純に表現すれば、所有するなら登記を義務付け、所有できないなら放棄を認めるというスタンスに立っています。   紹介する内容は、あくまでも検討中のものですから、今後変わる可能性があることに注意してください。  

相続登記の申請が義務化

  不動産の所有者が死亡し、相続などによる所有権の移転が生じた場合は、登記申請が義務化されます。   相続や遺贈によって取得した相続人や、特定の財産を承継させる遺言(特定財産承継遺言)による取得者は、登記申請をしなければなりません。   期間は、取得者が、相続の開始があったことを知り、取得の事実を知った日から一定の期間内です。 なお、「一定の期間」は、遺産分割や法定相続分による相続登記、簡素化した方法で申告する方法などが比較されていますが、議論が収束していません。   また、所有者が登記されていない不動産の扱いや、義務化するときに既に所有者が死亡している場合の扱いなど、今後の検討課題が残されています。  

申請義務に違反した場合の規律

  申請義務のある者が、正当な理由なく期間内に申請をしなかったときは、過料を科すことが検討されていますが、議論は収束していません。  

登記しやすくする方法を新設

  登記を義務化するといっても、単に法律で決めただけでは効果が薄いため、登記しやすくする方法が検討されています。  

相続人申告登記

  相続登記とは別に、相続人が行う登記として「相続人申告登記(仮称)」が新設されます。   相続人申告登記は、法定相続人からの申出に基づいて、その相続人の氏名と住所だけを登記します。 持ち分は登記されず、所有権移転登記(名義変更)とは異なる「報告的な登記」の位置づけとなります。   手続きは、法定相続人が、登記所に相続が始まったことや法定相続人であることを、戸籍謄本を添えて申告します。   なお、この登記を行うことにより、メリットが与えられることについても検討が行われています。  

登記手続きの簡素化

  相続登記や遺贈による所有権移転登記については、手続きを簡略化することが検討されています。 特に、複数の相続人がいる場合は、登記を共同で行う必要があるケースについて、単独でできるよう簡素化が図られる予定です。  

土地所有権の放棄

  個人の場合、一定の条件を満たす土地の所有権について、放棄を認める制度が新設されます。 土地は、宅地だけでなく、農地や林地も対象とされています。   なお、共有地については、共有者全員が共同で放棄した場合に限り、認められる方向です。 また、法人が対象になるかどうかは決まっておらず、今後の検討課題となっています。   ただし、建物と動産の所有権については、放棄の対象外となっていることにご注意ください。   建物は対象外  

放棄された土地は国のものに

  放棄された土地は、最終的に国庫に帰属することになります。  

放棄の要件と手続き

  放棄する場合は、次のように定められる要件全てに該当する必要があります。 なお、要件についての具体化は、今後の検討に任されています。   ・権利の帰属に争いがなく筆界が特定されている ・第三者の使用収益権や担保権の設定がなく、所有者以外の占有者がいない ・現状のままでの管理が容易な状態 ・所有者が審査手数料や管理費用を負担 ・所有者が相当な努力が払ったと認められる方法で譲渡などを試みたが、実現していない   要件についての審査と認可については、公的機関が担当し、放棄は、国や地方自治体と放棄する者との贈与契約(寄付)が想定されています。  

まとめ

  「中間試案」は、あくまでも2019年12月の中間とりまとめ結果です。 報道によれば、ここで紹介した検討は、今後、2021年秋の臨時国会での提出に向けて、法案作りが進められる予定とされています。   今後の議論などによっては変更があり得ますが、検討状況を把握しておけば、今後の議論の行方が理解しやすくなりますね。   また、今回紹介した事項以外にも、様々な関連する課題についての記述があります。 たとえば、共有持分の放棄のあり方や、所有権が放棄された土地に起因する損害の填補などです。   詳細を知りたい場合は、法務省の法制審議会「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)」で確認することをおすすめします。

相続した不動産の売却事例:農地の売却

遺産相続の相談内容は実に様々ですが、その中でも、最近一番多いのが「相続した農地を手放したい」というものです。

この背景には、農業者の借り手や買い手が少ない状況に加え、農地は手放しにくいという制約や規制があり、このような声となって私にも届くという訳です。

農地を相続すれば、毎年の固定資産税を支払う必要がありますし、草だらけにしておけば病気や害虫が発生しやすく、周りに迷惑をかけるため管理しなくてはいけません。

そんなわけで、今回のブログは、相続した農地の売却事例を紹介します。

相談の内容

相談者からの依頼は、「私の農地を買いたい人が現れたけれど、農地を宅地にできるだろうか」というものでした。
目的は、買主が農地を宅地として造成し、子世帯が住むために住宅を建設することです。

そのためには、宅地として利用できるか確実に家を建てる計画があるか、また、様々な制限がある農地の転用が可能かどうか、調べなければなりません。

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相続した農地は広いのですが

まずは、宅地として利用できるか確認

農地の転用許可を受けた場合に、宅地として利用できなければ困りますから、まず、そこから調べます。

この相続した農地の売却事例では、不動産の登記情報と地図情報、いわゆる公図を入手することから始めました。

(一財)民事法務協会の「登記情報提供サービス」を使えば、インターネットで手軽に入手できます。

依頼者は、所有者と一致

不動産の登記情報を確認したところ、地目や地積、所有者などを確認できました。


所有者は、依頼者と同一人物になっていて、キチンと相続登記が行われていることが分かったので、一安心です。

と言うのは、相続した不動産相続登記が終わっていないと、売買契約さえできないため、この手続きから始めなくてはいけないからです。

道路に面する部分が2mより狭い?

公図を確認したところ、少し問題になりそうな部分があることが判明しました。


それは、土地は広いのですが、道路に面している部分だけが狭くなっている旗竿地で、都市計画地域で必要な最低2mの接道基準を満たすかどうかでした。

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旗竿地で入り口が狭い

あわてて現地で測定したところ、3mあり問題なしと分かったので解決です。

法令上の制限やライフラインの制約もクリア

宅地として利用する際は、都市計画法や建築基準法、文化財保護指定、災害地域指定など、法令上の制限による規制の有無を確認しなければいけません。

市役所の建設課や産業課、教育委員会などで確認した結果、法令上の制限がなく、問題ないことが分かりました。


また、ガスや水道、電気などのライフラインについても、利用に問題がないことが確認できました。

農地の売買には制限がある

ここまで確認して、宅地にできた後は問題なさそうなことが分かりました。


そうなると本題になる、相続した農地を転用できるかが焦点として浮上します。

農地の売買には、農地法による制限や規制があります。
農地は、農地以外のものに向けることが規制されているのです。

市街化区域にある農地は例外

農地のなかでも、市街化区域にある農地は、例外的に転用が認められます

どうかと思って建設課で確認しましたが、依頼を受けた農地は都市計画区域外。
つまり、市街化区域なら認められる例外が、当てはまりません。

農振農用地の指定があると、認められる場合でも時間がかかる

農振農用地」は原則として、農用地として利用すべき区域として位置づけられるため、転用が認められません。

ただし、「やむを得ず農業以外の目的へ転用する必要がある」と認められる場合だけは、農振農用地からの除外を申請することができます。
しかしながら、認められる場合でも、1年程度かかるケースもあり、指定があるとたいへんです。

売却事例の農地は、農業委員会で確認した結果、農振農用地の指定から外れていることが分かりました。
これで、宅地化に向けたハードルを、1つ超えることができました。

最後の関門は、農地の種類

農用地として定められている農振農用地のほかにも、集団的に存在する農地など、良好な営農条件を備えている農地は、原則として転用が認められません。

ただし、第3種農地として区分されている農地なら、転用も可能です。

これには、
・都市的施設が整備された区域内の農地や
・駅や役場などの公共機関からおおむね300m以内にある市街地内の農地、
・市街地に挟まれている農地
などが、該当します。

しかしながら、売却事例の農地は第3種農地ではなく、第2種農地であることが分かりました。


こうなると、あとは第2種農地として転用可能かどうかを調べて、相談に対する回答を判断することになります。

要件に合う場合だけ転用が認められる第2種農地

第2種農地は、第3種農地に近接する区域や、市街地化が見込まれる区域内にある農地で、農業公共投資の対象となっていない生産性の低い、おおむね10ヘクタール未満の小集団の農地が該当します。

第2種農地では、周辺農地で代替できない場合に限って、転用が認められる可能性があります。

ここでようやく、宅地化の可能性が見えました。
代替地が無いことの妥当性と、申請目的である住宅を建設できることが証明できれば、許可を受けることが可能になります。

宅地化するための手続き

農地の売買や宅地などへの転用は、基本的に、市町村の農業委員会を通じて、都道府県知事の許可を得なければなりません。

農地法5条許可申請

売却を前提として宅地に転用する場合は、「農地法5条許可」申請が必要です。
この際は、宅地に住宅を建てる計画があることが前提条件です。

申請には、様式が定められた申請書と様々な必要書類を添付しなければなりません。
特に、土地の選定理由書と周辺農地の所有者の同意書は、許可やプランを実現するためにとても重要な添付書類です。

申請する土地以外に代替可能な土地がないことの妥当性や、周辺農地や農業に悪影響がなく、周囲の農地所有者が同意していることを証明する必要があります。

また、この売却事例での申請目的である、宅地化して住宅を建設することが確実であることも証明する必要があります。

相談者への提案と実現

これで、相談者への提案内容が決まりました。

・宅地としての利用に問題がないこと

・相続登記や農振除外申請手続きは不要なこと

・転用許可を受けることができれば実現できること

そのためには

・農地法第5条第1項の規定による許可申請手続きが必要なこと

・住宅の建設計画や資金の証明が必要なこと

・買主の権利を保護するために、共同で登記手続きを行うこと

これを提案し、申請と売却、そして住宅建設に向けて動き出すことが決まりました。

また、相談の続きとして、農地法第5条の許可申請手続きの依頼をいただきました。

ここが腕の見せ所と、農業委員会から示されている必要書類を準備して、農業委員会に提出。

書類準備に約2週間、その後提出から約1か月後には無事許可を得ることができ、住宅建設が始まりました。

登記手続き

農地を売買して宅地化する場合の登記は2種類です。

権利の移転登記と地目変更登記の申請を別々に行いますが、これは、書類を整えたのちに、連携している司法書士に依頼して完了です。

まとめ

この不動産の売却は、一般的な宅地の売買とは異なる、特殊な事例と言っても良いでしょう。

解説されている事例も少ないため、相続した不動産のなかでも、農地を売却したいと考えている方にとって、参考になるのではないでしょうか。

これからも、不動産の遺産相続について、役立つ情報や事例をお伝えしてまいります。

どうぞご期待ください。

路線価が上昇すると相続税や固定資産税もアップ、納税に支障も

先祖から受け継いでいる土地を相続したら、相続税が高額で払えず困っているといった話を聞くことがあります。
現金や預金なら財産の額もハッキリわかりますが、土地の価格はどのように決めるのでしょうか。
そもそも、相続税は、どのように決まるのでしょうか。

 

相続税や土地の価格は、統一されたルールに従って決められます。
なかでも、市街地や住宅地では、基準となる土地価格について、国が路線価として定めています。

全国の路線価は年に一度公表されますが、そのたびにニュースや新聞などのメディアに取り上げられますから、気にかけている方も多いことでしょう。

 

この路線価から土地の価格を求める方法、そして相続税の計算方法を知れば、路線価と相続税の関係が分かります。

今回は、路線価に焦点を当て、上昇した場合に相続税にどう影響を与えるかについて、紹介しましょう。

 

相続税は土地の価格を含めた総額にかかる

 

相続税は、課税の対象になる財産の合計に対して課されます。

相続によって課税対象となる財産は、現金や預貯金のほか、現金化できるすべての資産が含まれます。
このような資産のことを、本来の相続財産と呼びます。

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相続税計算における本来の財産

本来の財産のほかにも、死亡したことによって支払われる死亡保険金や死亡退職金など、財産扱いされる「みなし財産」があります。
一方、みなし財産の一部や非課税扱いの財産、また借金や葬式費用は、財産の合計から差し引かれます。

 

まとめて計算式で表すと
「課税の対象になる財産の合計額」
=「本来の財産」+「みなし財産」+「生前贈与」-「非課税財産」-「債務」-「葬式費用」
となります。

 

つまり、土地の価格は、相続税を計算する際の合計額に影響を与えることになります。
同じ土地でも、土地の価格が低ければ課税の対象となる合計額も低く、土地の価格が高ければ合計額も高くなることが分かります。

 

路線価は、相続した土地を評価する基準単価

 

では、土地の価格はどのように決めるのでしょうか?
土地には定価がないため、一定のルールに従って評価額を求める方式が採られています。

土地を評価する方式は、路線価方式と倍率方式に分かれ、いずれかの方法が用いられます。
いずれの方式の場合も、1筆(区画)ごとに価格を評価します。

 

どちらの方法を使うかは、それぞれの土地の所在地によって決まりますが、一般的に、市街地や住宅地にある場合は、路線価方式を用いることが多くなっています。

路線価は、道路に面する土地の基準価格を示し、倍率は、固定資産税評価額に乗じる倍率を示しています。

 

一般的に、路線価は公示地価の0.8倍、固定資産税評価額は公示地価の0.7倍に設定され、どちらも、実際の取引価格などに比べて低く評価されます。

なお、公示地価は、一般の土地の取引価格に対する指標として定められるもので、例外もたくさんありますが、おおむね時価に近い価格と言えます。

 

つまり、路線価は、土地の評価額が時価の0.8倍程度になるように定められる土地の単価と言い換えることができるでしょう。

 

路線価による土地評価の計算

 

路線価は、相続税や贈与税を計算する際の基準として、国税庁が公表する「財産評価基準」に掲載されます。公表時期は毎年7月~8月頃で、2019年は7月1日に公表されました。

この財産評価基準は、各年の1月1日から12月31日までの間に、相続や遺贈、贈与によって取得した財産について適用する基準になります。

 

つまり、路線価は毎年1回変わる可能性があり、相続する土地の評価額を求めるためには、相続する年の路線価を使う必要があるということになります。

 

土地評価の計算方法

 

土地の評価は、建物とは切り離して考えます。
倍率方式なら、固定資産税評価額に倍率をかけ算するだけなので、特別な難しさはありませんが、路線価方式の場合は、それぞれの土地条件を加味することもあり、少々複雑です。

 

路線価は、道路に面する標準的な土地の1㎡当たりの単価として、千円単位で決められます。

路線価を使う土地の評価は、計算式で表すと、
「土地の評価額」=「路線価(千円/㎡)X 地積(土地の面積:㎡)× 補正率」
となります。

 

路線価は、正方形や長方形の整形地をイメージした、あくまでも標準的な宅地を想定した価格を示すものです。
このため、土地の形状など、整形地より劣るそれぞれの土地の条件を減額するために、補正率を乗じて調整します。

 

路線価が上昇すると相続税が増える具体例

路線価が上昇すると相続税がどうなるか、具体的に数字で確認してみましょう。
被相続人が購入した時の路線価が、1平方メートル当たり30万円から、相続時には50万円に上昇したケースです。


土地は、幅が20mで奥行きが50mの整形地のため、評価額を計算する際は、補正率を1.0、つまり補正なしとします。

 

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路線価が上昇すると?

 

この例の場合、土地購入時の評価額は、3億円です。
評価額 = 路線価(千円/㎡)X地積(土地の面積:㎡)X 補正率
    =  300千円    X   1,000㎡    X  1.0
    = 300,000千円

 

一方、相続時には路線価が50万円に上昇したため、5億円にアップします。
評価額 = 路線価(千円/㎡)X地積(土地の面積:㎡)× 補正率
    =  500千円   X  1,000㎡ X 1.0
    =  500,000千円

 

つまり、路線価が約1.7倍になったため、評価額も約1.7倍に上昇です。

 

しかしながら、相続税への影響は、この上げ幅だけでとどまるとは限りません。
というのは、財産の金額によっては、相続税率が変わるからです。

仮に、相続税の課税対象がこの土地だけだとして、控除も基礎控除だけの場合を考えてみると、相続時の課税価格が3億円を超えるため、相続税率は45%から50%に上がります。
控除額があるものの、相続税額は約2憶円で、路線価上昇前の約1億円に比べ、2倍になることが分かります。

 

このように、路線価が上昇すれば、相続税を上げる影響がありますが、さらに相続税率にも影響する可能性があることに注意が必要でしょう。

 

路線価上昇の余波

 

路線価が上昇する背景には、時価の上昇があります。
時価が上がれば、固定資産の評価額もアップすることになります。

つまり、土地の相続人が毎年払う固定資産税も上昇します。

 

また、相続税額が増えれば、税金の支払いを考えなければなりません。
相続税は、原則として現金で支払う必要があります。

さきほどの例のように、相続税が1億円増えた場合、簡単に現金を工面できるでしょうか?
工面できなければ、金融機関からの借入や、最悪の場合は物納も検討しなければなりません。

 

このように、路線価上昇は、相続時だけでなく、相続後にも影響することになります。

 

まとめ

 

路線価が上昇したというニュースなどを耳にすると、評価額が上がって嬉しい気持ちにもなりますが、相続税に直接跳ね返る影響があります。
また、相続税率への影響も忘れてはいけません。

 

さらに、相続税は現金で納付しなければなりません。
相続時に納税資金が不足して、銀行融資や物納を考えなければいけないような、相続トラブルを防止するための生前対策にも、配慮が必要ですね。

 

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節税と相続トラブル回避を実現した売却事例

不動産の遺産相続の節税方法を大胆に分けると、課税額の圧縮と、手持ちの現金や不動産売却で得た資金などを不動産に振り向けることと言えます。

この二つを組み合わせたものは資産の組み換えと呼ばれ、事業用資産の代表的な節税策です。

ブログの初回は、この資産の組み換えを利用して節税と収入アップ、さらに遺産相続時のトラブル回避策となった売却事例を紹介します。

 

相談内容と解決策

 

最初に、相談の内容と提案した解決策の要点の確認です。

 

■相談内容■

相談者は、妻と子ども二人の4人で暮らす65歳、男性です。
自宅としての家屋敷のほか、20年前から賃貸用の店舗と地続きの駐車場を所有し、賃貸用の不動産から得られる賃料収入を生活費に充てています。

 

悩みは、賃貸用不動産について、高額な相続税を支払わなければならない状況に加え、将来の遺産相続で二人の子どもがトラブルになりそうだということでした。

また、賃貸用の店舗は、契約上や収入の面から、簡単には売却できないという状況もありました。

 

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相談者の家族構成と資産


■解決策のポイント■

事業用資産の買換え特例を利用した、賃貸用土地の売却と、売却で得た資金による賃貸用マンションへの買換えです。

 

・譲渡所得の節税効果などにより、借金や投資も必要なしで、資産価値を保ちながら相続税評価額の大幅な減額を実現。
・この結果、相続税の大幅な減額に加え、区分マンションからの賃料収入を生活費として確保。
・さらに、将来の遺産相続時には、資産価値を保ったまま、子供二人が均等に分け合うことができる区分マンションも準備。

 

相談者も満足のいく結果となりました。

 

解決すべき課題の洗い出し

 

相談者からの説明や具体的な数字を確認していったところ、最大の課題は高額な相続税で、手持ちの預貯金では納税に不足することでした。

税理士に相談したところ、駐車場部分を売却処分して税金の支払いに充て、さらに不足分が生じた際は死亡保険金を充てるとのこと。

 

また、将来の遺産相続についても、課題がありました。

相談者は、自分の遺産相続の際、妻に自宅を譲り、子ども二人には残りの賃貸用不動産を相続させたいと考えていました。
ところが、賃貸用の不動産を均等に分割することは難しいため、子ども二人が遺産相続でトラブルになると、相談者は心配していたのです。

 

解決策の検討

 

解決策を提案するために、まず、賃貸用不動産の時価調査を提案しました。
なぜなら、実際の価値が分からなければ、具体的な解決策につながらないからです。

また、賃貸用不動産から得るべき賃料収入の期待額を検討するために、生活費に充てる金額がどの程度必要か検討することを、アドバイスしておきました。

 

不動産の調査結果

まず、賃貸用の土地は、相続税評価額が6憶円で、相続税は税率50%の約2億5千万円です。

 

時価については、信頼できる数社の不動産業者に情報を開示して調べてもらった結果、借家権を残したままの売却価格で最高4憶円の評価でした。

相続税の評価額が6億円に対し、時価が4億円であることから、過大な相続税となることが判明したのです。

 

ここで解決策として浮上したのが、「事業資産の買換え特例」の活用です。
この特例を利用するためには、面積や所有期間などについての様々な要件がありますが、幸い要件を満たしていることが確認できました。

 

この特例を利用すれば、相続税評価額が時価より高い(相続税評価>時価)の事業用不動産は、組み換えで節税効果が生まれやすくなります。

 

そして解決策へ

 

相談者に提案した「事業資産の買換え特例」を活用する具体的な解決策は、次のようなものです。

 

まず、賃貸用土地を時価の4億円で売却し、売却経費が1億円かかるとして、3億円の譲渡所得です。
3億円の譲渡所得に対しては、非居住用財産の長期所得税率20.315%がかかり、税額は約6千万円程度となります。

 

しかしながら、この特例を利用して、売却利益の3億円で賃貸用に区分所有マンションを購入すれば、譲渡所得を8割程度に減額することができます。

この結果、当初6億円の相続財産評価額は、買換え後のマンションでみると、評価額が1憶円以下になるため、相続税は3千万円程度まで下がります。

 

これは、土地と建物の評価額が、それぞれ30%、20%程度は時価よりも低く評価されることに加え、賃貸用では、さらに借地権割合と借家権割合をかけ算した額に減額される効果です。

 

提案した解決策による効果

 

解決策の実行により、資産としての価値を大きく変えないまま相続税の評価額を下げることができ、約2億5千万円の相続税を3千万円程度に減額できることになります。

 

また、区分所有マンションを2棟購入すれば、生活費に充てる賃料収入が確保でき、将来の遺産相続時には、子ども二人が1棟ずつ均等に相続することが可能になります。

 

相談者がこの解決策に納得してくれたため、連携している不動産会社を通じ、買換えが実現しました。

 

事業用資産の買換えで相続税を減らすことができる理由

 

減額できる理由は「事業用の資産を買い換えたときの特例」の仕組みにあります。

一定の要件を満たす事業用の資産を買い換えた場合、個人も譲渡所得の一部を、将来に繰り延べることができる制度です。

 

買換え価格が譲渡価格(売却価格)より低い(売却価格>買換え価格)場合、買換えた資産価格の80%相当額への課税が繰り延べされるため、大きく減額できます。

 

いつまで繰り延べされるか心配になりますが、買換えで取得した不動産への課税は、その不動産を売却するときまでありません。

 

売却事例の場合、4億円で売却した土地を、3憶円の区分所有マンションに買い換える場合の譲渡所得税は、マンション購入価格の8割強相当を差し引いた約6千万円への課税で済みます。

 

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事業用資産の買換え特例(売却価格>買換え価格)

 

まとめ

 

相続税評価額が時価より高い(評価額>時価)不動産の場合、買換えによって相続税を減額できる効果が高まります。
ただし、事業用資産の買換え特例の要件に該当するかどうか、十分確認する必要があることにご注意ください。

相続発生前の売却で、節税と収益性アップを実現した事例

相続税が高額になることが分かっていれば、相続が発生する前に対策も可能です。
不動産の相続税が高額になるのは評価額が高いためですが、時価と比べて評価額がかなり高い場合は、買換えにより大きな節税効果が現れる可能性が高まります。

 

今回は、相続が発生する前に、相続税評価額が高額な底地の売却によって相続税評価額を下げながら、収益性も上げることができた事例をご紹介しましょう。

 

相談内容と解決策

 

まず、相談者からの依頼内容と、提案した解決策のポイントを確認しましょう。

 

■相談内容■

 

相談者は、妻と2人で暮らす67歳の男性と、その長男です。
子どもは長男一人で、近くに別世帯を構えて夫婦二人で暮らしています。

 

相談者はいわゆる地主で、自宅のほか、アパートや駐車場、底地など多くの不動産を所有しています。
遺産相続が発生したら長男に財産を譲る予定でしたが、相続税を計算したところ、総額3億円。

これに慌て、新たな投資や借金をすることなく、節税できないかというのがご相談の内容です。

 

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相談者の家族構成と資産

 

■解決策のポイント■

 

評価額を調査した結果、相続税の総額が3億円の資産の中で、底地が最も評価額を押し上げていることが判明。
底地は、住宅用に貸し付けているもので、1区画当たり平均30坪のものが20区画もあります。

 

信頼のおける不動産会社に依頼して調査したところ、底地の時価は約2億5千万円で、相続税評価額4億2千万円を大きく下回っていました。

 

そこで、底地を一括で売却し、その収入をもとに相続税評価額が低い不動産への買い替えを提案。
この際、収益性をアップさせるために、収益性の高いものを選ぶことを併せて提案しました。

 

解決すべき課題の洗い出し

 

調査で洗い出された課題は、底地の高額な評価額と時価との乖離、また、低い収益性の解決であることが判明しました。

 

調査結果

 

底地を調べていくと、相続税評価額が4億2千万円と高額にもかかわらず、時価は約2億5千万円。
さらには、収益性が低い状態で、利回りで言えば約1%、年に500万円程度しかありません。

 

底地とは?

 

貸地や貸宅地とも呼ばれますが、土地に借地権が設定されている状態の土地が底地です。
底地の所有者は、土地を貸すことによって地代収入を得ています。

 

底地と借地は、混同しやすいですね。


底地は地主の権利、借地は土地を借りる人の権利で、賃借人と賃貸人のどちらか見た状態を表すかによって、呼び方が変わります。

 

解決策の検討

 

相続税を減額するとともに、資産価値を上げる方法として、不動産の買換えがあります。

買い換えの際には、広い面積でも価値が低い不動産を、狭くても価値が高く、収益がアップする不動産を選ぶと、買換えの大きな効果が期待できます。

 

評価額だけが高い不動産を所有していても、収益性が低ければ、固定資産税や維持費がかかるばかりですから、資産価値が低いと言えます。

 

事例における検討の視点

 

相続税評価額と時価が大きく乖離している場合、時価から見た資産価値を大きく変えずに、評価額の低い不動産への買換えが、有効な解決策になることがあります。

この事例では、底地の評価額が高額で、しかも収益性が悪いところに着目し、相続発生前の買換えを前提としました。

 

買い換えの条件として、
・評価額を減らすために売却価格よりも購入価格が低い不動産を選ぶ
・新たな投資や借金をせずに買い替えるために、買換えの費用を抑える
これが前提です。

 

解決策とその効果

 

売却価格よりも買い換える不動産の購入価格が低ければ(売却価格>購入価格)、評価額の低い不動産への組み換えを、より効果的に行うことができる解決策があります。

それが、事業用宅地の買換え特例の利用です。

 

要件に該当して利用できれば、買換えに伴う譲渡所得税を8割程度軽減できます。

ただし、この特例を利用するための要件に該当するかどうかは重要なポイントですから、慎重に検討しました。

 

解決策の効果

 

相続税評価額4億2千万円の底地を一括で、評価額の約60%程度に相当する約2.5億円で不動産業者に売却し、約2億円で利回り7%と収益性の高い賃貸マンションに組み替えです。

 

この事例では、特例の要件に該当したため、有利な条件で買換えが実現しました。
その有利な条件とは、譲渡所得税が8割程度軽減できることで、新たな投資や借入も一切必要なしで、組み換えが実現しました。

 

その結果、相続発生前に、4億2千万円相続税評価額は約2億円と半分以下とすることができ、収入も3倍以上の資産に生まれ変わったのです。

 

事業用資産の買換えで相続税を減らすことができる理由

 

相続税を減額できる大きな理由は、「事業用の資産を買い換えたときの特例」による譲渡所得税の節税にあります。

個人でも、一定の要件を満たす事業用の資産を買い換えた場合、譲渡所得の一部を将来に繰り延べることができる制度です。

 

譲渡価格(売却価格)が買換え価格より低い場合、買換えた資産価格の8割程度分の課税が繰り延べされるため、大幅な減額となります。

 

逆に言えば、買い換えに多額の譲渡所得税がかかる場合は、追加投資や借金なしでのスムーズな組み換えが難しいと言えます。

 

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事業用資産の買換え特例(売却価格>買換え価格)

 

高額な土地への買換えの場合も、譲渡所得を大幅節税

 

「事業用資産の買換え特例」は、他の不動産や手持ち資金などを、より資産価値の高い不動産に集約するようなケースでも効果があるでしょうか?

 

紹介した事例は、売却価格よりも買換え価格が低い(売却価格>買換え価格)ケースですが、特例が利用できれば、逆の場合も大きな節税効果があります。


特例の要件に当てはまる場合は、譲渡所得が80%程度軽減できるのです。

通常、譲渡所得は、売却価格から売却時の必要経費を差し引いた額(売却価格-必要経費)ですが、どちらも20%だけが税額計算の対象です。

 

たとえば、売却価格が3億円、購入価格が5億円の買換えで、必要経費が1億円なら、2億円の譲渡所得となるところ、特例が適用されると4千万に下がります。

 

なお、相続税の評価額がどの程度アップするか、あるいは低くできるかなどを確認しながら検討することをお忘れなく!

 

 

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事業用資産の買換え特例(売却価格<買換え価格)

 

まとめ

 

借地権付きの底地は、売却できないと思っている方も多いことでしょう。

 

継続して貸し付けている場合は、改めて考えることも少なく、そのままにしているケースが多いと思われます。
これは、事例のような底地だけでなく、他の不動産についても同じことが言えます。

 

相続発生前に行う不動産の組み換えにより、相続時に大きな節税効果を発揮することが期待できます。

ただし、相続税評価額や時価、特例の要件なども調べた上での検討が重要です。