遺言のススメ

多くの方が自分の死後も、先祖から受け継いだ財産や自分が築いた財産を、有効に活かしてほしいと願っています。

 

そんな思いを叶えるためには、相続に自分の意思を反映させることができ、親族間のトラブルを避けることもできる遺言書を作成しておくことがおすすめです。

 

自分一人で完結できる自筆証書遺言は、作成や保管のデメリットが改善され、利用しやすくなっています。

 

遺言で思い通りに指定でき、自筆証書遺言なら負担が少ない

 

遺言では、相続人それぞれの財産割合や相続させる財産など、自分が望む財産の分け方を指定できます。

 

遺言によって、必要とする方が必要な財産を相続できれば、事業の承継、自宅の登記や居住なども円滑・円満に進めることができます。

 

なかでも自筆証書遺言なら、自分一人で手軽に作成できるうえに、作成した遺言書を役所に保管してもらうこともできるようになりました。

 

自筆証書遺言は、費用がかからず、他人を煩わすこともなく自分一人で完結できるうえに、書き直しも自由なことが大きな特徴です。

 

ただし、何を書いても良いわけではなく、形式や、相続人に認められる「遺留分」など法的な有効性についての注意が必要です。

 

また、すべてを自筆で書く必要がありましたが、2019年からは、一部をパソコンで作成することなどが認められ、自筆負担を少なくできます。

 

さらに、作成した自筆証書遺言は、法務局に保管を依頼できる選択肢ができたために、より利用しやすくなっています。

 

民法改正で手書きが少なくて済む

 

2019年から一部をパソコンで作成することができるようになったと書きましたが、もう少し詳しく紹介しましょう。

 

新たにパソコンで作成することなどが認められたのは、財産の明細書である「財産目録です。

 

パソコンを利用すれば、土地や建物などの不動産、預貯金などの明細を手軽に整理でき、修正も容易です。

 

また、パソコンによる作成だけでなく、家族が代筆で作成しても問題なく、既存資料のコピーで代用も可能です。

 

既存資料としては、不動産の全部事項証明書や、金融機関の通帳のコピーなどを利用できます。

 

ただし、自筆以外で作成した財産目録には、1枚1枚に遺言者自身の署名と押印が必要です。

 

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自筆証書遺言をパソコンで作成するイメージ

法務局に保管を依頼できる

 

パソコンの利用と同様、民法改正によって、作成した自筆証書遺言を法務局に保管してもらうことができるようになっています。

 

それまでは、遺言を自分で保管しなければならず、死後に発見されにくいことや、隠ぺいや改ざんされやすいことなどが問題視されてきました。

 

民法改正では、これらのデメリットを解消できる仕組みとして、法務局に保管を依頼できる選択肢が新たに加わることになりました。

 

この制度は、2020年7月10日から始まったもので、法務局が、自筆証書遺言としての形式を審査し、保管してくれるものです。

 

法務局からは、保管していることについての証明書を発行してもらうことができ、遺言書の画像情報は全国の法務局で共有されます。

 

相続人が遺言書の開示を請求すれば、全国にある地方法務局で閲覧が可能になります。

 

また、相続人の一部が遺言内容を閲覧した場合は、他の相続人にも遺言書の内容が知らされるため、相続人どうしの公平性も保たれます。

 

遺言者自身が保管する場合とは違い、開封するための家庭裁判所への検認手続きも必要ありません

 

まとめ

 

遺言を作成しておけば、相続に自分の意思を反映させることができ、親族間のトラブルを避けることもできます。

 

遺言には3種類ありますが、その中でも自筆証書遺言なら、自分一人で完結でき、あとで書き直すことも自由にできます。

 

2019年からは、財産目録をパソコンで作成して自筆部分を減らすことが認められるなど、全文自筆の負担も軽減されています。

 

最近では「終活」が注目され、財産の整理やエンディングノートを始める方も増え始めています。

 

遺言書の作成は、終活で行うべきことの一つに挙げられているように、相続を円滑にするための意思表示です。

 

子孫に自分の人生を伝えるためにも、自筆証書遺言を作成してみてはいかがでしょうか。

戸籍の見方(編成要因が2つ以上ある戸籍)

戸籍は、見方のポイントが分かれば、相続人を見落としたり、証明できる期間が途切れていたりといった失敗を防ぐことができます。

 

相続人を確定するためには、被相続人の出生から死亡までを、連続して証明できる戸籍を取得して、確認しなければなりません。

 

このため、戸籍がいつ作られ、いつ消除(閉鎖)されたか、また、被相続人がいつ入籍し、いつ除籍されたかなど、戸籍の見方を知っておくことが必須です。

 

特に、昭和30年前後まで使われていた古い戸籍は、現在使われている戸籍とは、記載様式や記載方法が異なっています。

 

なかでも、戸籍を編成した要因が2つ以上記載されていることがあり、いつ作られたかを見間違うことも珍しくありません。

 

今回のブログでは、出生から死亡までの連続戸籍を揃える際のポイントを、特に、2つ以上の編成要因がある戸籍に焦点を当てながら、紹介します。

 

連続する戸籍が必要な理由

 

相続が発生すると、相続人を確定するために、必ず、被相続人の出生から死亡までの連続する戸籍を揃える必要があります。

 

一般的に、出生が記録された戸籍は、死亡までの間に婚姻や転籍などによって除籍や消除され、その都度、新たな戸籍が編成されていきます。

 

基本的に、新しく編成された戸籍には、両親や兄弟・姉妹が記載されません

また、以前の戸籍で死亡や婚姻などによって除籍された方、認知した記録も、新しい戸籍には転記されません

 

このため、本籍地の市区町村役場で死亡直前の戸籍を取得できるものの、通常、その戸籍だけでは、相続人の全てを確認することができません。

 

新たに戸籍ができる要因

 

戸籍上、人の一生は、出生による「入籍」に始まり、「死亡」により「除籍」されて終わります。

 

婚姻や本籍地の移動、分籍、離婚で以前の苗字に戻るための戸籍がなくなっている場合などは、その都度、新たな戸籍が作られます。

 

また、現在の戸籍は、夫婦と同姓の未婚の子どもが1単位のため、一つの戸籍に三世代が含まれてしまうような場合に、新たな戸籍が編成されます。

 

「一つの戸籍に三世代」は、子が非嫡出子を出生した場合や、子が養子をもらった場合などが該当します。

 

一方、現在の戸籍になる前は、「家」が戸籍の1単位であったため、家督相続や分家のような、時代劇でしか聞いたことのない要因も存在していました。

 

法律改正など制度の改正でも新たに戸籍が作られる

 

現代の戸籍制度は、明治5年に始まり、その後、明治19年、同31年、大正4年、昭和23年、平成6年と制度が変わり、そのたびに新しい様式に改められています。

 

したがって、本人に新たな戸籍を作る要因がない場合でも、制度改正があれば、それまでの戸籍が「消除」され、新たな戸籍が「編成」されます。

 

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戸籍編成の流れ

連続しているかは、いつからいつまでの戸籍かを確認

 

相続人を確定するには、出生から死亡までの「連続する戸籍」が必要です。

つまり、出生時の戸籍から、その後に編成された戸籍すべてを取得する必要があります。

 

除籍日や消除日から、新たな戸籍の編成日までの間が、たとえ数日でも途切れていれば、途切れた期間を証明できません。

 

つまり、出生届が受理され、死亡届が受理されて除籍となるまでの、1日も欠けることなく連続する、一連の戸籍が「連続する戸籍」です。

 

このため、戸籍を確認する際は、それぞれの戸籍が、いつ・どんな要因で編成され、いつ除籍または消除(閉鎖)されたか「読み解く」ことが重要です。

 

「読み解く」と表現したのは、現在のコンピュータ化された戸籍と違い、以前の戸籍は手書きで書かれているため、非常に読み取りづらいのです。

 

また、詳しくはあとで紹介しますが、古い戸籍では、過去に戸籍を編成した要因を、新しい戸籍にも転記していました。

このため、戸籍を編成した理由が複数記載されていることも珍しくなく、見誤りの原因となりがちです。

 

【メモ】改正原戸籍と除籍謄本

 

連続した戸籍を集める際に、改正原戸籍と除籍謄本という用語を知っておくと、混乱せずに済みます。

どちらも閉鎖された戸籍ですが、制度が変わって改製された場合は「改製原戸籍」、全員が除籍された場合は「除籍謄本」として保管されます。

 

本人がいつからいつまで在籍していたかも見落とさない

 

それぞれの戸籍が、いつ編成され、いつ消除されたかだけでなく、被相続人が、いつからいつまで在籍したかも重要なチェックポイントです。

 

たとえば、昭和2年2月1日生まれの方の出生届が受理され、初めて入籍した時の戸籍は、2月1日以前に編成されているはずです。

 

しかしながら、出生の記録は、新たな戸籍でも記載されるため、戸籍の編製日を確認しないと、その後の転籍などで編成された戸籍を見ている可能性もあります。

 

また、養子縁組によって入籍した、養子が被相続人となっている場合は、出生時の戸籍は実親の戸籍をたどらなければなりません。

 

したがって、出生時の戸籍からの連続を確かめるためには、戸籍がいつできたかだけでなく、いつ養子となって入籍したかを確認することが重要なのです。

 

複数の編成要因が記載されているときは、いつ作られた戸籍か要注意

 

昭和26年に制度が改正される前の戸籍では、新たな戸籍を編製するときに、以前の戸籍に書かれていた戸籍の編成要因すべてが転記されました。

 

このため、見ている戸籍がどの編成要因によって新たに作られたのか、分かりにくい状態が発生します。

 

このような記載方式は、現在でも取得する機会の多い大正4年式戸籍まで見られ、昭和30年代前半ころまで使用されていました。

 

複数の編成要因が記載されている具体例を、確認してみましょう。

編成要因は、「戸籍事項欄」と呼ばれる、本籍欄のすぐ左側に記載されます。

 

 

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大正4年式「戸籍事」項の具体例

この例では、①出生、②婚姻、③家督相続、④転籍、⑤死亡、⑥戸籍の消除について記載があります。

このうち、②婚姻、③家督相続、④転籍は、いずれも戸籍の編成要因です。

 

つまり、連続する戸籍としては、出生により入籍した戸籍、婚姻で編成された戸籍、家督相続で編成された戸籍、転籍で編成された戸籍の4種類あることになります。

 

この例に記載されている戸籍の編成要因のうち、②と③は、過去に戸籍が編成されたときのものであって、この戸籍の編成要因ではありません。

 

最後の④転籍が、最も新しい戸籍の編成要因となるため、この戸籍で証明できる期間は転籍日以降だけです。

 

したがって、かりに婚姻が戸籍の編成要因と読み違うと、転籍日前日までの、婚姻や家督相続で編成された戸籍を取得し損なう恐れがあります。

 

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戸籍が新しく編成される要因と連続する戸籍の種類

このように、古い戸籍を読み解く場合は、特に、戸籍の編製要因を取り違えないようにしなければなりません。

 

まとめ

 

戸籍は、見る機会も少なく、見方に慣れていない方が圧倒的に多いと言えます。

市区町村役場で大正4年式戸籍を取得しても、どこをどう見れば良いか、手書きの文字は小さく、判読しにくいこともあって、見誤る事態も起こりがちです。

 

相続人を確定する際は、出生から死亡まで、戸籍の日付が連続しているか、被相続人が連続して在籍しているかが確認のポイントです。

 

また、読み間違えないためには、戸籍の編成要因や編製日、消除日、除籍日などを、じっくり「読み解く」ことが大切です。

マンションを相続する際の評価額の調べ方

不動産を相続する場合は、相続税の計算に手間がかかります。

というのも、評価額を自分で計算しなければならないからです。

 

建物なら、市区町村から郵送される、固定資産税の納付通知書の評価額がそのまま当てはまります。

 

しかしながら、土地の場合は、路線価や倍率方式があるため、どちらに該当するかを確かめなければなりません。

さらに、路線価方式の場合は、土地の状況に応じた補正率を確認して、計算式に当てはめて計算する必要があります。

 

戸建て住宅の場合は、ここまで調べると評価額が分かりますが、では、一つの土地に多くの住宅がある区分所有マンションの場合は、どうでしょうか。

 

どうやって調べればいいの?そんな相談に答えるために、今回は、区分所有マンションの評価額の調べ方について、分かりやすく紹介します。

 

 

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区分所有マンションの評価額

 マンション全体の評価額の調べ方

 

区分所有マンション相続税評価額を計算するときは、戸建住宅と同様、建物と土地を別々に計算します。

 

計算によって得られたそれぞれの評価額を合計すると、区分所有マンションの評価額を計算できます。

 

区分所有マンションの評価額 = 建物の評価額  +  土地の評価額

 

建物評価額の調べ方

 

マンションは、自分だけが出入りできる専有部分と、マンションの住人や訪問者が利用する共有部分があります。

 

エントランスやエレベーター、廊下などが共有部分になっていることは、入居時の説明などでご存知の方も多いでしょう。

 

建物全体のうち、自分が所有する部分を計算しなければならないとなると、これは大変と思われるかもしれません。

 

しかし、計算する必要はありませんので、安心してください。

「固定資産税評価額」には、自分が所有するマンションの専有部分と共有部分の合計額が、記載されています。

 

建物の評価額 = 固定資産税評価額 (⇦専有部分と共有部分の合計が記載)

 

共用部分の評価額は、すべての区分所有者が所有する専有部分の床面積の割合によって、あらかじめ計算されています。

 

この固定資産税評価額は、納税通知書で確認する方法と、市区町村役場で固定資産税評価額の証明書を取得して確認する方法があります。

 

土地評価額の調べ方

 

土地の評価額は、建物と違い、固定資産税評価額を当てはめることができません。

まず、土地全体の評価額を計算して、自分の持分割合をかけ算して、計算します。

 

区分所有マンションの土地評価額 = マンション全体の土地評価額 × 持分割合

 

マンション全体の土地評価額

 

全体の土地評価額は、2種類の計算方式があります。

市街地の場合は「路線価」が決められていて、それ以外の土地は「倍率」が決められています。

 

路線価は、面している道路によって決まる、1平方メートル当たりの評価額で、倍率は、固定資産税評価額の何倍かを決める割合です。

 

路線価のある土地の場合は、次の式で計算します。

マンション全体の土地評価額 = 路線価 × 面積 × 補正率

 

「補正率」は、標準的な土地と比べた時の「条件の良さ・悪さ」を意味し、条件の良し悪しで評価額が増減します。

 

条件が良いケースとしては、敷地の2面や3面が道路に接している場合があります。

この場合は、評価額が上がることになります。

 

反対に、条件が悪いケースとしては、奥行きが短い、逆に、奥行きが長い、台形や三角形など変形しているなどがあります。

 

この場合は、条件によって決められている補正率を当てはめると、評価額が下がることになります。

 

評価額が上がる補正率としては、側方路線影響加算や二方路線影響加算、下がるものとしては、奥行き補正や間口狭小補正、奥行長大補正などがあります。

 

それ以外の土地の場合は、次の式で計算します。

マンション全体の土地評価額 = 固定資産税評価額 × 倍率

 

倍率は、「字」程度の単位の地域に、共通で設定されている数値で、宅地や田、畑、山林などに区分されています。

 

持分割合

 

持分割合は、マンション全体に対する専有部分の割合を意味します。

管理費や修繕費を割り当てる際は、この割合を基に配分します。

 

この持分割合は、区分所有マンションの登記簿や売買契約書の記載で確認することができ、10万分の195などと書かれています。

 

まとめ

 

区分所有マンションの評価額も調べ方が分かると、自分で計算できます。

詳しい当てはめ方や補正率も、国税庁のホームページに詳しく掲載されています。

 

ただし、該当する補正率を探して、間違いなく正確に計算するのは少々厄介なため、いくつもの条件に当てはまるような場合は、専門家に相談することをおすすめします。

相続登記を放置した土地の売却に失敗した事例

相続登記放置すると、のちのちトラブルの原因になることは、以前のブログでも紹介しました。

不動産を相続した場合は、所有者の名義を変更しておかないと契約できず、売却を進めることができません。

 

今回は、買い手が決まったのに、相続登記を放置していたために、売買契約を諦めなければならなかった事を紹介します。

 

失敗事例から、そうならないための教訓も見えてきます。

 

失敗の内容と原因

 

親が亡くなった後に居住し、別宅を購入して転居した後も、管理や固定資産税の支払いを続けた不動産に、買い手が現れました。

売却価格も決まり、あとは契約して所有者の名義を変更すれば、一件落着のはずでした。

 

失敗の内容

 

購入を希望する方から相談を受け、必要な手続きを確認するために、登記情報を取得して不動産の所有者を確かめました。

 

すると、所有者は、現在売買の話を進めていた当事者ではなく、亡くなった父親であることが判明したのです。

 

売買契約や登記申請手続きは、所有者本人、あるいは相続人全員で行う必要がありますから、相続人を調べて全員の承諾を得なければいけません。

 

1カ月近くかけて戸籍などを取得した結果、相続人は判明したのですが、戸籍の附票から分かるのは住所だけです。

 

当事者の方に連絡してもらうよう、手紙と返信用切手を貼った封筒を入れ、配達記録が残る特手記録郵便で送付し、返信を待ちます。

 

当事者以外の8人の相続人のうち、7人からは連絡があり、事情を理解して、当事者が相続することを了解してもらうことができました。

 

しかしながら、比較的近くに住む甥だけは連絡が取れず、遺産分割の話を進めることができません。

理由は分からないままですが、訪問しても居留守を使って、会うことを拒否しているようです。

 

半年かけて、連絡を取るために様々な方法を試みましたが、結局、連絡を取ることができず、買主は諦めることを決断。

 

このため、売却話は失敗に終わり、ここで打ち切らざるを得なくなったという訳です。

  

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相続関係説明図

 

失敗の原因

 

売却が進められなくなった直接の原因は、相続人全員からの承諾を得られなかったことです。

 

しかしながら、根本の原因は、不動産の相続登記を放置したことで、のちのちトラブルになりやすいことの証明でもあります。

 

事例から知ることができる、トラブルの原因を確認しておきましょう。

 

記憶の薄れと口約束

 

相続発生から長い時間が経過すれば、記憶が薄れていきます

 

当事者が住んでいたころは、兄弟すべてが、当事者が相続することを認めていたものの、暗黙の了解や口約束で、その証拠がありません。

 

また、当事者が不動産を譲り受けるかわりに、長男には金銭を渡し、領収書ももらった記憶があるのですが、その領収書は見つかりません。

 

会ったこともない疎遠な相続人が増えていく

 

当事者を除く相続人8人のうち、甥と姪が4人いますが、一度もあったことがありません。

また、亡くなった兄弟の奥さんとも、数回しか会ったことがなく、ほぼ疎遠な状況でした。

 

このように、長い時間が経過するほど疎遠な方が増えていくため、血縁とはいえ、見ず知らずの他人と変わらない状況が発生します。

 

利害関係が複雑になる

 

疎遠なれば、特に金銭にまつわる話は特にまとまりにくくなります。

 

互いに状況が理解しづらく、たとえ、固定資産税の支払いや、費用や労力をかけて管理していたとしても、意に介さなれないことも多くなるでしょう。

 

相続を承諾するかどうかの判断になると、代襲相続人だけでなく、その家族も加わって、様々な損得勘定が働くことになります。

 

今後もトラブルが発生しやすい

 

時間をおけば、相続協議に参加しなかった甥も、気が変わるかもしれませんが、あまり期待はできません。

 

相続人間での遺産分割協議が進まなければ、不動産は相変わらず共有状態が続き、年月の経過とともに、さらに相続人の数だけが増えます

 

そうなれば、さらに遺産分割協議ができるような状態を期待することが困難になり、これまで管理してきた当事者も、その意欲をなくす懸念があります。

 

将来的に管理者がいなくなれば、相続不動産は所有者が確定しないまま、場合によっては放置され、近隣に迷惑がかかることにつながります。

 

現在、法務省の法制審議会では、所有者不明土地の相続登記を義務化する案が検討されていますが、実施時にはトラブルが起きるかもしれません。

 

事例から学ぶ対策

 

相続登記を放置したことが原因で発生した、今回の事例から学ぶことが多くあります。

 

所有者として

 

このようなトラブルを引き起こさないために、所有者の立場で対策を取ることができます。

 

相続がスムーズに進むように、生前に不動産を整理することや遺言書を残すことなどが有効な策となります。

 

相続人の立場から

 

身近な方が亡くなれば、葬儀や墓地の手配、初七日や四十九日の法要など、悲しむ余裕もなく進めていかなければなりません。

 

慌ただしく手配や法要が終われば、ようやく日常生活に戻りますが、今度は日々の仕事や生活に追われ、相続手続きを放置することにもなりかねません。

 

このため、葬儀や法要が終わったら、できるだけ早めに遺産分割協議や相続登記の申請手続きを済ませておくことが、とても大切です。

 

もし、すぐには手続きに着手できない場でも、暗黙の了解や口約束ではなく、文書にして証拠を残しておくことが重要です。

 

ただし、そのような場合でも、できるだけ早めに手続きをしておきましょう。

 

まとめ

 

遺産の分割について決める際は、親しさの度合いが深いほど、言い出しにくいこともあるでしょう。

しかしながら、何も決めずに放置しておけば、今回のようなトラブルにつながる恐れがあります。

 

このため、費用がかかりますが、専門家に依頼して、早めに遺産分割協議や相続登記を終わらせておくことが、おすすめです。

 

結果的に、のちのちの売却や賃貸だけでなく、良好な親族関係を保ち、また、故人が遺した財産の有効利用につながります。

相続した農地をタダで譲る手続き

相続した不動産を手放したい。

特に、その土地を離れて暮らす方からの、こんな相談が後を絶ちません。

なかでも、農地は、法律上も現実的にも、適切な管理が求められることから、相続人の大きな負担となっていることが垣間見えます。

 

高齢化や後継者不足の時代を迎え、農地の売買や貸借は、年々困難さを増しています。

今回のブログでは、管理できなくなった農地をタダで譲り、有効な利用を図ることができた事例を紹介します。

今後の解決策の一つかもしれません。

 

相談内容と解決策

 

まず、相談者からの依頼内容と、解決策を確認しましょう。

 

■相談内容■

 

相談者は、妻と2人で暮らす76歳の男性と、その長男です。

男性は、実家から車で1時間ほど離れた場所に移り住んだ後も、実家近くの農地で米作りに励んできました。

 

現在では、高齢となって「通勤農業」に限界を感じていますが、子どもたちは会社勤めをしているため、後継者がありません。

 

このため、農業を廃業したいと考えているのですが、先祖からの相続不動産手放すより良い方法について、ご相談です。

 

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管理されないままの農地

■解決策■

 

依頼の農地を調査したところ、営農するうえでの環境や条件には恵まれているものの、買い手や借り手がいない状況です。

 

農地を処分するといっても、動産のように廃棄処分や所有権放棄するわけにはいきません。

所有している限りは、周辺農地に悪影響が及ばないように、適切に管理する義務を負っているのです。

 

このため、地続きの農地を耕作しているほかの農家に無償で譲り渡し、農地として利用し続けてもらうことが解決策となりました。

 

売却や貸し付けが可能?

 

農地を手放したいというご相談が多く寄せられます。

最善の「より良い方法での処分」は、買い手や借り手が見つかることでしょう。

 

しかしながら、高齢化や後継者難、過疎化、鳥獣害による被害といった、農業を続けていくための悪条件が重なっているため、容易ではありません。

 

ここからは、事例から確認できた、相続農地を手放す場合の注意点や手続きについて確認していきましょう。

 

農地は売却が難しい

 

農地は、農地として利用することが求められるため、買い手が少なく、一般的に、宅地のような売却は期待できません

買い手となる農業者も減少しているため、需要が減り、価格も低迷しています。

 

農地の価格はピーク時に比べて4割程度下落

 

(一社)全国農業会議所が毎年実施している、「田畑売買価格等に関する調査結果」から、農地取引の実態を確認してみましょう。

 

この調査結果によれば、農地の価格は年々低下しています。

2019年の純農業地域の農地価格は、ピークとなった1994年に比べ平均的な田で約42%、平均的な畑で約36%も下落しました。

 

その要因としては、複数の影響が挙げられています。

最たるものが、農地の「買い手の減少や買い控え」で、農産物価格の低迷などによる生産意欲の減退、後継者不足と続きます。

 

耕作放棄地や所有者不明農地が、全国的な問題として指摘されていることからも明らかなように、農地の取引が低迷しているのが現状です。

 

農業委員会での聞き取り

 

農地の売買や貸借については、農業委員会が中心的な役割を果たしながら、農地有効利用の橋渡が図られています。

 

農地中間管理機構が間を取り持つ売買や貸借、また、市町村レベルでの売買や貸借を試みる「農地バンク」、農業委員会の仲介などが、その方法です。

 

このため、売買や貸借の可能性があるか、農業委員会や地区担当の農業委員から、聞き取り調査を行いました。

 

しかしながら、ここでも農地を売りたい、貸したい希望者ばかりで、買い手や借り手がいないことが分かりました。

 

無償でも借り手がなく、管理にも手が回らない、ここに、田舎にある相続農地の深刻さが浮き彫りになります。

 

土地の所有権は放棄できる?

 

売却や貸すことができず、管理もできなくなった場合、農地の所有権を放棄して、国や町に引き取ってほしい。

相談を受ける方々からは、そんな期待を耳にすることがあります。

 

国や自治体への寄付を考える方もいますが、行政上の利用目的がなければ、受け付けてもらうことはできません

なぜなら、管理などの負担が増えるだけになってしまうからです。

 

民法では、所有者のいない不動産は国の所有に属すると規定されていますが、所有者が所有権を放棄した不動産の扱いについては、規定がありません。

 

不動産の所有権を抹消するためには、抹消登記の申請をしなければなりませんが、国の協力が得られなければ実現しません。

 

農地をタダで譲る

 

農業委員会から働きかけてもらったところ、この農地の場合は、隣接する農地の所有者が面積規模を拡大したいと考えていました。

 

そのため、無償なら譲り受けたいとの意向を示したため、相談者も、手続きや費用を負担してくれるなら、無償で譲渡しても良いとの結論に至りました。

 

その背景には、農地の管理や固定資産税の支払いを免れることができ、先祖から譲り受けた農地を放置せずに済むとの思いがあったのです。

 

ただし、無償で譲渡する場合でも、農地には農地法による権利移動の制限があります。

このため、タダで譲る場合にも、その許可申請手続きが必要です。

 

譲るためには、農地法3条許可申請手続きが必要

 

農地を売却や贈与する場合、たとえ親子間であっても、農地法第3条の規定に基づいて、農業委員会などの許可を受けなければなりません。

 

この許可申請をするためには、双方に要件があることに注意が必要です。

 

譲渡人の要件

 

譲渡人は、不動産登記をした所有者でなければ、権利者として申請できません。

したがって、原則的に、相続登記を済ませておく必要があります。

 

譲受人の要件

 

譲り受ける相手には、農地を農業に利用できる者の要件を満たしている必要があります。

 

個人の場合、まず、農業を行う際の最低限の面積が決められています。

市町村によって、この下限面積が設定されていますが、当地域の場合は20aでした。

新たに取得する農地と、現在農業を「適切」に営んでいる農地の合計が、20a以上なければ申請できません。

 

また、農業を継続して営んでいくための、農業経験のほか、実際に農業を行うための農機具や資材、労働力があるかも要件になります。

 

法人の場合は、農地を所有できる法人の条件が厳格に定められているため、その要件がクリアできる場合のみ、申請の対象です。

 

許可後の手続き

 

農地法第3条による許可が下りれば、あとは、所有権の移転登記の申請手続きを行って、所有者の名義を変更します。

 

この申請は、司法書士に依頼することが一般的ですが、自分で行うこともできます。

申請の際は、贈与契約書、印鑑証明書、登記済み権利証、譲り受ける方の住民票などが必要です。

 

なお、不動産取得税はかかりませんが、不動産の評価額に応じた贈与税がかかることに注意してください。

 

まとめ

 

利益を得ることにはつながりませんでしたが、譲渡後の管理や固定資産税の支払いを免れることができ、相続した農地の心配から解放される結果となりました、

 

また、譲り受ける農家からは、譲渡手続きにかかる費用を負担してもらうことで、両者にとって不利益のない解決策となったと言えそうです。

身近な人が亡くなったときに必要な不動産相続の手続き

良くある相談として、相続の発生後かなりの年月が経過してから、相続した不動産の名義変更手続きをしたいというものがあります。

 

身近な人が亡くなった場合、悲しむ余裕も十分にないまま、慌ただしく葬儀や後片付け、四十九日の法要などを済ませなくてはなりません。

 

自分が不動産を相続することは、相続人の間で了解されていると安心している方が多く、緊急性がなければ、なかなか手続きに着手しない方も珍しくありません。

 

しかしながら、時間が経過してしまうと、いざ売却や貸借をしようと思ってもトラブルが発生しやすく、相続手続きがスムーズに進まない傾向にあります。

 

そんなトラブルに陥らないように、今回のブログでは、身近な人が亡くなった時に必要な不動産の相続手続き、相続登記を自分で行う場合に必要な書類について、紹介します。

 

特に、相続登記を自分で行う場合に必要な書類のうち、相続関係説明図と遺産分割協議書について、一人が相続する場合の書き方について、具体的に紹介します。

 

身近な人が亡くなったときに必要な不動産相続の手続き

 

身近な人が亡くなると、死亡届など、まずは行政面での手続きが必要ですが、並行して遺産の相続手続きも必要になります。

不動産の相続について、一般的な流れを確認していきましょう。

 

遺言書の有無

 

最初にすべきことは、遺言書があるかどうかの確認です。

公正証書遺言なら検認の必要はありませんが、自筆証書遺言の場合は、家庭裁判所での検認手続きが必要です。

 

遺言書がない場合は、相続人の間で遺産分割協議を行って、不動産をだれが、どれだけの割合で相続するかを決めます。

 

不動産の調査

 

相続不動産については、不動産の権利証や固定資産税納税通知書などから特定し、登記情報や登記簿謄本を入手します。

 

なお、複数の不動産を所有していた場合、市区町村役場で名寄帳を取得すれば、同一市区町村内にある所有者名義の不動産をまとめて確認することができます。

 

相続人の調査

 

相続手続きの基本は、戸籍から相続人を間違いなく調べ上げることです。

 

遺産分割協議は、権利のある相続人全てが参加して行う必要があるため、協議の前には戸籍によって戸籍上のつながりを調べ、相続人を確定しなければなりません。

 

存在を知らされていない義兄弟や、認知した子がいるなど、協議の後になって別の相続人の存在が判明した場合には、協議をやり直すことにもなりかねません。

 

また、相続放棄や限定承認は、相続の発生を知った時から3カ月以内であれば選択することができるため、相続人の人数に影響します。

ただし、相続の発生からかなりの時が経過してしまった場合は、その時点で選択することはできません。

 

なお、相続不動産の名義変更(相続登記)を行う場合は、法務局に、被相続人と相続人の相続関係を証明するための戸籍を提出する必要もあります。

 

遺産分割協議書の作成

 

被相続人が所有していた不動産を、相続人がどのように遺産分割するかについての協議結果は、「遺産分割協議書」を作成して証明します。

 

相続登記では、協議書に相続人全員が署名と実印を押印した上で、印鑑登録証明書を添えて提出しなければなりません。

 

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不動産相続の手続きフロー

 

一人が不動産を相続するための書類の書き方

 

たとえば、親と同居していた長男が、実家の家屋敷を一人で相続するようなケースは、良くあるパターンです。

 

このような場合、複数の相続人のうち一人が不動産を相続することになるため、多くの方が「相続放棄の手続きが必要なのではないか?」という疑問を持っています。

 

しかしながら、この疑問については、遺産分割協議書と相続関係説明図を適切に作成することで、問題なく解決できます。

 

遺産分割協議書

 

遺産分割協議書は、遺言書がない場合に、遺産の分割について相続人全員で協議し、決めた結果を証明するために作成します。

 

したがって、相続人全員で協議を行って、相続人のうち一人が相続すると決めたことを記載すれば、それで成立します。

 

一人が相続する遺産分割協議書の記載例

 

具体的な記載例を確認しておきましょう。

 

まず、相続人全員で協議を行って、合意したことを記述します。

 

「被相続人 (A)の共同相続人である(B)、(C)、(D)の3名は、遺産分割協議を行い、次のとおり合意した。」

 

次に、合意内容を記述します。

相続人(C)が不動産を相続することを合意した場合は、次にように記述します。

 

「1.  相続人 (C)は、下記の不動産を相続する。」

 

なお、協議の対象とする不動産については、遺産分割協議書中で、「下記」などとして具体的に表示しておく方法が一般的です。

 

最後に、合意事項を証明するために遺産分割協議書を作成すること、相続人それぞれが署名し、押印することなどを記載します。

 

「この遺産分割協議の合意を証するため、本協議書3通を作成し、各相続人が署名、押印のうえ、各自1通を所持するものとする。」

 

作成日付を記入し、相続人全員が住所と氏名を記入し、実印で押印します。

なお、住所は、印鑑登録証明書と全く同じように、略さず記載することに注意しましょう。

 

相続関係説明図 

 

相続関係説明図は、被相続人と相続人について、相続する権利の関係を図示するために作成する、家系図のような書類です。

 

先に紹介した遺産分割協議書を例にすれば、相続人のうち(C)だけが不動産を相続することになるため、氏名の上に「相続」と記載します。

 

一方、相続人(B)と(D)は相続せず、(C)に遺産を分割したという意味で、氏名の上に「分割」と記載します。

 

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相続関係説明図

相続登記を自分で行う場合の必要書類

 

亡くなった人から相続した不動産について、名義を変更する手続きは、相続登記と呼ばれます。

 

この相続登記手続きは、基本的に、自分で行うことができます。

ただし、準備する戸籍や作成する書類が多いなど、途中で断念する人も多いのが実態です。

 

このため、事前に必要書類を把握しておけば、無駄を省くことができるだけでなく、状況によっては専門家に依頼することを決める判断材料にもなります。

 

また、不動産の相続評価額によっては、相続税が発生するケースもありますから、注意が必要です。

 

遺産分割協議による相続登記の必要書類

 

申請手続きには、相続登記申請書のほか、遺産分割協議により相続する場合は、遺産分割協議書が必要です。

遺産分割協議書には、相続人全員が署名し、実印を押印するとともに、印鑑登録証明書を添付します。

 

このほか、被相続人と相続人の関係を示す戸籍謄本などの添付書類が必要です。

戸籍謄本などからは、相続関係説明図を作成します。

 

まず、被相続人について、出生から死亡までの戸籍が分かる戸籍謄本や除籍謄本、住民票の除票が必要です。

 

戸籍は、出生から死亡まで連続する戸籍が必要で、本籍を移動している場合は、移動前の本籍地で除籍謄本を取得します。

 

住民票の除票は最後の住所地を証明する書類ですが、不動産登記簿の住所と異なる場合は、戸籍か除籍の附票が必要になることがあります。

 

なお、登記簿の住所地を証明する書類が、保存期限を過ぎることなどによって消失し、住所が証明できない場合には、不在住証明が必要なケースもあります。

 

また、相続人全員について現在の戸籍謄本、相続不動産を譲り受ける相続人は、住民票、固定資産評価証明書、登記にかかる登記免許税(固定資産評価額の1000分の4)も必要です。

 

まとめ

 

自分で相続登記手続きを行う場合、必要書類の多さと複雑さに嫌気がさして、途中で断念する方が少なくありません。

 

また、高額な不動産の場合は、相続発生から10カ月以内に支払わなければならない相続税についての対応もあります。

 

放っておくと後が大変になるケースが多いですから、相続が発生したら専門家に相談して、できるだけ早めに対応することをおすすめします。

 

相続人の死亡日によって相続人の数が変わる?代襲相続と数次相続

 

相続した不動産を売却したいと思ったときに、長期間に渡って名義変更手続きを放っておくと、手間取ったり、支障が生じたりしやすくなったります。

 

今回は、寄せられる相談の中でも特に多い、相続未登記の不動産を売却するために必要な、相続手続きに関する問題やトラブルについて紹介します。

 

売却前には、不動産登記の所有者について、亡くなった人から名義を変更する手続きを行っておく必要があります。

 

この際には、相続したことを証明する様々な添付書類を提出する必要があるのですが、取得や準備に手間取る事態が発生しやすくなるのです。

 

また、相続が発生してから登記申請までの期間が長くなれば、相続人も死亡して数次相続が発生することがあり、相続関係が複雑化します。

 

今回のブログでは、相続登記を放置したケースについて、売買契約前に必要な相続手続きや、その際に発生しやすいトラブル、数次相続が発生した場合の問題点を紹介します。

 

相続登記を放置していた不動産、売却したい場合の問題点

 

相続登記、いわゆる名義変更を行っていない不動産は、そのまま売却することができません

 

所有者が亡くなった後に、固定資産税の支払いや管理を行ってきた場合でも、登記簿上で所有者になっていなければ、売買契約の売主になることはできません。

 

登記申請するためには相続手続きが必要

 

相続した不動産を売却する際は、事前に相続登記を行って、登記簿上の所有者を相続した者に変更しておく必要があります。

 

この相続登記の申請手続きを行うためには、相続手続きを最初から行わなければなりません。

つまり、遺言書の有無や相続人の調査、相続人全員による遺産分割協議などの相続手続きを行って、申請手続きに必要な書類をそろえる必要があるのです。

 

相続発生から長期間が過ぎると相続関係が複雑化

 

相続登記をしないまま長い期間が経過した場合、相続人も歳を取り、世代交代も進んでいきます。

こうなると、戸籍から相続人をたどっていく相続人調査は、難航することが多くなります。

 

相続人が亡くなっている場合は、子孫が相続することになり、血縁関係の遠い相続人が加わるだけでなく、相続人の数が増えることになります。

 

また、相続人が、相続発生より後に死亡した場合は、新たに別の相続が発生する数次相続の状態になり、相続関係は複雑さを増していきます。

 

複雑化した相続関係では遺産分割協議が成立しにくい

 

名義を変えないまま放置した不動産は、いざ相続登記をしようと思っても、このように複雑化した相続関係になると、遺産分割協議が成立しにくくなる傾向にあります。

 

代襲相続数次相続が発生すると、兄弟姉妹の子孫など、会ったこともない、住んでいる場所も知らないなど面識のない相続人たちと、遺産分割協議を行わなければならない状況も発生します。

 

また、遠方や国外に住んでいるケースや、連絡がつかないケース、わずらわしい協議に関心が得られないケースなど、遺産分割協議を始めることができない事態も発生します。

 

このような状況で、遺産の分け方の話し合いがスムーズに進むことが想像できるでしょうか?

 

代襲相続と数次相続の違い

 

名義を変えないまま放置した不動産は、いざ相続登記をしようと思っても、相続関係が複雑化してスムーズに進みにくいことを紹介しました。

 

中でも、代襲相続と数次相続は、正確に判定しなければなりません。

似ているようにも思われますが、相続人に違いがあるため、どちらに該当するのか戸籍から見極める必要があります。

 

代襲相続

 

代襲相続は、相続が始まった時点において、相続人となるべき者がいない場合に、相続人の代わりにその子孫が相続できる制度です。

 

単純に言えば、被相続人が死亡した日よりも前に相続人が死亡している場合、その子が代わって相続できる仕組みです。

 

たとえば、夫が死亡して被相続人となる場合、それ以前に子が亡くなっているケースが該当します。

孫がいれば、子に代わって孫が相続できます。

 

なお、代襲相続が発生する原因は、相続人の死亡が最も一般的ですが、相続人として相応しくない「欠格」者、相続から廃除された者にも代襲相続が発生します。

 

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代襲相続の例

 

数次相続

 

数次相続は、相続が発生した後であって、しかも遺産分割協議や相続登記を済ませる前に相続人が死亡して、別の相続が新たに発生してしまうことを指します。

 

先ほどの例で言えば、夫が死亡して相続が始まり、妻と子が相続人になったものの、相続登記を済ませる前に子が死亡した場合が該当します。

 

孫が、子の財産を相続することになるところは、代襲相続と同じです。

しかしながら、子の財産を相続するのは、配偶者と孫となる点で、代襲相続とは異なるのです。

 

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数次相続の例

 

代襲相続か数次相続かの判定方法

 

相続が発生してから長期間が過ぎた後で相続人を確定する際には、相続人が死亡している場合でも、代襲相続か数次相続を見分けなければなりません。

 

すでに確認したとおり、代襲相続と数次相続では対象となる相続人が異なり、数次相続に該当すれば、さらに相続人の数が多くなる可能性もあるのです。

 

被相続人の死亡日と相続人の死亡日との前後関係で判定

 

代襲相続と数次相続は、被相続人の死亡日と相続人の死亡日を比べ、どちらが先かで判断します。

相続人の死亡が先なら代襲相続、相続人の死亡が後なら数次相続です。

 

相続関係説明図を作成すると効果的

 

代襲相続か、あるいは数次相続かを見分けるには、相続関係説明図を作成する方法が効果的です。

図で具体例を確認しましょう。

 

先に死亡した兄に代襲相続、後で死亡した弟に数次相続の例

 

被相続人の死亡日は、2000年1月1日です。被相続人は未婚であったため、配偶者と第一順位の子がいません。

また、第二順位の両親はすでに死亡していて、相続人には該当しないとします。

 

この場合は、第三順位の兄弟が相続人ですが、兄は10年前の1990年1月1日に死亡しています。

このため、兄には代襲相続が発生し、兄の子aと子bの2人が相続します。

ちなみに、兄の妻は相続人ではありません。

 

また、被相続人となる弟は、相続発生から10年後の2010年1月1日に死亡したとします。

この場合、弟には数次相続が発生することになり、弟の妻と子c、子dの3人が相続人に加わることになります。

 

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【例】代襲相続と数次相続による相続人の違い

まとめ

 

被相続人の死後、長期間にわたって相続登記を放置した不動産を売却する場合は、要注意です。

相続手続きが終わらない限り、売却契約を交わすことができません。

 

相続人が行方不明で連絡がつかないケースや、相続人の住所が分かっても反応が得られないケース、遺産の分け方に合意が得られないケースなど、様々なトラブルが発生しやすくなります。

 

このようなケースに該当する場合は、自分で処理することが難しいため、専門家に相談しながら進めることをおすすめします。

不動産の相続登記は、できるだけ早めに済ますことが得策です。

相続未登記の農地を借りて一時転用できた事例

所有者が分からないまま放置されている家屋や土地の存在は、地域の円滑な経済活動に支障を及ぼすケースが目立つようになっています。

 

所有者が死亡して名義変更されていない土地は、売買や貸借などの対象にできないケースが多く、有効に利用されないまま放置されていることも珍しくはありません。

 

今回のブログでは、工事を行うために一時的な設備の設置場所を確保するため、相続未登記の農地を借りて一時転用できた事例を紹介します。

 

今回のブログでは、所有者が不明な場合の連絡方法と、相続未登記の土地を借りることができる相手、農地の一時転用申請に添付しなければならない書類の3つがポイントです。

 

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相続関係説明図

■相談の内容■

 

相談者は地元の建設業者の方で、建設資材置き場として、工事用地に隣接する耕作されていない農地を借り受けたいとのご相談です。

 

所有者は分からないが、ほかに代替地が無いため、どうしても借り受けたいので調べてほしいというものです。

 

■相談者への提案■

 

所有者と連絡が取れない農地の貸借は、大きく三つの問題をクリアしなければなりません。

一つ目は所有者と連絡が取れるかと、二つ目は農地として転用可能かということです。

 

そして、さらに大きな問題が相続未登記ではないかということです。

 

すべてを調べ上げるには時間がかかること、また、必ずしも借り受けられる保証がないことを説明しつつ、それぞれの調べ方を提案しました。

 

ほかに代替地が無いため、可能性がゼロでなければ調べてほしいとの回答であることから、調査と手続きに着手することとなった次第です。

 

所有者が分からない土地の連絡先を調べるには?

 

荒れ地になっているなど、不作付け地や荒廃地を借りたいケースでは、連絡を取るべき相手が分からないケースが多く見られます。

他出した所有者一家に代わり、地元に残る親族や知人が窓口になっていたものの、世代交代が進んで疎遠になれば機能しなくなる傾向にあります。

 

地番を探し出して登記情報を取得する

 

所有者の連絡先を知る親族や知人がいなくなれば、通常は連絡の取りようがありません。

そんなケースでは、登記情報または登記簿謄本を取得して、所有者の住所・氏名を確認することから始めます。

 

登記情報は、土地の地番さえ分かればインターネットから容易に得ることができます。

 

しかしながら、地番が分からない場合は、住宅地図で見当をつけ、登記所に備え付けられているブルーマップから地番を探し出す作業が必要になります。

 

ブルーマップは精密なものとは言えませんが、住居表示が黒字、公図と地番が青字で表記されていて、だいたいの地番を調べることができます。

 

地番を探し出したら、その地番の土地が描かれている公図を取得します。

公図には、最近の測量によって作成された「14条地図」と、旧土地台帳付属図面とも呼ばれる「14条地図に準ずる図面」の2種類あります。

 

「準ずる図面」は、明治の地租改正時に測量された地図をもとにしたもので、いわゆる「縄伸び」や正確な形状を示していないものなどもあり、現状に合わない部分が多く見られます。

 

知りたい土地の地番は、公図と住宅地図を見比べ、道路との位置関係や土地の形状や大きさから探し当てます。

 

登記情報の所有者に連絡

 

登記情報を取得すれば、最新の所有者について住所と氏名が確認できます。

 

ただし、登記簿の住所は登記した時の住所であり、その後に転居した場合でも、所有者が住所変更登記を怠っていれば反映されません。

 

また、世代交代が進み、所有者が死亡している場合がありますが、相続登記、いわゆる名義変更手続きが行われていなければ、相続人全員の共有状態です。

 

本題からそれてしまいますが、この2つが所有者不明土地の大きな発生要因となっています。

 

しかしながら、公的に得られる情報はここまでですから、登記情報に記載された住所と所有者名から連絡先を探し当てることになります。

 

農地の場合、近隣農家や地区担当の農業委員、管轄する農業委員会から連絡先に関する情報を得られるケースもあります。

 

また、連絡先について情報が得られなければ、住所地への訪問や、郵送で返信を依頼する方法があります。

 

なお、郵送の場合、特定記録郵便などの配達を確認できる方法で送り、切手を貼った返信用の封筒を入れておくと、返信の確率があがります。

 

所有者が死亡して相続未登記の土地を借すことができるのはだれ?

 

登記情報で確認した所有者本人と連絡を取ることができれば、土地を借りたい相談もスムーズに進むケースが多いことでしょう。

しかしながら、登記情報の所有者が死亡して相続未登記の場合、賃貸借契約に印鑑を押せる本人が実在しません。

 

相続未登記の土地を借すことができる相手方

 

所有者が死亡して相続未登記の土地は、相続人全員がそれぞれの相続分で権利を持っています。

したがって、相続未登記で所有者が確定していない土地でも、相続人全員の承認があれば、借りることができます

 

この先を進めるためには、戸籍の調査が必要になります。

調査を進めるためには、相続人のうち一人と連絡が付き、その相続人から依頼を受けることが最低限必要な条件です。

 

相続人探し

 

ただし、戸籍を調べて相続人全員を特定する必要があります。

つまり、相続登記の手続きと同様、まず、死亡した所有者の出生から死亡までの戸籍を取得し、そこから順に相続人をたどっていく作業が必要です。

 

また、相続のために戸籍を取得できるのは、相続人あるいは相続人から依頼を受けた専門家に限定されますから、注意が必要です。

 

相続人全員から承認を得る

 

相続人探しが終わったら、相続人全員の連名方式で土地の賃貸借契約書を作成し、記名と実印での押印を依頼します。

 

農地を転用できる条件と手続き

 

農地を借りるためには、所有者の承諾、あるいは相続人全員の承諾のほかにも、農地を転用できるかという問題があります。

 

農地は、他の土地と異なり、農地法による規制があるため、転用不可能な農地であれば手続きを進めることができません。

 

転用可能な農地か確認

 

転用可能かどうかについては、あらかじめ管轄する農業委員会に相談しておく必要があります。

 

農地を転用するためには、農振農用地の指定から除外可能なことに加え、農地以外の目的に利用できない区域に該当しないことが必須の条件です。

 

農振農用地に指定されている農地の場合、除外を申請する手続きがありますが、すべてのケースで認められるわけではありません。

また、認められるケースでも、許可されるまでに長期間を要することが一般的です。

 

単純に言えば、農振農用地に指定されておらず、第3種または第2種農地に分類されている場合は、転用の可能性があると言えます。

 

農地法第5条許可申請

 

転用できる可能性がある農地なら、管轄する農業委員会に農地法第5条許可申請手続きを行って、審査を受けます。

 

知事決済のこの許可が下りれば、転用が実現できることになります。

 

農地の転用許可申請は、相続人であることを証明する戸籍などを添付

 

所有者が死亡している相続未登記農地の転用手続きは、極めて稀なケースと言っても過言ではありません。

土地の賃貸借契約同様、権利関係を確認しながら、手探りで手続きを進めることになります。

 

相続人全員が賃貸人側の申請者

 

通常、許可申請は、賃貸人と賃借人が連名で手続きを行います。

しかしながら、土地の所有者は死亡していますから、所有者に代わり相続人全員が相続分の権利を持つ状態で申請を行うことになります。

 

添付書類

 

相続人全員が賃貸人側の申請者となるため、所有者の相続人であることを証明する書類の束を添付しなければなりません。

 

具体的には、死亡している被相続人と相続人全員の関係を示す「相続関係説明図」、これを証明する全員の戸籍や戸籍の附票、印鑑登録証明書が添付書類です。

 

申請者は合計8名の相続人となったため、申請書とは別に賃貸人を連名で記した様式を用意し、全員が住所、氏名、職業を記載して、実印を押印します。

 

相談者への提案と解決

 

調査を進めたところ、死亡している所有者の相続人と連絡がつき、転用可能な農地と考えられることが判明しました。

 

さらには、相続人全員とも連絡が取れ、あわせて承諾を得られたことから、農地法第5条の許可申請を行う手順ことができました。

 

この事例では、様々な課題をクリアしながら進める必要があったため、相談者には逐次報告と提案を行いながら手続きを進めました。

 

この結果、「運よく」一時転用許可にたどり着いたというのが、今回の結果です。

 

まとめ

 

農地の転用手続きだけでも、かなり難関です。

今回は、これに加えて所有者不明、相続未登記という大きな問題がある農地でしたから、当初は実現困難かと思われました。

 

「運よく」実現に至りましたが、今回のように上手く行くケースは稀と考える方が良さそうです。

 

自宅以外の不動産、より有効利用するには生前贈与?それとも相続が得かの検証事例

財産を不動産として所有する方法は、現金や預貯金として保有することに比べて評価額が下がるため、相続税対策として有効です。

 

しかしながら、所有する不動産の相続については、亡くなった方の自宅を同居の親族が相続する場合などを除くと、相続税額をさらに下げる節税は期待できません。

 

また、生前贈与についても、夫婦間の自宅贈与なら非課税枠が利用できるものの、それ以外のケースでは所有している不動産の贈与税軽減は期待できません。

 

今回のブログでは、所有する不動産について、相続税額を下げるというよりも、より有効活用する視点から、生前贈与と相続を比較した事例を紹介します。

 

■相談内容■

 

相談者は、2人の子が数年前に独立し、ご自身は年金を満額受給できる年齢になった女性です。

3カ所のセカンドハウスがあり、そこから得られる賃料収入は、生活にゆとりを与えてくれています。

 

2年前の夫の他界を機に、不動産全てを自分名義に相続登記したのですが、この先遅かれ早かれ発生する自分の相続について思案するようになりました。

 

いろいろ考えた結果、自分一人で生活するための収入に不安はないため、セカンドハウスを子どもに生前贈与したいとのアイデアをお持ちです。

 

というのも、子は開業したばかりで資金が必要な状態にあるため、不動産を贈与すれば、子がそれを担保として資金融資を受けることや、売却による資金化も可能とお考えです。

 

つまり、さらなる節税策を考えたいというよりも、所有する不動産をより有効に活用する方法として、生前贈与を選びたいが得になるだろうかとのご相談です。

 

また、不動産を生前贈与しておけば、相続時の財産が減るため、相続税を減らす対策にもつながるだろうと想像しています。

  

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家族構成と財産

■ご提案■

 

親から子や孫への生前贈与は、年に110万円の暦年贈与や住宅資金の贈与、相続時精算課税制度などの節税策がありますが、不動産そのものを贈与する場合は税軽減の対象になりません。

 

まず、不動産そのものを贈与する方法は、選択肢から除外することを提案しました。

 

セカンドハウスを生前贈与する方法として、売却して現金を贈与することが考えられますが、売却に伴う税金や費用が発生するため、必ずしも節税につながるわけではありません。

 

選択するかどうかを判断するためには、生前贈与と相続の場合で税額や費用がどれくらいになるかを、具体的に比較することが重要です。

 

このため、一定の仮定を置きながら、それぞれの額についてシミュレーションを行って比較することを提案しました。

 

また、シミュレーションの結果から、収益性の低い2か所の不動産を売却し、その収入で費用や税金を賄いながら、非課税枠を利用する生前贈与を提案しました。

 

結果的に、余計な負担もなく、ご相談時に考えていたアイデアが実現できることになり、満足していただけるものとなりました。

 

不動産そのものの贈与は選択肢から除外を提案

 

居住用不動産やセカンドハウスを取得すれば、評価額が市場価格の7~8割に下がるため、現金で保有することに比べ、有効な相続税対策です。

 

しかしながら、不動産そのものを贈与する場合は、親子間なら税率が多少下がるほかには、特別な節税策がありません

 

ちなみに、親から子への不動産贈与にかかる贈与税は、不動産の評価額が2,000万円の例で見ると、基礎控除110万円を差し引いた後の額に45%を乗じ、贈与税の控除額265万円を差し引いた額になります。

 

評価額が2,000万円の不動産を贈与すると、約586万円と高額の贈与税がかかることになります。

贈与税 = ( 評価額 - 基礎控除 ) × 45% - 控除額

= ( 2,000  - 110   ) × 45% - 265 

=  585.5

 

まず、不動産全てを相続した場合に相続税がどれくらいになるか確認

 

生前贈与と相続を比較するためには、相続税の総額を知っておくことが大切なため、まずは全ての不動産を相続発生まで所有することを前提にシミュレーションします。

 

相続税を計算するための不動産は、自宅と賃貸用を合わせ4種類で、評価額は次のとおりです。

 

自宅マンションが2,500万円、賃貸用のマンションが2,000万円、以前住んでいた自宅マンションが1,800万円、相続した戸建住宅が1,500万円で、合計7,800万円です。

 

相続人が同居していれば、居住用と賃貸用の土地の評価額が減額される「小規模宅地等の特例」が適用できます。

 

この特例は、相続財産のうち、要件を満たす敷地のうち限度面積までの部分について、評価額から80%または50%減額できる制度です。

 

相談者の場合は、相続人である子ども二人がそれぞれ自宅を取得して独立しているため、適用できない状況が続くと仮定します。

 

また、不動産以外の財産として、月々の生活費と予備費を含め、300万円の現金を所持していたと仮定します。

 

相続税の基礎控除は、子二人が法定相続人となるため、固定額3,000万円と相続人それぞれ600万円ずつを加えて、合計4,200万円です。

 

この結果、相続税の課税対象となる額は、不動産の評価額から基礎控除を差し引き3,900万円です。

相続の課税対象額 =      相続時の財産         - 基礎控除

         =   現金300 + 不動産評価額7,800  -  4,200

         =     3,900万円

 

相続税の総額は、課税対象額を法定相続分で相続した場合の税額を計算し、合計する方法で求めます。

子一人の法定相続分は、合計の2分の1ずつですから、それぞれ1,950万円が課税対象額です。

 

それぞれの相続税額を計算すると、相続税率が15%控除額が50万円のため、243万円です。

それぞれの子の相続税 = 1,950万円 × 15% - 50万円

           = 243万円(1万円未満は四捨五入)

 

この結果、相続税の総額は、法定相続分で求めた相続税額を2倍して486万円となります。

 

一部を売却して相続税を減額し、売却利益を贈与するシミュレーション

 

不動産全てを相続発生まで所有し続けた場合は、相続税の課税対象額が3,900万円、税額は486万円でした。

 

次は、計算の対象とした不動産のうち、収益性の低い2種類を生前に売却するケースのシミュレーションです。

 

収益性の低い2種類の不動産を売却したときは相続税が下がる

 

相続した1,500万円の戸建住宅と、以前住んでいた1,800万円の自宅マンションについて、生前に売却した場合の相続税を計算します。

 

相続発生時に残る不動産の評価額は、自宅マンション2,500万円、賃貸用マンション2,000万で合計4,500万円です。

 

現金と基礎控除は同じ条件で計算すると、相続税の課税対象額は600万円です。

 

相続の課税対象額 =      相続時の財産         - 基礎控除

         =   現金300 + 不動産評価額4,500  -  4,200

         =     600万円

 

相続税の額は、法定相続分で相続した額について計算することになりますから、子はそれぞれ2分の1で一人につき300万円が課税対象額となります。

 

子一人当たりの相続税は、税率10%で控除はないため、30万円です。

それぞれの子の相続税 = 300万円 × 10%

           = 30万円(1万円未満は四捨五入)

 

したがって、相続税の総額は、法定相続分で求めた相続税額の2人分の60万円となります。

 

相続税は下がっても、同程度の売却費用と税金がかかる

 

相続前に収益性の低い不動産を処分することによって、相続税額を486万円から60万円に減額することが可能です。

 

しかしながら、売却時には税金や費用がかかるため、相続税の減額分より大きくなるようであれば、生前贈与を選んでも特にはなりません。

 

売却時にかかるのは、譲渡利益が出た場合の譲渡所得税と、不動産業者に支払う媒介手数料です。

 

媒介手数料は、次の式で上限額を知ることができます。

媒介手数料 = 売却価格 × 3.24% +64,800円

 

また、譲渡所得税は、売却で得た収入から、取得時の費用や売却するために要した費用を差し引いた残り、つまり利益があればかかることになります。

税率は、5年以上所有していた場合で20.315%、5年未満の場合で39.63%です。

 

売却価格がそれぞれの評価額程度と仮定して計算すると、売却収入は3,300万円で、媒介手数料に最大113万円程度かかります。

また、譲渡所得税は、一定の仮定に基づいて計算すると約290万円となります。

 

なお、一定の仮定は以下のとおりです。

・税率20.315%

・以前の自宅マンションは、取得価格と売却価格が同じで譲渡による所得ゼロ

・相続した戸建は、評価額と同額で売却し、売却経費は売却価格の5%

 

この結果、2種類の不動産を売却する際は、相続税が426万円程度下がる代わりに、仲介手数料と譲渡所得税で合計400万円程度の出費が見込まれることになります。

 

見方を変えると、生前贈与するために不動産を売却する場合も、相続によって与える場合も、かかる税や費用の合計額にそれほど大きな差がないことになります。

 

なお、収益物件の売却を行う場合、不動産会社への支払いや固定資産税がなくなる一方、家賃収入がなくなるため、一般的には収支に影響が現れます。

 

このケースでは、家賃を、固定資産税と維持管理費用、管理会社への支払額の合計額としているため、所有するにしても売却するにしても、実質的な収支への影響は考慮しなくて済みました。

 

家賃 = 固定資産税 + 維持管理費用 + 不動産管理会社への支払額

 

売却から得られた利益は、非課税枠を使って贈与

 

この売却で得られた現金は、非課税で生前贈与することができます。

子にしてみれば、相続税の負担が少なく、早い段階から遺産の恩恵を受けることができることになるわけですから、感謝されることでしょう。

 

したがって、不動産の売却収入を非課税で生前贈与すれば、相続時まで不動産をそのままにしておくことに比べ、損もせず、より有効に活用できると言えるのです。

 

非課税で生前に贈与する方法としては、目的や相手を問わない年間110万円までの暦年贈与が良く知られています。

 

また、相手や資金の使用目的は限定されるものの、最大1,200万円まで非課税の住宅取得資金贈与や、1,500万円まで非課税となる教育資金贈与などがあります。

 

なお、2,500万円までの贈与が相続時に一括して精算される相続時精算課税制度もありますが、生前の贈与額が相続時の財産額に加算されるため、このケースでは得策ではありません。

 

相談者への回答

 

相談者へは、ここまでのシミュレーションの結果を説明し、不動産を売却して得られた現金を贈与する方法をとれば、相談者のアイデアが実現することを説明しました。

 

また、生前贈与の方法としては、暦年贈与と住宅取得資金贈与の組み合わせを提案しました。

 

シミュレーションでは、売却価格を評価額程度と仮定しましたが、売り急ぎさえしなければ、一般的に評価額より3割程度高い市場価格での売却が可能です。

 

売却の手間はあるものの、相談者の意向を反映した不動産の有効活用が可能となるため、満足していただくことができる結果となりました。

 

まとめ

 

生前贈与は、必ずしも節税につながるとは限りません。

生前贈与が得か、あるいは相続発生までそのまましておく方が得かなどは、具体的に数値化した上で判断することが重要です。

 

なお、数値化する際は、売却価格や将来の税率、さらにはご自身や家族の寿命など、様々な仮定を置くことになります。

このため、比較には限度があることを知った上で、比較や検討の目安として利用することが大切です。

 

正確な税額や費用については税務署や税理士に、また、売却のための賃貸借契約解除などについては不動産会社などに相談することをお勧めします。

相続前に行う、身近な人が亡くなったときに必要な手続き

身内が亡くなると、通夜や葬儀をはじめ、初七日、四十九日など、法要や遺品の整理、遺産の分割など、すべきことが様々あります。


そのなかでも、相続の有無にかかわらず、行わなければならない手続きがあります。
最初に行うべき重要な手続きは、死亡届の提出です。

 

今回は、相続手続き以外にすべき手続きや、死亡届の書き方について、紹介しましょう。

 

身近な人が亡くなったら、すぐに行う手続き

 

まず、身近な人が死亡した時に行うべきことを、まとめて確認しておきましょう。

 

■7日以内■

 

亡くなった日から7日以内に、死亡地や本籍地、住所地のいずれかの市区町村に、死亡届を提出します。
この時、同時に死体火・埋葬許可申請書も提出します。

 

年金については、速やかに社会保険事務所での受給停止手続きが必要です。
なお、国民年金の場合は、市区町村で14日以内に手続きを行います。

 

■14日以内■

 

介護保険資格喪失届、住民票の抹消届(通常は死亡届と連動)、世帯主の変更届(3人以上の世帯)を、市区町村に提出します。

 

身近な人が亡くなったら、早めに行う手続き

 

運転免許証やパスポートは、早めに警察署や都道府県の旅券課に返却します。
また、携帯電話や公共料金、プロバイダー、介護サービス、給食サービスなどの契約サービスついても、死後速やかに、それぞれのサービス契約先に連絡して解約します。

 

葬儀費用の補助、高額医療費の払戻し、年金の一時金など、遺族への支給手続きは、該当する会社や行政機関に、2年以内に請求します。
また、高額医療費の申請が可能な場合は、故人の健康保険組合や社会保険事務所、市区町村に提出します。

 

提出書類は、国民年金の死亡一時金請求書、健康保険埋葬料請求書、埋葬費の付加給付金請求書など各種あります。

支給手続きや書類は、健康保険組合などへそれぞれ照会してください。

 

市町村や社会保険事務所、健康保険組合への資格喪失届などを提出する際に、一緒に確認すると良いですね。

 

身近な人が亡くなったら、状況に応じて行う手続き

生命保険の死亡保険金や雇用保険、労災などは、それぞれで状況が異なりますが、該当する場合は手続きが必要です。

 

雇用保険を受給していた場合は受給資格者証を、1カ月以内にハローワークへ返還します。
自営業や年収2千万円以上の給与所得者であった場合は、住所地の税務署への所得税準確定申告・納税手続きを、4カ月以内に行います。

 

相続が前提になる手続きもある

 

故人が生前に所有していた不動産や動産などの相続財産のほか、契約していたサービスなども場合によっては、相続財産とみなされるものがあります。

また、名義変更には、遺産相続の手続きが前提になるものが多く、契約サービスなどを解約する場合も、未精算の料金や残債などあれば相続財産扱いです。

 

相続財産に該当するものは、遺言の執行や遺産分割協議の後で手続きを行うことになるため、ご注意ください。

 

死亡届の届出と記載事項

死亡届は、死亡を知った日から7日以内に、死亡地か本籍地、住所地のいずれかの市区町村に提出します。

手続に必要なものは、死亡届のほか、医師の死亡診断書あるいは警察による死体検案書、届出人の印鑑です。

 

なお、死亡届出書の様式は市区町村で入手しますが、死亡診断書(死体検案書)と一体です。

また、提出は葬儀社からの代理提出も可能で、国外にいる場合の提出期限は、3カ月以内とされています。

 

提出時間は、通常24時間受け付けてくれますが、埋葬許可書を発行してもらう必要がありますから、市区町村役場が開庁している時間が望ましいでしょう。

 

死亡届のポイントについては、表を参考にしてください。

 

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死亡届のポイント

 

■届出人(届出義務者等)■

 

水難や火災などで死亡者の身元が不明などのような特別な場合を除き、同居する方や家主、地主、家屋や土地の管理人は、死亡を届け出る義務があります。
これらの方なら、どなたでもかまいません。

また、届け出の義務がない方でも、親族や後見人、保佐人、補助人、任意後見人は、届け出を行うことができます。

 

なお、水難や火災などの災害で身元不明、死刑執行、刑事施設収容中に死亡して引き取り手がいない場合などは、取り調べをした官公庁や、刑事施設の代表者が、届け出の義務を負います。

 

■届出時期■

 

特別な場合を除き、届出の義務を負う方などは、死亡の事実を知った日から7日以内に届け出なければなりません。
なお、死亡地が国外の場合は、死亡の事実を知った日から3ヶ月以内に延長されます。

 

■届出地■

 

特別な場合を除き、死亡した方の本籍地または提出者の所在地が、基本的な届出地です。
なお、国外で死亡した場合は、本籍地に届け出ます。

 

以下は、特殊な場合の届出地です。


災害などによる死亡の場合は、死亡した場所に届け出ることになります。

死亡地が明らかでないときや移動中の場合は、死体が最初に発見された場所、交通機関で移動中は、死体を降ろした場所、航海日誌を備えていない船舶は最初の入港地となります。

また、死亡者の本籍が明かでない場合や、死亡者を認識することができない場合は、警察署から死亡地に報告することになります。

なお、さらに特殊な事例として、死刑の執行や、刑事施設に収容中死亡して引取人がない場合は、施設の所在地が届出地になります。

 

■記載事項■

 

死亡届に記載する事項は、戸籍法施行規則により次のように定められています。

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出典:法務省「死亡届の様式」
「届出人」

届出人については、
① 届出の年月日
② 死亡者との関係
③ 住所・本籍・生年月日
を記載し、署名・押印します。

 

「死亡した方」

死亡した方については、
① 氏名・生年月日
② 死亡年月日
③ 死亡地
④ 住所・本籍
⑤ 配偶者の有無
⑥ 死亡した時の世帯の主な仕事と死亡者の職業・産業
を記載します。

 

「死亡診断書または死体検案書」

 

なお、医師や警察などが記入する死亡診断書または死体検案書には、以下のような事項が記載されます。
① 氏名・性別・生年月日
② 死亡日時
③ 死亡した場所・場所の種類
④ 死亡原因・死亡の種類(病死、自然死、不慮の外因死、不詳など)

 

まとめ

 

身近な人が亡くなった時には、相続手続きの有無とは別に、行政機関や金融機関などへの様々な手続きが必要になります。
あらかじめ知っておけば、あわてずに済みます。

 

なお、遺産相続の手続きは、遺言がある場合とない場合では、大きく異なります。
いざという時に慌てないように、相続手続きについても、あわせて確認しておくことをおすすめします。

物納したいと考えた相続不動産を延納しながら売却して得した事例

評価額が高額な不動産を相続した場合、高額な相続税がかかるため、納税に支障をきたすことも少なくありません。

このようなことにならないように、生前に対策しておくことが重要ですが、実際にその場面を迎えた相続人はたいへんです。

納税が困難なため、物納したいと考えた不動産を、延納しながら時価で売却して得した事例を紹介しましょう。

 

相談内容と解決策

 

まず、相談者からの依頼内容と、提案した解決策を確認しましょう。

 

■相談内容■

 

相談者は、定年退職し、妻と2人で暮らす62歳の男性です。
会社員として働いてきましたが、60歳で定年退職となり、現在は65歳まで再雇用されています。
退職金で自宅を新築したため預金は少額ですが、63歳からは部分的な年金支給も始まるため、生活に困ることはありません。

 

しかしながら、6カ月前に90歳で亡くなった父親から、地方都市にある土地を相続しました。
相続税を計算したところ、土地の評価額は5憶円で、税額は2億円近くになることが分かりました。
そこで、給与振込などを利用している銀行に相談しましたが、融資を断られてしまいました。

 

資産に余裕はなく納税が不可能なため、相続税分を物納して、同時にすべてを手放したいと考えているのですが、最善の解決策を知りたいというのがご相談です。

 

■解決策■

 

物納は、相続税納税の最終手段として認められています。
しかしながら、物納の条件は厳しく、また、物納が認められる場合でも、物納の評価額は時価より2割程度低く見積もられるなどのデメリットがあります。

 

このため、延納制度を利用しながら、時価の6億円で売却することを提案しました。
延納に伴う利子税の支払いは生じるものの、時価で売却できることによって、収入が1憶円以上増えることになります。

 

さらに、売却益には譲渡所得税が発生しますが、相続発生から3年10カ月以内の売却によって、2千万円以上節税することができます。
この結果、物納に比べ、大幅にお得な解決策となります。

 

解決策の検討

 

支払いが困難な場合、まず、不動産を売却する方法や、納税資金を借入れる方法を検討します。
ただし、相続税は、相続開始から10カ月以内に支払う義務があるものの、すでに6カ月が経過し、残り4カ月に迫っているため、早急な対応が急務です。

 

売却資金で納税

 

売却の場合は、最低でも3カ月以上の期間が必要です。
短期間で不動産を売却する方法としては、不動産会社が自ら買い主となって物件を買い取る「買取」があります。
不動産会社から提示される価格で納得できれば、早く売却できます。

 

ただし、買取は、仲介手数料がない反面、物件の買取価格が市場相場よりも低いことがデメリットです。

不動産会社は、再販費用や売却できないリスクを抱えるため、条件の良い不動産でも時価の60~80%水準で、相続税の評価額を下回る買取価格になってしまい不利です。

 

金融機関からの借り入れで納税

 

現金による納税が困難な場合、納付資金を金融機関などから借入れる方法もあります。
延納でかかる利子税と、借入金の利子額を比較し、どちらが得になるかを判断する必要があるでしょう。

 

ただし、融資を受けるためには審査があるため、時間的な余裕がない場合は間に合いません。

この事例では、すでに付き合いのある銀行での融資審査で認められなかったこともあり、新たな融資先を探すことは諦めるべきでしょう。

 

物納は得か?

 

相続税の支払いが困難な場合に限り、物納も認められます。

物納では、不動産の価格は原則として、相続税評価額です。
土地の相続税評価額は時価の約8割、建物の相続税評価額は時価の約6割と、低めに評価されます。

 

また、相続税を超える部分を含めることは難しく、土地の場合は、相続税相当分を分筆することになります。
この場合、土地が複数の道路に面しているなど、分筆しても条件が変わらない場合は別として、時価価値を落とす結果につながりやすいことが問題です。

 

物納できる土地に分筆する場合も、一般競争入札で売却できる価値を持たせる必要があるため、接道しないような部分を当てることはできません。

 

事例の土地を接道部分があるように分筆すれば、残りの土地の接道部分が減り、条件が不利な旗竿地になってしまします。

条件が不利になった残りの土地を、時価で売却できた場合でも、分筆しない状態と比べれば価格が下がることは目に見えています。

 

このため、物納は避けるべきとの判断に至ります。

 

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公図

 

「物納の現状」

2006年の税制改正以降、物納手続きの厳格化がされたため、物納件数が一気に減少しました。
改正前の2005年には1,733件あった申請は、2017年に68件、2018年は99件しかありません。

 

これは、物納には様々な要件がありますが、なかでも、延納によっても金銭で納付することが困難であることを詳細に数字で証明しなければならないことが大きな要因と考えられています。

実態として、最低限の生活費を超える預貯金が残る状態では、物納は難しいと言えます。

 

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延納・物納の理由書

解決策

 

現金で支払うことが困難な場合、物納に至る前段で、分割払いが認められる延納制度を利用することもできます。
物納と同様、納税が可能な金融資産がある場合は認められませんが、相談者なら認められる状況です。

 

延納期間は、原則として5年以内ですが、不動産が50%以上を占める場合は、最長20年まで延納が可能です。
ただし、延納期間に応じて、年1%前後の利子税がかかります。

 

一方、延納を選択後も、相続税の申告期限から10年以内であれば、物納へ切り替えることができます。
また、延納中に不動産を売却できれば、途中で一括納付することが可能です。

 

不動産を売却すると譲渡所得税がかかりますが、これは、相続開始から3年10カ月(納税期限から3年)の間に売却すれば「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」によって、大幅に節税できます。

 

この事例では、延納を利用した上で、現状の条件を保ったまま普通売却を行って、利益を確保することを解決策として提案しております。

また、特例を利用することによって、譲渡所得税を軽減できることも大きな魅力ですから、相談者も納得の結果となりました。

 

提案した解決策による効果

 

相続した土地は、相談者の父が、亡くなる11年前に4億円で取得したものです。
土地は、相続開始後2年目に、時価相当額の6億円で売却でき、大幅な増益が実現しました。

 

通常なら、長期譲渡所得の20.315%の税率が適用され、約4千万円の譲渡所得税がかかるところでしたが、特例が適用できたため、約1千500万円と譲渡所得税も大幅に縮減しました。

 

この結果、物納による評価額に比べた売却益が1憶円以上増え、売却益にかかる譲渡所得税も約2千500万円の節税を実現することができたのです。

 

まとめ

 

高額な不動産を相続しても、相続税の支払いに困惑する方が少なくありません。

生前の相続対策が重要なことは言うまでもありませんが、いざ相続人になった方は、10カ月以内という制限の中で、相続税の問題を解決しなければなりません。

 

延納や物納は、相続人の資産が多ければ認められませんから、単純に選択することはできません。
通常の選択肢としては、金融機関からの借入金を納税に充てることや、買取の利用なども含め、総合的に検討することが大切です。

 

このためにも、生前の相続対策や遺言などによって、スムーズな遺産分割になるよう心がけたいものです。