相続した不動産の売却事例:農地の売却

遺産相続の相談内容は実に様々ですが、その中でも、最近一番多いのが「相続した農地を手放したい」というものです。

この背景には、農業者の借り手や買い手が少ない状況に加え、農地は手放しにくいという制約や規制があり、このような声となって私にも届くという訳です。

農地を相続すれば、毎年の固定資産税を支払う必要がありますし、草だらけにしておけば病気や害虫が発生しやすく、周りに迷惑をかけるため管理しなくてはいけません。

そんなわけで、今回のブログは、相続した農地の売却事例を紹介します。

相談の内容

相談者からの依頼は、「私の農地を買いたい人が現れたけれど、農地を宅地にできるだろうか」というものでした。
目的は、買主が農地を宅地として造成し、子世帯が住むために住宅を建設することです。

そのためには、宅地として利用できるか確実に家を建てる計画があるか、また、様々な制限がある農地の転用が可能かどうか、調べなければなりません。

f:id:magonote0101:20200210161434j:plain

相続した農地は広いのですが

まずは、宅地として利用できるか確認

農地の転用許可を受けた場合に、宅地として利用できなければ困りますから、まず、そこから調べます。

この相続した農地の売却事例では、不動産の登記情報と地図情報、いわゆる公図を入手することから始めました。

(一財)民事法務協会の「登記情報提供サービス」を使えば、インターネットで手軽に入手できます。

依頼者は、所有者と一致

不動産の登記情報を確認したところ、地目や地積、所有者などを確認できました。


所有者は、依頼者と同一人物になっていて、キチンと相続登記が行われていることが分かったので、一安心です。

と言うのは、相続した不動産相続登記が終わっていないと、売買契約さえできないため、この手続きから始めなくてはいけないからです。

道路に面する部分が2mより狭い?

公図を確認したところ、少し問題になりそうな部分があることが判明しました。


それは、土地は広いのですが、道路に面している部分だけが狭くなっている旗竿地で、都市計画地域で必要な最低2mの接道基準を満たすかどうかでした。

f:id:magonote0101:20200210161759j:plain

旗竿地で入り口が狭い

あわてて現地で測定したところ、3mあり問題なしと分かったので解決です。

法令上の制限やライフラインの制約もクリア

宅地として利用する際は、都市計画法や建築基準法、文化財保護指定、災害地域指定など、法令上の制限による規制の有無を確認しなければいけません。

市役所の建設課や産業課、教育委員会などで確認した結果、法令上の制限がなく、問題ないことが分かりました。


また、ガスや水道、電気などのライフラインについても、利用に問題がないことが確認できました。

農地の売買には制限がある

ここまで確認して、宅地にできた後は問題なさそうなことが分かりました。


そうなると本題になる、相続した農地を転用できるかが焦点として浮上します。

農地の売買には、農地法による制限や規制があります。
農地は、農地以外のものに向けることが規制されているのです。

市街化区域にある農地は例外

農地のなかでも、市街化区域にある農地は、例外的に転用が認められます

どうかと思って建設課で確認しましたが、依頼を受けた農地は都市計画区域外。
つまり、市街化区域なら認められる例外が、当てはまりません。

農振農用地の指定があると、認められる場合でも時間がかかる

農振農用地」は原則として、農用地として利用すべき区域として位置づけられるため、転用が認められません。

ただし、「やむを得ず農業以外の目的へ転用する必要がある」と認められる場合だけは、農振農用地からの除外を申請することができます。
しかしながら、認められる場合でも、1年程度かかるケースもあり、指定があるとたいへんです。

売却事例の農地は、農業委員会で確認した結果、農振農用地の指定から外れていることが分かりました。
これで、宅地化に向けたハードルを、1つ超えることができました。

最後の関門は、農地の種類

農用地として定められている農振農用地のほかにも、集団的に存在する農地など、良好な営農条件を備えている農地は、原則として転用が認められません。

ただし、第3種農地として区分されている農地なら、転用も可能です。

これには、
・都市的施設が整備された区域内の農地や
・駅や役場などの公共機関からおおむね300m以内にある市街地内の農地、
・市街地に挟まれている農地
などが、該当します。

しかしながら、売却事例の農地は第3種農地ではなく、第2種農地であることが分かりました。


こうなると、あとは第2種農地として転用可能かどうかを調べて、相談に対する回答を判断することになります。

要件に合う場合だけ転用が認められる第2種農地

第2種農地は、第3種農地に近接する区域や、市街地化が見込まれる区域内にある農地で、農業公共投資の対象となっていない生産性の低い、おおむね10ヘクタール未満の小集団の農地が該当します。

第2種農地では、周辺農地で代替できない場合に限って、転用が認められる可能性があります。

ここでようやく、宅地化の可能性が見えました。
代替地が無いことの妥当性と、申請目的である住宅を建設できることが証明できれば、許可を受けることが可能になります。

宅地化するための手続き

農地の売買や宅地などへの転用は、基本的に、市町村の農業委員会を通じて、都道府県知事の許可を得なければなりません。

農地法5条許可申請

売却を前提として宅地に転用する場合は、「農地法5条許可」申請が必要です。
この際は、宅地に住宅を建てる計画があることが前提条件です。

申請には、様式が定められた申請書と様々な必要書類を添付しなければなりません。
特に、土地の選定理由書と周辺農地の所有者の同意書は、許可やプランを実現するためにとても重要な添付書類です。

申請する土地以外に代替可能な土地がないことの妥当性や、周辺農地や農業に悪影響がなく、周囲の農地所有者が同意していることを証明する必要があります。

また、この売却事例での申請目的である、宅地化して住宅を建設することが確実であることも証明する必要があります。

相談者への提案と実現

これで、相談者への提案内容が決まりました。

・宅地としての利用に問題がないこと

・相続登記や農振除外申請手続きは不要なこと

・転用許可を受けることができれば実現できること

そのためには

・農地法第5条第1項の規定による許可申請手続きが必要なこと

・住宅の建設計画や資金の証明が必要なこと

・買主の権利を保護するために、共同で登記手続きを行うこと

これを提案し、申請と売却、そして住宅建設に向けて動き出すことが決まりました。

また、相談の続きとして、農地法第5条の許可申請手続きの依頼をいただきました。

ここが腕の見せ所と、農業委員会から示されている必要書類を準備して、農業委員会に提出。

書類準備に約2週間、その後提出から約1か月後には無事許可を得ることができ、住宅建設が始まりました。

登記手続き

農地を売買して宅地化する場合の登記は2種類です。

権利の移転登記と地目変更登記の申請を別々に行いますが、これは、書類を整えたのちに、連携している司法書士に依頼して完了です。

まとめ

この不動産の売却は、一般的な宅地の売買とは異なる、特殊な事例と言っても良いでしょう。

解説されている事例も少ないため、相続した不動産のなかでも、農地を売却したいと考えている方にとって、参考になるのではないでしょうか。

これからも、不動産の遺産相続について、役立つ情報や事例をお伝えしてまいります。

どうぞご期待ください。