物納したいと考えた相続不動産を延納しながら売却して得した事例

評価額が高額な不動産を相続した場合、高額な相続税がかかるため、納税に支障をきたすことも少なくありません。

このようなことにならないように、生前に対策しておくことが重要ですが、実際にその場面を迎えた相続人はたいへんです。

納税が困難なため、物納したいと考えた不動産を、延納しながら時価で売却して得した事例を紹介しましょう。

 

相談内容と解決策

 

まず、相談者からの依頼内容と、提案した解決策を確認しましょう。

 

■相談内容■

 

相談者は、定年退職し、妻と2人で暮らす62歳の男性です。
会社員として働いてきましたが、60歳で定年退職となり、現在は65歳まで再雇用されています。
退職金で自宅を新築したため預金は少額ですが、63歳からは部分的な年金支給も始まるため、生活に困ることはありません。

 

しかしながら、6カ月前に90歳で亡くなった父親から、地方都市にある土地を相続しました。
相続税を計算したところ、土地の評価額は5憶円で、税額は2億円近くになることが分かりました。
そこで、給与振込などを利用している銀行に相談しましたが、融資を断られてしまいました。

 

資産に余裕はなく納税が不可能なため、相続税分を物納して、同時にすべてを手放したいと考えているのですが、最善の解決策を知りたいというのがご相談です。

 

■解決策■

 

物納は、相続税納税の最終手段として認められています。
しかしながら、物納の条件は厳しく、また、物納が認められる場合でも、物納の評価額は時価より2割程度低く見積もられるなどのデメリットがあります。

 

このため、延納制度を利用しながら、時価の6億円で売却することを提案しました。
延納に伴う利子税の支払いは生じるものの、時価で売却できることによって、収入が1憶円以上増えることになります。

 

さらに、売却益には譲渡所得税が発生しますが、相続発生から3年10カ月以内の売却によって、2千万円以上節税することができます。
この結果、物納に比べ、大幅にお得な解決策となります。

 

解決策の検討

 

支払いが困難な場合、まず、不動産を売却する方法や、納税資金を借入れる方法を検討します。
ただし、相続税は、相続開始から10カ月以内に支払う義務があるものの、すでに6カ月が経過し、残り4カ月に迫っているため、早急な対応が急務です。

 

売却資金で納税

 

売却の場合は、最低でも3カ月以上の期間が必要です。
短期間で不動産を売却する方法としては、不動産会社が自ら買い主となって物件を買い取る「買取」があります。
不動産会社から提示される価格で納得できれば、早く売却できます。

 

ただし、買取は、仲介手数料がない反面、物件の買取価格が市場相場よりも低いことがデメリットです。

不動産会社は、再販費用や売却できないリスクを抱えるため、条件の良い不動産でも時価の60~80%水準で、相続税の評価額を下回る買取価格になってしまい不利です。

 

金融機関からの借り入れで納税

 

現金による納税が困難な場合、納付資金を金融機関などから借入れる方法もあります。
延納でかかる利子税と、借入金の利子額を比較し、どちらが得になるかを判断する必要があるでしょう。

 

ただし、融資を受けるためには審査があるため、時間的な余裕がない場合は間に合いません。

この事例では、すでに付き合いのある銀行での融資審査で認められなかったこともあり、新たな融資先を探すことは諦めるべきでしょう。

 

物納は得か?

 

相続税の支払いが困難な場合に限り、物納も認められます。

物納では、不動産の価格は原則として、相続税評価額です。
土地の相続税評価額は時価の約8割、建物の相続税評価額は時価の約6割と、低めに評価されます。

 

また、相続税を超える部分を含めることは難しく、土地の場合は、相続税相当分を分筆することになります。
この場合、土地が複数の道路に面しているなど、分筆しても条件が変わらない場合は別として、時価価値を落とす結果につながりやすいことが問題です。

 

物納できる土地に分筆する場合も、一般競争入札で売却できる価値を持たせる必要があるため、接道しないような部分を当てることはできません。

 

事例の土地を接道部分があるように分筆すれば、残りの土地の接道部分が減り、条件が不利な旗竿地になってしまします。

条件が不利になった残りの土地を、時価で売却できた場合でも、分筆しない状態と比べれば価格が下がることは目に見えています。

 

このため、物納は避けるべきとの判断に至ります。

 

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公図

 

「物納の現状」

2006年の税制改正以降、物納手続きの厳格化がされたため、物納件数が一気に減少しました。
改正前の2005年には1,733件あった申請は、2017年に68件、2018年は99件しかありません。

 

これは、物納には様々な要件がありますが、なかでも、延納によっても金銭で納付することが困難であることを詳細に数字で証明しなければならないことが大きな要因と考えられています。

実態として、最低限の生活費を超える預貯金が残る状態では、物納は難しいと言えます。

 

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延納・物納の理由書

解決策

 

現金で支払うことが困難な場合、物納に至る前段で、分割払いが認められる延納制度を利用することもできます。
物納と同様、納税が可能な金融資産がある場合は認められませんが、相談者なら認められる状況です。

 

延納期間は、原則として5年以内ですが、不動産が50%以上を占める場合は、最長20年まで延納が可能です。
ただし、延納期間に応じて、年1%前後の利子税がかかります。

 

一方、延納を選択後も、相続税の申告期限から10年以内であれば、物納へ切り替えることができます。
また、延納中に不動産を売却できれば、途中で一括納付することが可能です。

 

不動産を売却すると譲渡所得税がかかりますが、これは、相続開始から3年10カ月(納税期限から3年)の間に売却すれば「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」によって、大幅に節税できます。

 

この事例では、延納を利用した上で、現状の条件を保ったまま普通売却を行って、利益を確保することを解決策として提案しております。

また、特例を利用することによって、譲渡所得税を軽減できることも大きな魅力ですから、相談者も納得の結果となりました。

 

提案した解決策による効果

 

相続した土地は、相談者の父が、亡くなる11年前に4億円で取得したものです。
土地は、相続開始後2年目に、時価相当額の6億円で売却でき、大幅な増益が実現しました。

 

通常なら、長期譲渡所得の20.315%の税率が適用され、約4千万円の譲渡所得税がかかるところでしたが、特例が適用できたため、約1千500万円と譲渡所得税も大幅に縮減しました。

 

この結果、物納による評価額に比べた売却益が1憶円以上増え、売却益にかかる譲渡所得税も約2千500万円の節税を実現することができたのです。

 

まとめ

 

高額な不動産を相続しても、相続税の支払いに困惑する方が少なくありません。

生前の相続対策が重要なことは言うまでもありませんが、いざ相続人になった方は、10カ月以内という制限の中で、相続税の問題を解決しなければなりません。

 

延納や物納は、相続人の資産が多ければ認められませんから、単純に選択することはできません。
通常の選択肢としては、金融機関からの借入金を納税に充てることや、買取の利用なども含め、総合的に検討することが大切です。

 

このためにも、生前の相続対策や遺言などによって、スムーズな遺産分割になるよう心がけたいものです。