相続した不動産を売却したいと思ったときに、長期間に渡って名義変更手続きを放っておくと、手間取ったり、支障が生じたりしやすくなったります。
今回は、寄せられる相談の中でも特に多い、相続未登記の不動産を売却するために必要な、相続手続きに関する問題やトラブルについて紹介します。
売却前には、不動産登記の所有者について、亡くなった人から名義を変更する手続きを行っておく必要があります。
この際には、相続したことを証明する様々な添付書類を提出する必要があるのですが、取得や準備に手間取る事態が発生しやすくなるのです。
また、相続が発生してから登記申請までの期間が長くなれば、相続人も死亡して数次相続が発生することがあり、相続関係が複雑化します。
今回のブログでは、相続登記を放置したケースについて、売買契約前に必要な相続手続きや、その際に発生しやすいトラブル、数次相続が発生した場合の問題点を紹介します。
相続登記を放置していた不動産、売却したい場合の問題点
相続登記、いわゆる名義変更を行っていない不動産は、そのまま売却することができません。
所有者が亡くなった後に、固定資産税の支払いや管理を行ってきた場合でも、登記簿上で所有者になっていなければ、売買契約の売主になることはできません。
登記申請するためには相続手続きが必要
相続した不動産を売却する際は、事前に相続登記を行って、登記簿上の所有者を相続した者に変更しておく必要があります。
この相続登記の申請手続きを行うためには、相続手続きを最初から行わなければなりません。
つまり、遺言書の有無や相続人の調査、相続人全員による遺産分割協議などの相続手続きを行って、申請手続きに必要な書類をそろえる必要があるのです。
相続発生から長期間が過ぎると相続関係が複雑化
相続登記をしないまま長い期間が経過した場合、相続人も歳を取り、世代交代も進んでいきます。
こうなると、戸籍から相続人をたどっていく相続人調査は、難航することが多くなります。
相続人が亡くなっている場合は、子孫が相続することになり、血縁関係の遠い相続人が加わるだけでなく、相続人の数が増えることになります。
また、相続人が、相続発生より後に死亡した場合は、新たに別の相続が発生する数次相続の状態になり、相続関係は複雑さを増していきます。
複雑化した相続関係では遺産分割協議が成立しにくい
名義を変えないまま放置した不動産は、いざ相続登記をしようと思っても、このように複雑化した相続関係になると、遺産分割協議が成立しにくくなる傾向にあります。
代襲相続や数次相続が発生すると、兄弟姉妹の子孫など、会ったこともない、住んでいる場所も知らないなど面識のない相続人たちと、遺産分割協議を行わなければならない状況も発生します。
また、遠方や国外に住んでいるケースや、連絡がつかないケース、わずらわしい協議に関心が得られないケースなど、遺産分割協議を始めることができない事態も発生します。
このような状況で、遺産の分け方の話し合いがスムーズに進むことが想像できるでしょうか?
代襲相続と数次相続の違い
名義を変えないまま放置した不動産は、いざ相続登記をしようと思っても、相続関係が複雑化してスムーズに進みにくいことを紹介しました。
中でも、代襲相続と数次相続は、正確に判定しなければなりません。
似ているようにも思われますが、相続人に違いがあるため、どちらに該当するのか戸籍から見極める必要があります。
代襲相続
代襲相続は、相続が始まった時点において、相続人となるべき者がいない場合に、相続人の代わりにその子孫が相続できる制度です。
単純に言えば、被相続人が死亡した日よりも前に相続人が死亡している場合、その子が代わって相続できる仕組みです。
たとえば、夫が死亡して被相続人となる場合、それ以前に子が亡くなっているケースが該当します。
孫がいれば、子に代わって孫が相続できます。
なお、代襲相続が発生する原因は、相続人の死亡が最も一般的ですが、相続人として相応しくない「欠格」者、相続から廃除された者にも代襲相続が発生します。
数次相続
数次相続は、相続が発生した後であって、しかも遺産分割協議や相続登記を済ませる前に相続人が死亡して、別の相続が新たに発生してしまうことを指します。
先ほどの例で言えば、夫が死亡して相続が始まり、妻と子が相続人になったものの、相続登記を済ませる前に子が死亡した場合が該当します。
孫が、子の財産を相続することになるところは、代襲相続と同じです。
しかしながら、子の財産を相続するのは、配偶者と孫となる点で、代襲相続とは異なるのです。
代襲相続か数次相続かの判定方法
相続が発生してから長期間が過ぎた後で相続人を確定する際には、相続人が死亡している場合でも、代襲相続か数次相続を見分けなければなりません。
すでに確認したとおり、代襲相続と数次相続では対象となる相続人が異なり、数次相続に該当すれば、さらに相続人の数が多くなる可能性もあるのです。
被相続人の死亡日と相続人の死亡日との前後関係で判定
代襲相続と数次相続は、被相続人の死亡日と相続人の死亡日を比べ、どちらが先かで判断します。
相続人の死亡が先なら代襲相続、相続人の死亡が後なら数次相続です。
相続関係説明図を作成すると効果的
代襲相続か、あるいは数次相続かを見分けるには、相続関係説明図を作成する方法が効果的です。
図で具体例を確認しましょう。
先に死亡した兄に代襲相続、後で死亡した弟に数次相続の例
被相続人の死亡日は、2000年1月1日です。被相続人は未婚であったため、配偶者と第一順位の子がいません。
また、第二順位の両親はすでに死亡していて、相続人には該当しないとします。
この場合は、第三順位の兄弟が相続人ですが、兄は10年前の1990年1月1日に死亡しています。
このため、兄には代襲相続が発生し、兄の子aと子bの2人が相続します。
ちなみに、兄の妻は相続人ではありません。
また、被相続人となる弟は、相続発生から10年後の2010年1月1日に死亡したとします。
この場合、弟には数次相続が発生することになり、弟の妻と子c、子dの3人が相続人に加わることになります。
まとめ
被相続人の死後、長期間にわたって相続登記を放置した不動産を売却する場合は、要注意です。
相続手続きが終わらない限り、売却契約を交わすことができません。
相続人が行方不明で連絡がつかないケースや、相続人の住所が分かっても反応が得られないケース、遺産の分け方に合意が得られないケースなど、様々なトラブルが発生しやすくなります。
このようなケースに該当する場合は、自分で処理することが難しいため、専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
不動産の相続登記は、できるだけ早めに済ますことが得策です。