良くある相談として、相続の発生後かなりの年月が経過してから、相続した不動産の名義変更手続きをしたいというものがあります。
身近な人が亡くなった場合、悲しむ余裕も十分にないまま、慌ただしく葬儀や後片付け、四十九日の法要などを済ませなくてはなりません。
自分が不動産を相続することは、相続人の間で了解されていると安心している方が多く、緊急性がなければ、なかなか手続きに着手しない方も珍しくありません。
しかしながら、時間が経過してしまうと、いざ売却や貸借をしようと思ってもトラブルが発生しやすく、相続手続きがスムーズに進まない傾向にあります。
そんなトラブルに陥らないように、今回のブログでは、身近な人が亡くなった時に必要な不動産の相続手続き、相続登記を自分で行う場合に必要な書類について、紹介します。
特に、相続登記を自分で行う場合に必要な書類のうち、相続関係説明図と遺産分割協議書について、一人が相続する場合の書き方について、具体的に紹介します。
身近な人が亡くなったときに必要な不動産相続の手続き
身近な人が亡くなると、死亡届など、まずは行政面での手続きが必要ですが、並行して遺産の相続手続きも必要になります。
不動産の相続について、一般的な流れを確認していきましょう。
遺言書の有無
最初にすべきことは、遺言書があるかどうかの確認です。
公正証書遺言なら検認の必要はありませんが、自筆証書遺言の場合は、家庭裁判所での検認手続きが必要です。
遺言書がない場合は、相続人の間で遺産分割協議を行って、不動産をだれが、どれだけの割合で相続するかを決めます。
不動産の調査
相続不動産については、不動産の権利証や固定資産税納税通知書などから特定し、登記情報や登記簿謄本を入手します。
なお、複数の不動産を所有していた場合、市区町村役場で名寄帳を取得すれば、同一市区町村内にある所有者名義の不動産をまとめて確認することができます。
相続人の調査
相続手続きの基本は、戸籍から相続人を間違いなく調べ上げることです。
遺産分割協議は、権利のある相続人全てが参加して行う必要があるため、協議の前には戸籍によって戸籍上のつながりを調べ、相続人を確定しなければなりません。
存在を知らされていない義兄弟や、認知した子がいるなど、協議の後になって別の相続人の存在が判明した場合には、協議をやり直すことにもなりかねません。
また、相続放棄や限定承認は、相続の発生を知った時から3カ月以内であれば選択することができるため、相続人の人数に影響します。
ただし、相続の発生からかなりの時が経過してしまった場合は、その時点で選択することはできません。
なお、相続不動産の名義変更(相続登記)を行う場合は、法務局に、被相続人と相続人の相続関係を証明するための戸籍を提出する必要もあります。
遺産分割協議書の作成
被相続人が所有していた不動産を、相続人がどのように遺産分割するかについての協議結果は、「遺産分割協議書」を作成して証明します。
相続登記では、協議書に相続人全員が署名と実印を押印した上で、印鑑登録証明書を添えて提出しなければなりません。
一人が不動産を相続するための書類の書き方
たとえば、親と同居していた長男が、実家の家屋敷を一人で相続するようなケースは、良くあるパターンです。
このような場合、複数の相続人のうち一人が不動産を相続することになるため、多くの方が「相続放棄の手続きが必要なのではないか?」という疑問を持っています。
しかしながら、この疑問については、遺産分割協議書と相続関係説明図を適切に作成することで、問題なく解決できます。
遺産分割協議書
遺産分割協議書は、遺言書がない場合に、遺産の分割について相続人全員で協議し、決めた結果を証明するために作成します。
したがって、相続人全員で協議を行って、相続人のうち一人が相続すると決めたことを記載すれば、それで成立します。
一人が相続する遺産分割協議書の記載例
具体的な記載例を確認しておきましょう。
まず、相続人全員で協議を行って、合意したことを記述します。
「被相続人 (A)の共同相続人である(B)、(C)、(D)の3名は、遺産分割協議を行い、次のとおり合意した。」
次に、合意内容を記述します。
相続人(C)が不動産を相続することを合意した場合は、次にように記述します。
「1. 相続人 (C)は、下記の不動産を相続する。」
なお、協議の対象とする不動産については、遺産分割協議書中で、「下記」などとして具体的に表示しておく方法が一般的です。
最後に、合意事項を証明するために遺産分割協議書を作成すること、相続人それぞれが署名し、押印することなどを記載します。
「この遺産分割協議の合意を証するため、本協議書3通を作成し、各相続人が署名、押印のうえ、各自1通を所持するものとする。」
作成日付を記入し、相続人全員が住所と氏名を記入し、実印で押印します。
なお、住所は、印鑑登録証明書と全く同じように、略さず記載することに注意しましょう。
相続関係説明図
相続関係説明図は、被相続人と相続人について、相続する権利の関係を図示するために作成する、家系図のような書類です。
先に紹介した遺産分割協議書を例にすれば、相続人のうち(C)だけが不動産を相続することになるため、氏名の上に「相続」と記載します。
一方、相続人(B)と(D)は相続せず、(C)に遺産を分割したという意味で、氏名の上に「分割」と記載します。
相続登記を自分で行う場合の必要書類
亡くなった人から相続した不動産について、名義を変更する手続きは、相続登記と呼ばれます。
この相続登記手続きは、基本的に、自分で行うことができます。
ただし、準備する戸籍や作成する書類が多いなど、途中で断念する人も多いのが実態です。
このため、事前に必要書類を把握しておけば、無駄を省くことができるだけでなく、状況によっては専門家に依頼することを決める判断材料にもなります。
また、不動産の相続評価額によっては、相続税が発生するケースもありますから、注意が必要です。
遺産分割協議による相続登記の必要書類
申請手続きには、相続登記申請書のほか、遺産分割協議により相続する場合は、遺産分割協議書が必要です。
遺産分割協議書には、相続人全員が署名し、実印を押印するとともに、印鑑登録証明書を添付します。
このほか、被相続人と相続人の関係を示す戸籍謄本などの添付書類が必要です。
戸籍謄本などからは、相続関係説明図を作成します。
まず、被相続人について、出生から死亡までの戸籍が分かる戸籍謄本や除籍謄本、住民票の除票が必要です。
戸籍は、出生から死亡まで連続する戸籍が必要で、本籍を移動している場合は、移動前の本籍地で除籍謄本を取得します。
住民票の除票は最後の住所地を証明する書類ですが、不動産登記簿の住所と異なる場合は、戸籍か除籍の附票が必要になることがあります。
なお、登記簿の住所地を証明する書類が、保存期限を過ぎることなどによって消失し、住所が証明できない場合には、不在住証明が必要なケースもあります。
また、相続人全員について現在の戸籍謄本、相続不動産を譲り受ける相続人は、住民票、固定資産評価証明書、登記にかかる登記免許税(固定資産評価額の1000分の4)も必要です。
まとめ
自分で相続登記手続きを行う場合、必要書類の多さと複雑さに嫌気がさして、途中で断念する方が少なくありません。
また、高額な不動産の場合は、相続発生から10カ月以内に支払わなければならない相続税についての対応もあります。
放っておくと後が大変になるケースが多いですから、相続が発生したら専門家に相談して、できるだけ早めに対応することをおすすめします。