相続した農地をタダで譲る手続き

相続した不動産を手放したい。

特に、その土地を離れて暮らす方からの、こんな相談が後を絶ちません。

なかでも、農地は、法律上も現実的にも、適切な管理が求められることから、相続人の大きな負担となっていることが垣間見えます。

 

高齢化や後継者不足の時代を迎え、農地の売買や貸借は、年々困難さを増しています。

今回のブログでは、管理できなくなった農地をタダで譲り、有効な利用を図ることができた事例を紹介します。

今後の解決策の一つかもしれません。

 

相談内容と解決策

 

まず、相談者からの依頼内容と、解決策を確認しましょう。

 

■相談内容■

 

相談者は、妻と2人で暮らす76歳の男性と、その長男です。

男性は、実家から車で1時間ほど離れた場所に移り住んだ後も、実家近くの農地で米作りに励んできました。

 

現在では、高齢となって「通勤農業」に限界を感じていますが、子どもたちは会社勤めをしているため、後継者がありません。

 

このため、農業を廃業したいと考えているのですが、先祖からの相続不動産手放すより良い方法について、ご相談です。

 

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管理されないままの農地

■解決策■

 

依頼の農地を調査したところ、営農するうえでの環境や条件には恵まれているものの、買い手や借り手がいない状況です。

 

農地を処分するといっても、動産のように廃棄処分や所有権放棄するわけにはいきません。

所有している限りは、周辺農地に悪影響が及ばないように、適切に管理する義務を負っているのです。

 

このため、地続きの農地を耕作しているほかの農家に無償で譲り渡し、農地として利用し続けてもらうことが解決策となりました。

 

売却や貸し付けが可能?

 

農地を手放したいというご相談が多く寄せられます。

最善の「より良い方法での処分」は、買い手や借り手が見つかることでしょう。

 

しかしながら、高齢化や後継者難、過疎化、鳥獣害による被害といった、農業を続けていくための悪条件が重なっているため、容易ではありません。

 

ここからは、事例から確認できた、相続農地を手放す場合の注意点や手続きについて確認していきましょう。

 

農地は売却が難しい

 

農地は、農地として利用することが求められるため、買い手が少なく、一般的に、宅地のような売却は期待できません

買い手となる農業者も減少しているため、需要が減り、価格も低迷しています。

 

農地の価格はピーク時に比べて4割程度下落

 

(一社)全国農業会議所が毎年実施している、「田畑売買価格等に関する調査結果」から、農地取引の実態を確認してみましょう。

 

この調査結果によれば、農地の価格は年々低下しています。

2019年の純農業地域の農地価格は、ピークとなった1994年に比べ平均的な田で約42%、平均的な畑で約36%も下落しました。

 

その要因としては、複数の影響が挙げられています。

最たるものが、農地の「買い手の減少や買い控え」で、農産物価格の低迷などによる生産意欲の減退、後継者不足と続きます。

 

耕作放棄地や所有者不明農地が、全国的な問題として指摘されていることからも明らかなように、農地の取引が低迷しているのが現状です。

 

農業委員会での聞き取り

 

農地の売買や貸借については、農業委員会が中心的な役割を果たしながら、農地有効利用の橋渡が図られています。

 

農地中間管理機構が間を取り持つ売買や貸借、また、市町村レベルでの売買や貸借を試みる「農地バンク」、農業委員会の仲介などが、その方法です。

 

このため、売買や貸借の可能性があるか、農業委員会や地区担当の農業委員から、聞き取り調査を行いました。

 

しかしながら、ここでも農地を売りたい、貸したい希望者ばかりで、買い手や借り手がいないことが分かりました。

 

無償でも借り手がなく、管理にも手が回らない、ここに、田舎にある相続農地の深刻さが浮き彫りになります。

 

土地の所有権は放棄できる?

 

売却や貸すことができず、管理もできなくなった場合、農地の所有権を放棄して、国や町に引き取ってほしい。

相談を受ける方々からは、そんな期待を耳にすることがあります。

 

国や自治体への寄付を考える方もいますが、行政上の利用目的がなければ、受け付けてもらうことはできません

なぜなら、管理などの負担が増えるだけになってしまうからです。

 

民法では、所有者のいない不動産は国の所有に属すると規定されていますが、所有者が所有権を放棄した不動産の扱いについては、規定がありません。

 

不動産の所有権を抹消するためには、抹消登記の申請をしなければなりませんが、国の協力が得られなければ実現しません。

 

農地をタダで譲る

 

農業委員会から働きかけてもらったところ、この農地の場合は、隣接する農地の所有者が面積規模を拡大したいと考えていました。

 

そのため、無償なら譲り受けたいとの意向を示したため、相談者も、手続きや費用を負担してくれるなら、無償で譲渡しても良いとの結論に至りました。

 

その背景には、農地の管理や固定資産税の支払いを免れることができ、先祖から譲り受けた農地を放置せずに済むとの思いがあったのです。

 

ただし、無償で譲渡する場合でも、農地には農地法による権利移動の制限があります。

このため、タダで譲る場合にも、その許可申請手続きが必要です。

 

譲るためには、農地法3条許可申請手続きが必要

 

農地を売却や贈与する場合、たとえ親子間であっても、農地法第3条の規定に基づいて、農業委員会などの許可を受けなければなりません。

 

この許可申請をするためには、双方に要件があることに注意が必要です。

 

譲渡人の要件

 

譲渡人は、不動産登記をした所有者でなければ、権利者として申請できません。

したがって、原則的に、相続登記を済ませておく必要があります。

 

譲受人の要件

 

譲り受ける相手には、農地を農業に利用できる者の要件を満たしている必要があります。

 

個人の場合、まず、農業を行う際の最低限の面積が決められています。

市町村によって、この下限面積が設定されていますが、当地域の場合は20aでした。

新たに取得する農地と、現在農業を「適切」に営んでいる農地の合計が、20a以上なければ申請できません。

 

また、農業を継続して営んでいくための、農業経験のほか、実際に農業を行うための農機具や資材、労働力があるかも要件になります。

 

法人の場合は、農地を所有できる法人の条件が厳格に定められているため、その要件がクリアできる場合のみ、申請の対象です。

 

許可後の手続き

 

農地法第3条による許可が下りれば、あとは、所有権の移転登記の申請手続きを行って、所有者の名義を変更します。

 

この申請は、司法書士に依頼することが一般的ですが、自分で行うこともできます。

申請の際は、贈与契約書、印鑑証明書、登記済み権利証、譲り受ける方の住民票などが必要です。

 

なお、不動産取得税はかかりませんが、不動産の評価額に応じた贈与税がかかることに注意してください。

 

まとめ

 

利益を得ることにはつながりませんでしたが、譲渡後の管理や固定資産税の支払いを免れることができ、相続した農地の心配から解放される結果となりました、

 

また、譲り受ける農家からは、譲渡手続きにかかる費用を負担してもらうことで、両者にとって不利益のない解決策となったと言えそうです。