相続登記を放置した土地の売却に失敗した事例

相続登記放置すると、のちのちトラブルの原因になることは、以前のブログでも紹介しました。

不動産を相続した場合は、所有者の名義を変更しておかないと契約できず、売却を進めることができません。

 

今回は、買い手が決まったのに、相続登記を放置していたために、売買契約を諦めなければならなかった事を紹介します。

 

失敗事例から、そうならないための教訓も見えてきます。

 

失敗の内容と原因

 

親が亡くなった後に居住し、別宅を購入して転居した後も、管理や固定資産税の支払いを続けた不動産に、買い手が現れました。

売却価格も決まり、あとは契約して所有者の名義を変更すれば、一件落着のはずでした。

 

失敗の内容

 

購入を希望する方から相談を受け、必要な手続きを確認するために、登記情報を取得して不動産の所有者を確かめました。

 

すると、所有者は、現在売買の話を進めていた当事者ではなく、亡くなった父親であることが判明したのです。

 

売買契約や登記申請手続きは、所有者本人、あるいは相続人全員で行う必要がありますから、相続人を調べて全員の承諾を得なければいけません。

 

1カ月近くかけて戸籍などを取得した結果、相続人は判明したのですが、戸籍の附票から分かるのは住所だけです。

 

当事者の方に連絡してもらうよう、手紙と返信用切手を貼った封筒を入れ、配達記録が残る特手記録郵便で送付し、返信を待ちます。

 

当事者以外の8人の相続人のうち、7人からは連絡があり、事情を理解して、当事者が相続することを了解してもらうことができました。

 

しかしながら、比較的近くに住む甥だけは連絡が取れず、遺産分割の話を進めることができません。

理由は分からないままですが、訪問しても居留守を使って、会うことを拒否しているようです。

 

半年かけて、連絡を取るために様々な方法を試みましたが、結局、連絡を取ることができず、買主は諦めることを決断。

 

このため、売却話は失敗に終わり、ここで打ち切らざるを得なくなったという訳です。

  

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相続関係説明図

 

失敗の原因

 

売却が進められなくなった直接の原因は、相続人全員からの承諾を得られなかったことです。

 

しかしながら、根本の原因は、不動産の相続登記を放置したことで、のちのちトラブルになりやすいことの証明でもあります。

 

事例から知ることができる、トラブルの原因を確認しておきましょう。

 

記憶の薄れと口約束

 

相続発生から長い時間が経過すれば、記憶が薄れていきます

 

当事者が住んでいたころは、兄弟すべてが、当事者が相続することを認めていたものの、暗黙の了解や口約束で、その証拠がありません。

 

また、当事者が不動産を譲り受けるかわりに、長男には金銭を渡し、領収書ももらった記憶があるのですが、その領収書は見つかりません。

 

会ったこともない疎遠な相続人が増えていく

 

当事者を除く相続人8人のうち、甥と姪が4人いますが、一度もあったことがありません。

また、亡くなった兄弟の奥さんとも、数回しか会ったことがなく、ほぼ疎遠な状況でした。

 

このように、長い時間が経過するほど疎遠な方が増えていくため、血縁とはいえ、見ず知らずの他人と変わらない状況が発生します。

 

利害関係が複雑になる

 

疎遠なれば、特に金銭にまつわる話は特にまとまりにくくなります。

 

互いに状況が理解しづらく、たとえ、固定資産税の支払いや、費用や労力をかけて管理していたとしても、意に介さなれないことも多くなるでしょう。

 

相続を承諾するかどうかの判断になると、代襲相続人だけでなく、その家族も加わって、様々な損得勘定が働くことになります。

 

今後もトラブルが発生しやすい

 

時間をおけば、相続協議に参加しなかった甥も、気が変わるかもしれませんが、あまり期待はできません。

 

相続人間での遺産分割協議が進まなければ、不動産は相変わらず共有状態が続き、年月の経過とともに、さらに相続人の数だけが増えます

 

そうなれば、さらに遺産分割協議ができるような状態を期待することが困難になり、これまで管理してきた当事者も、その意欲をなくす懸念があります。

 

将来的に管理者がいなくなれば、相続不動産は所有者が確定しないまま、場合によっては放置され、近隣に迷惑がかかることにつながります。

 

現在、法務省の法制審議会では、所有者不明土地の相続登記を義務化する案が検討されていますが、実施時にはトラブルが起きるかもしれません。

 

事例から学ぶ対策

 

相続登記を放置したことが原因で発生した、今回の事例から学ぶことが多くあります。

 

所有者として

 

このようなトラブルを引き起こさないために、所有者の立場で対策を取ることができます。

 

相続がスムーズに進むように、生前に不動産を整理することや遺言書を残すことなどが有効な策となります。

 

相続人の立場から

 

身近な方が亡くなれば、葬儀や墓地の手配、初七日や四十九日の法要など、悲しむ余裕もなく進めていかなければなりません。

 

慌ただしく手配や法要が終われば、ようやく日常生活に戻りますが、今度は日々の仕事や生活に追われ、相続手続きを放置することにもなりかねません。

 

このため、葬儀や法要が終わったら、できるだけ早めに遺産分割協議や相続登記の申請手続きを済ませておくことが、とても大切です。

 

もし、すぐには手続きに着手できない場でも、暗黙の了解や口約束ではなく、文書にして証拠を残しておくことが重要です。

 

ただし、そのような場合でも、できるだけ早めに手続きをしておきましょう。

 

まとめ

 

遺産の分割について決める際は、親しさの度合いが深いほど、言い出しにくいこともあるでしょう。

しかしながら、何も決めずに放置しておけば、今回のようなトラブルにつながる恐れがあります。

 

このため、費用がかかりますが、専門家に依頼して、早めに遺産分割協議や相続登記を終わらせておくことが、おすすめです。

 

結果的に、のちのちの売却や賃貸だけでなく、良好な親族関係を保ち、また、故人が遺した財産の有効利用につながります。