相続した不動産の抵当権を抹消する手続き

一般的な不動産取引では、抵当権の付いている不動産は、通常、処分に債権者の同意が必要とされ、売買の対象となりません。

 

しかしながら、相続では、抵当権の付いていない不動産と同様、債権者の同意や承諾が必要なく、そのまま相続人に引き継がれます。

 

というのも、相続は被相続人の権利義務を包括的に承継するに過ぎず、一般的な処分とは異なることが、その理由です。

 

このため、2代あるいは3代前など古い借金についての抵当権が、設定されたまま相続されている不動産も、決して珍しくはありません。

 

しかしながら、このような場合、借金の事実や返済などはあいまいなままで、遠い将来に渡ってその不動産を活用することができません。

 

今回のブログでは、このような抵当権付きの相続不動産が抱える問題や、比較的簡単に抵当権が抹消できるケース、時間がかかるケースを紹介します。

 

抵当権のある不動産は何が問題?

 

抵当権は、借入れた金銭の担保として不動産に設定されるもので、債権者が代金回収のために、競売にかけることができる権利です。

 

不動産を相続する場合、2代・3代前に借入れた金銭の抵当権がそのまま残されているケースがありますが、相続登記手続きでは問題になりません。

 

しかしながら、このような不動産を活用したい場合に、たとえ昔に金銭が完済されている場合でも、障害になり得ることが問題です。

 

たとえば、抵当権のある不動産は、住宅ローンなど、新たに抵当権を設定するような融資を利用することができません。

 

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そのまま相続された2代・3代前の抵当権

 

融資を申し込んでも、新たに抵当権を設定することになる金融機関からは、既存の抵当権の抹消を要求されることが一般的です。

 

このため買い手がつかず、一般的な不動産取引の対象とすることが難しい状態が発生します。

 

また、相続した建物を解体して滅失登記を行いたい場合にも、抵当権があれば、債権者の同意が必要となることが一般的です。

 

相続した人の判断で勝手に滅失登記手続きを進めると、抵当権設定の契約違反に該当する恐れがあるため注意が必要です。

 

このように、抵当権付きの不動産は、処分したい場合に債権者の同意が必要で、相続人が有効活用しにくいデメリットがあるのです。

 

比較的簡単に抵当権が抹消できるケース

 

抵当権付きで相続した不動産も、売却など処分するためには、抵当権を抹消しておかなければなりません。

 

また、抵当権は、所有者が死亡しても消滅するわけではなく、不動産に付いたまま相続の対象となってしまいます。

このため、将来的な利用を考えれば、抵当権の抹消登記を済ませておく必要があります。

 

完済が証明できれば共同で抹消

 

抵当権を抹消するためには、借金を完済していることが前提条件ですが、証明できれば、抵当権者と共同で抵当権を抹消できます。

 

たとえば、住宅ローンや不動産担保ローンが完済されると、金融機関からは、弁済済証や登記識別情報、委任状など、抵当権の抹消に必要の書類が債務者に送付されます。

 

これらの書類があれば、所有者は、抵当権の抹消登記申請手続きをスムーズに行うことができるのです。

 

また、このような書類を紛失した場合でも、金融機関であれば、窓口に相談することで解決する場合が多いと言えます。

 

特別な条件に該当すれば単独で抹消できる

 

休眠抵当権と呼ばれる、明治や大正時代に設定されたまま残っているような抵当権を抹消したいときに、特例が利用できる場合があります。

 

これは、特別な条件に該当する場合について、不動産の所有者が、単独で抵当権を抹消できる制度です。

 

この特別な条件とは、抵当権者が行方不明であることが前提となり、完済の証明書がない場合は、弁済期から20年以上経過している条件が加わります。

 

また、登記されている借金額について、利息や損害金を含めて供託するとの条件を満たさなければなりません。

 

これらの条件を満たしているときは、相続人が単独で、抵当権の抹消登記を申請できます。

 

ただし、行方不明については、不在籍不在住証明書や、宛先不明で返送された封筒などの証拠が必要で、単に分からないでは認められません。

 

なお、通常は相続人を追跡できるケースが多く、相続人の調査を行い、抵当権の解除に同意を取り付ける方向で進められることが一般的です。

 

抵当権の抹消に時間がかかるケース

 

借金が完済されている場合でも、抵当権の抹消手続きを放置したまま長い年月が過ぎると、簡単に手続きができない事態が発生します。

 

また、古い抵当権についての確認や、亡くなっている抵当権者の相続人から同意を得る手続きなどが必要な場合は、かなりの時間を要します。

 

さらに、相続人からの同意が得られずに訴訟に発展するようなケースでは、時間がかかるだけでなく、かなりの費用もかかってしまいます。

 

金融機関の合併や名称変更などが発生しているケース

 

借金が完済されている場合でも、金融機関の合併や移転、代表者の変更、書類の紛失など、抵当権の抹消に必要な書類が揃わない事態も発生します。

 

このような場合は、証明などの抵当権の抹消手続きに必要な書類を新たに発行してもらわなければなりません。

 

登記簿謄本を用意して、早めに金融機関に相談することをお薦めします。

 

実際に受けた相談でも、送付された書類を紛失したケースや、合併で金融機関の名称が変わったケースがありました。

 

必要書類の発行手続きに多少の時間を要したものの、先に相続登記を終えていたことなどから、手続きは比較的スムーズに進みました。

 

個人の金銭貸借で完済の書類が発行されていないケース

 

個人間での金銭貸借で抵当権を設定している場合は、完済後に抵当権の抹消登記に必要な書類が発行されないケースもあります。

 

このような場合は、抵当権者に必要書類を作成してもらうことができれば、抵当権の抹消登記手続きを行うことができます。

 

貸主も死亡して金銭貸借の事実が確認できないケース

 

金銭貸借した当時の所有者も抵当権者も亡くなっていて、相続人からは貸借の事実さえ確認できないケースも存在します。

 

このようなケースでは、抵当権の抹消登記手続きに最も時間がかかります。

 

本来なら抵当権を相続した方に書類を作成してもらいますが、2代・3代前の抵当権者の相続人を確認することから始めるとなれば、容易なことではありません。

 

また、相続人が判明しても、借金の完済を確認するのはほぼ不可能で、抵当権の抹消に同意してもらえるかどうかが焦点になります。

 

相続人の同意が得られなければ、訴訟といった手続きを踏まなければならないケースも生じます。

 

実際に受けた相談では、相続人を探し当て、全員から抵当権の抹消に同意を得ることができたため、半年程度で抹消登記手続きを終えることができました。

 

なお、個人間の抵当権については、相続人調査や同意の取り付けなどで難航することが多いため、専門家への相談がおすすめです。

 

まとめ

 

トラブルを回避するためには、抵当権の抹消登記を忘れないことが重要で、借金を完済したら速やかに抵当権抹消登記をおすすめします。

 

また、抵当権の抹消登記をすぐに申請できないような場合は、領収書など借金を完済したことを証明する書類を大切に保管しておきましょう。

 

休眠抵当権と呼ばれるような、かなり以前の抵当権があっても、完済の証明があれば、抹消登記手続きは進めやすくなります。

 

完済の証明が残っていない抵当権を抹消したい場合や、行方の分からない抵当権者を確認したい場合などは、専門家に相談することをおすすめします。