相続税が高額になることが分かっていれば、相続が発生する前に対策も可能です。
不動産の相続税が高額になるのは評価額が高いためですが、時価と比べて評価額がかなり高い場合は、買換えにより大きな節税効果が現れる可能性が高まります。
今回は、相続が発生する前に、相続税評価額が高額な底地の売却によって相続税評価額を下げながら、収益性も上げることができた事例をご紹介しましょう。
相談内容と解決策
まず、相談者からの依頼内容と、提案した解決策のポイントを確認しましょう。
■相談内容■
相談者は、妻と2人で暮らす67歳の男性と、その長男です。
子どもは長男一人で、近くに別世帯を構えて夫婦二人で暮らしています。
相談者はいわゆる地主で、自宅のほか、アパートや駐車場、底地など多くの不動産を所有しています。
遺産相続が発生したら長男に財産を譲る予定でしたが、相続税を計算したところ、総額3億円。
これに慌て、新たな投資や借金をすることなく、節税できないかというのがご相談の内容です。
■解決策のポイント■
評価額を調査した結果、相続税の総額が3億円の資産の中で、底地が最も評価額を押し上げていることが判明。
底地は、住宅用に貸し付けているもので、1区画当たり平均30坪のものが20区画もあります。
信頼のおける不動産会社に依頼して調査したところ、底地の時価は約2億5千万円で、相続税評価額4億2千万円を大きく下回っていました。
そこで、底地を一括で売却し、その収入をもとに相続税評価額が低い不動産への買い替えを提案。
この際、収益性をアップさせるために、収益性の高いものを選ぶことを併せて提案しました。
解決すべき課題の洗い出し
調査で洗い出された課題は、底地の高額な評価額と時価との乖離、また、低い収益性の解決であることが判明しました。
調査結果
底地を調べていくと、相続税評価額が4億2千万円と高額にもかかわらず、時価は約2億5千万円。
さらには、収益性が低い状態で、利回りで言えば約1%、年に500万円程度しかありません。
底地とは?
貸地や貸宅地とも呼ばれますが、土地に借地権が設定されている状態の土地が底地です。
底地の所有者は、土地を貸すことによって地代収入を得ています。
底地と借地は、混同しやすいですね。
底地は地主の権利、借地は土地を借りる人の権利で、賃借人と賃貸人のどちらか見た状態を表すかによって、呼び方が変わります。
解決策の検討
相続税を減額するとともに、資産価値を上げる方法として、不動産の買換えがあります。
買い換えの際には、広い面積でも価値が低い不動産を、狭くても価値が高く、収益がアップする不動産を選ぶと、買換えの大きな効果が期待できます。
評価額だけが高い不動産を所有していても、収益性が低ければ、固定資産税や維持費がかかるばかりですから、資産価値が低いと言えます。
事例における検討の視点
相続税評価額と時価が大きく乖離している場合、時価から見た資産価値を大きく変えずに、評価額の低い不動産への買換えが、有効な解決策になることがあります。
この事例では、底地の評価額が高額で、しかも収益性が悪いところに着目し、相続発生前の買換えを前提としました。
買い換えの条件として、
・評価額を減らすために売却価格よりも購入価格が低い不動産を選ぶ
・新たな投資や借金をせずに買い替えるために、買換えの費用を抑える
これが前提です。
解決策とその効果
売却価格よりも買い換える不動産の購入価格が低ければ(売却価格>購入価格)、評価額の低い不動産への組み換えを、より効果的に行うことができる解決策があります。
それが、事業用宅地の買換え特例の利用です。
要件に該当して利用できれば、買換えに伴う譲渡所得税を8割程度軽減できます。
ただし、この特例を利用するための要件に該当するかどうかは重要なポイントですから、慎重に検討しました。
解決策の効果
相続税評価額4億2千万円の底地を一括で、評価額の約60%程度に相当する約2.5億円で不動産業者に売却し、約2億円で利回り7%と収益性の高い賃貸マンションに組み替えです。
この事例では、特例の要件に該当したため、有利な条件で買換えが実現しました。
その有利な条件とは、譲渡所得税が8割程度軽減できることで、新たな投資や借入も一切必要なしで、組み換えが実現しました。
その結果、相続発生前に、4億2千万円相続税評価額は約2億円と半分以下とすることができ、収入も3倍以上の資産に生まれ変わったのです。
事業用資産の買換えで相続税を減らすことができる理由
相続税を減額できる大きな理由は、「事業用の資産を買い換えたときの特例」による譲渡所得税の節税にあります。
個人でも、一定の要件を満たす事業用の資産を買い換えた場合、譲渡所得の一部を将来に繰り延べることができる制度です。
譲渡価格(売却価格)が買換え価格より低い場合、買換えた資産価格の8割程度分の課税が繰り延べされるため、大幅な減額となります。
逆に言えば、買い換えに多額の譲渡所得税がかかる場合は、追加投資や借金なしでのスムーズな組み換えが難しいと言えます。
高額な土地への買換えの場合も、譲渡所得を大幅節税
「事業用資産の買換え特例」は、他の不動産や手持ち資金などを、より資産価値の高い不動産に集約するようなケースでも効果があるでしょうか?
紹介した事例は、売却価格よりも買換え価格が低い(売却価格>買換え価格)ケースですが、特例が利用できれば、逆の場合も大きな節税効果があります。
特例の要件に当てはまる場合は、譲渡所得が80%程度軽減できるのです。
通常、譲渡所得は、売却価格から売却時の必要経費を差し引いた額(売却価格-必要経費)ですが、どちらも20%だけが税額計算の対象です。
たとえば、売却価格が3億円、購入価格が5億円の買換えで、必要経費が1億円なら、2億円の譲渡所得となるところ、特例が適用されると4千万に下がります。
なお、相続税の評価額がどの程度アップするか、あるいは低くできるかなどを確認しながら検討することをお忘れなく!
まとめ
借地権付きの底地は、売却できないと思っている方も多いことでしょう。
継続して貸し付けている場合は、改めて考えることも少なく、そのままにしているケースが多いと思われます。
これは、事例のような底地だけでなく、他の不動産についても同じことが言えます。
相続発生前に行う不動産の組み換えにより、相続時に大きな節税効果を発揮することが期待できます。
ただし、相続税評価額や時価、特例の要件なども調べた上での検討が重要です。