節税と相続トラブル回避を実現した売却事例

不動産の遺産相続の節税方法を大胆に分けると、課税額の圧縮と、手持ちの現金や不動産売却で得た資金などを不動産に振り向けることと言えます。

この二つを組み合わせたものは資産の組み換えと呼ばれ、事業用資産の代表的な節税策です。

ブログの初回は、この資産の組み換えを利用して節税と収入アップ、さらに遺産相続時のトラブル回避策となった売却事例を紹介します。

 

相談内容と解決策

 

最初に、相談の内容と提案した解決策の要点の確認です。

 

■相談内容■

相談者は、妻と子ども二人の4人で暮らす65歳、男性です。
自宅としての家屋敷のほか、20年前から賃貸用の店舗と地続きの駐車場を所有し、賃貸用の不動産から得られる賃料収入を生活費に充てています。

 

悩みは、賃貸用不動産について、高額な相続税を支払わなければならない状況に加え、将来の遺産相続で二人の子どもがトラブルになりそうだということでした。

また、賃貸用の店舗は、契約上や収入の面から、簡単には売却できないという状況もありました。

 

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相談者の家族構成と資産


■解決策のポイント■

事業用資産の買換え特例を利用した、賃貸用土地の売却と、売却で得た資金による賃貸用マンションへの買換えです。

 

・譲渡所得の節税効果などにより、借金や投資も必要なしで、資産価値を保ちながら相続税評価額の大幅な減額を実現。
・この結果、相続税の大幅な減額に加え、区分マンションからの賃料収入を生活費として確保。
・さらに、将来の遺産相続時には、資産価値を保ったまま、子供二人が均等に分け合うことができる区分マンションも準備。

 

相談者も満足のいく結果となりました。

 

解決すべき課題の洗い出し

 

相談者からの説明や具体的な数字を確認していったところ、最大の課題は高額な相続税で、手持ちの預貯金では納税に不足することでした。

税理士に相談したところ、駐車場部分を売却処分して税金の支払いに充て、さらに不足分が生じた際は死亡保険金を充てるとのこと。

 

また、将来の遺産相続についても、課題がありました。

相談者は、自分の遺産相続の際、妻に自宅を譲り、子ども二人には残りの賃貸用不動産を相続させたいと考えていました。
ところが、賃貸用の不動産を均等に分割することは難しいため、子ども二人が遺産相続でトラブルになると、相談者は心配していたのです。

 

解決策の検討

 

解決策を提案するために、まず、賃貸用不動産の時価調査を提案しました。
なぜなら、実際の価値が分からなければ、具体的な解決策につながらないからです。

また、賃貸用不動産から得るべき賃料収入の期待額を検討するために、生活費に充てる金額がどの程度必要か検討することを、アドバイスしておきました。

 

不動産の調査結果

まず、賃貸用の土地は、相続税評価額が6憶円で、相続税は税率50%の約2億5千万円です。

 

時価については、信頼できる数社の不動産業者に情報を開示して調べてもらった結果、借家権を残したままの売却価格で最高4憶円の評価でした。

相続税の評価額が6億円に対し、時価が4億円であることから、過大な相続税となることが判明したのです。

 

ここで解決策として浮上したのが、「事業資産の買換え特例」の活用です。
この特例を利用するためには、面積や所有期間などについての様々な要件がありますが、幸い要件を満たしていることが確認できました。

 

この特例を利用すれば、相続税評価額が時価より高い(相続税評価>時価)の事業用不動産は、組み換えで節税効果が生まれやすくなります。

 

そして解決策へ

 

相談者に提案した「事業資産の買換え特例」を活用する具体的な解決策は、次のようなものです。

 

まず、賃貸用土地を時価の4億円で売却し、売却経費が1億円かかるとして、3億円の譲渡所得です。
3億円の譲渡所得に対しては、非居住用財産の長期所得税率20.315%がかかり、税額は約6千万円程度となります。

 

しかしながら、この特例を利用して、売却利益の3億円で賃貸用に区分所有マンションを購入すれば、譲渡所得を8割程度に減額することができます。

この結果、当初6億円の相続財産評価額は、買換え後のマンションでみると、評価額が1憶円以下になるため、相続税は3千万円程度まで下がります。

 

これは、土地と建物の評価額が、それぞれ30%、20%程度は時価よりも低く評価されることに加え、賃貸用では、さらに借地権割合と借家権割合をかけ算した額に減額される効果です。

 

提案した解決策による効果

 

解決策の実行により、資産としての価値を大きく変えないまま相続税の評価額を下げることができ、約2億5千万円の相続税を3千万円程度に減額できることになります。

 

また、区分所有マンションを2棟購入すれば、生活費に充てる賃料収入が確保でき、将来の遺産相続時には、子ども二人が1棟ずつ均等に相続することが可能になります。

 

相談者がこの解決策に納得してくれたため、連携している不動産会社を通じ、買換えが実現しました。

 

事業用資産の買換えで相続税を減らすことができる理由

 

減額できる理由は「事業用の資産を買い換えたときの特例」の仕組みにあります。

一定の要件を満たす事業用の資産を買い換えた場合、個人も譲渡所得の一部を、将来に繰り延べることができる制度です。

 

買換え価格が譲渡価格(売却価格)より低い(売却価格>買換え価格)場合、買換えた資産価格の80%相当額への課税が繰り延べされるため、大きく減額できます。

 

いつまで繰り延べされるか心配になりますが、買換えで取得した不動産への課税は、その不動産を売却するときまでありません。

 

売却事例の場合、4億円で売却した土地を、3憶円の区分所有マンションに買い換える場合の譲渡所得税は、マンション購入価格の8割強相当を差し引いた約6千万円への課税で済みます。

 

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事業用資産の買換え特例(売却価格>買換え価格)

 

まとめ

 

相続税評価額が時価より高い(評価額>時価)不動産の場合、買換えによって相続税を減額できる効果が高まります。
ただし、事業用資産の買換え特例の要件に該当するかどうか、十分確認する必要があることにご注意ください。