土地の所有権を放棄できる法律が成立!相続した田舎の土地を手放せる?

所有者がわからないまま売買や利用もできない土地が急激に増え、社会的な問題となっています。

隣地がそのような土地であれば、工事での立ち入りや配管なども承諾が得られず、建物の老朽化や草木の繁茂など迷惑を被ることにもつながります。

 

以前のブログ「相続した不動産の相続登記が義務化される?所有権放棄なども検討中」では、この問題解決のための検討状況について紹介しました。

今回のブログは、一連の見直しの結果、2021年4月21日に成立した所有者不明土地関連の法律の概要を紹介します。

その中でも特に、所有権を放棄できる法律について焦点を当て、相続した不要な土地を手放せるようになるかを検証します。

 

制度を変える背景

 

国土交通省が行った2017年の調査によれば、土地全体に占める所有者が不明な土地の割合は、全国で22%にも上っています。

不動産登記簿には所有者の氏名と住所が記録されているため、本来なら登記簿から所有者を探し当てることができる仕組みとなっています。

しかしながら、相続登記がなされていないことや住所が変わっても登記簿の住所を変更していないことが原因で、所有者に連絡をとれなくなっているのです。

全国で22%もある不明土地のうち、なんと66%が相続登記の未了が原因で、残りの34%が住所変更登記の未了が原因です。

 

所有者が亡くなっていれば戸籍をたどる必要があるものの、時間が経てば相続人の数が膨大になることも珍しくなく、全員に連絡を取ることは容易ではありません。

それに、戸籍はだれでも入手できるわけではありません。

また、所有者が転居などによって記録された住所に住んでいない場合も、住民票や戸籍の附表を入手できなければ、その先を調べようがないのです。

 

このような状況が生まれる背景としては、相続登記が義務ではないことが大きな要因の一つであるとして、制度を変える検討が進められてきました。

わざわざ登記しなくても相続人に不都合はなく、土地に対する執着も薄れてきているため、先祖が残した土地を相続するという意識も希薄化しつつあるようです。

このまま放置すれば、相続されないまま取り残された土地がねずみ算式に増え、今後ますます深刻化する懸念から制度改正に至ったというわけです。

 

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相続した田舎の不動産は維持管理が課題

 

新しい制度のあらまし

 

2021年4月21日には「民法等の一部を改正する法律」と「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立し、同28日に公布されました。

二つの法律は、所有者不明土地の発生予防と利用円滑化の2つの面から、民事基本法制を総合的に見直すものとなっています。

 

一つ目の発生予防の観点からは不動産登記法が改正され、現行では任意の相続登記や住所などの変更登記の申請が義務化されます。

ただし、このような手続きについては簡素化や合理化する方策がパッケージで盛り込まれます。

また、このブログのテーマである所有権の放棄についても新たな制度が定められます。

相続などによって土地の所有権を取得した方は、法務大臣の承認が得られれば土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度です。

詳しくは後段で紹介します。

 

二つ目の利用円滑化の観点からは、所有者が不明な土地の管理制度を新設するとともに、共有者が不明な場合にも共有地を利用しやすい仕組みが整備されます。

また、相続開始から10年が経過した後の遺産分割については、画一的な法定相続分で簡明に行うことができる仕組みが新たに整備されることになります。

また、隣地を通過してライフラインを引き込む場合については、所有者が不明な状態でも対応できる仕組みが整備されます。

 

所有者不明土地の発生を予防する相続土地国庫帰属法

 

土地を相続することを望まない方が増えていることなどを背景として、相続した土地を手放したいと考えている方が増えています。

望まない土地を相続した方にしてみれば、所有者としての負担感だけが大きくなってしまうことが背景にあります。

このため、相続または相続人に対する遺贈に限定して、取得した土地を国に帰属させることを可能とする制度が新たに作られました。

 

しかしながら、管理コストを国に転嫁させるためや土地の管理をおろそかにするといったモラルハザードの発生が問題になります。

これを防止するため、手放すことができる要件を定め、法務大臣が妥当かどうかを審査する仕組みが作られることになっています。

また、費用として、審査手数料と10年分の土地管理費用を納めなければなりません。

10年分の土地管理費用としては、原野で約20万円、市街地の宅地200平方メートルで約80万円が想定されています。

 

つまり、この新たな制度では、手放すことができる土地に該当するかを法務大臣が審査し、承認されて費用を払えば所有権を国に渡すことができることになるのです。

 

手放すことできる土地の要件

 

土地の要件や費用の詳細については、政省令で規定するとされているものの、まだ具体的に示されるには至っていない段階です。

 

現在決まっている土地の一般的な要件について、例示されているものを列挙してみましょう。

・建物や通常の管理または処分を阻害する工作物などがない

・土壌汚染や埋設物がない

・崖地ではない

・権利関係に争いがない

・担保権などが設定されていない

・通路など他人によって使用されていない

なお、共有地の場合、共有者全員で申請する必要があるとされています。

 

これらの要件は、一般論ですが、容易に売買や賃借などの対象になりそうな条件ばかりが列挙されているようにも思われます。

つまり、買い手や借り手が容易に見つかるような土地であれば、手放したいと思うことも少ないでしょう。

また、老朽化した空き家が現存していれば除却して更地にしなければならないことも想定されます。

したがって、現在示されている土地の要件だけから考えると、不要な土地を手放すという観点からはハードルが高そうです。

 

まとめ

 

新たな法律の施行日は、公布から2年以内に政令で定めるとされています。

また、相続登記を義務化する改正については公布後3年以内、住所変更登記を義務化する改正については、5年以内に政令で定めるとされています。

ただし、現在のところ政令は定められていないため、実際の施行がいつになるか決まっているわけではありません。

このため、制度の利用を検討したい場合は、今後の政令による具体化を見守る必要があります。

詳しく知りたい方は、法務省のホームページでご確認ください。