相続や贈与によって田畑を取得することになると、どれほどの価値があるのか想像しにくいため、相続税や贈与税を心配する声が多く聞かれます。
宅地なら、路線価や固定資産税評価額をもとに評価することをご存じの方も多いことでしょう。
また、全国を対象とした公示地価が毎年公表されてメディアでも取り上げられるため、宅地価格の動向を知る機会は多いかもしれません。
一方、農地の評価額は、宅地と同様、路線価または固定資産税評価額をもとに土地の評価額を計算することになるのですが、宅地と同じではありません。
また、農地の売買事例は少ないために実勢価格を知ることは難しく、メディアでも農地価格の動向が取り上げられることは稀と言えます。
今回のブログでは、あまり知られていない、農地を評価する方法や農地価格についての最新の調査結果について紹介します。
宅地の評価
農地の評価や価格動向を紹介する前に、まず宅地の評価方法について確認しておきましょう。
宅地の評価は、路線価が設定されている地域では路線価方式、それ以外の地域では倍率方式によって計算します。
路線価方式
路線価は、相続や贈与によって取得した土地を評価する場合に基準となる価格で、毎年1月1日現在の価格として、国税庁から公表されています。
土地に面する道路ごとに、1平方メートル当たりの土地価格が決められています。
公示地価との比較では、路線価は公示価格の概ね8割程度になるよう設定されることになっています。
それぞれの宅地評価額については、路線価に土地の面積を乗じて求めることになります。
「路線価方式による土地評価額」=「路線価」×「土地の面積」
倍率方式
路線価が決められていない地域では、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて評価する方法で計算します。
倍率については、国税庁によって地域ごと土地の種類ごとに定められています。
「倍率方式による土地評価額」
=「固定資産税評価額」×(地域や土地の種類ごとに定められた)「倍率」
固定資産税評価額は、市町村が定める土地の評価額です。
1月1日現在の価格として定められ、3年ごとに見直されています。
この価格は、固定資産税や都市計画税、不動産取得税、登録免許税などの税金を計算するための基準として利用されています。
公示地価との比較では、固定資産税評価額は公示地価の概ね7割程度になるように設定されることになっています。
農地の評価
農地を評価する場合は、市街地や市街地の周辺にあるか、それ以外の地域にあるかによって、評価方法が異なります。
市街地や市街地の周辺にある農地とは?
税務上、農地は純農地、中間農地、市街地周辺農地、市街地農地の4種類に区分されています。
都市計画法や農地法によつ区分で分け直してみると、市街化区域内にある農地は市街地農地ということになります。
また、市街地周辺農地は、市街化調整区域内にある農地のうち第3種農地に該当しています。
つまり、単純に表現すれば、農地以外への転用が可能な農地に分類されている場合は、市街地や市街地の周辺にある農地として、特別な方法で評価することになります。
市街地にある農地の評価方法
このような農地については、宅地批准方式または倍率方式によって評価額を求めます。
宅地批准方式は、宅地として造成された農地と仮定して、宅地の価格から造成費を差引いて求める方法です。
「市街地にある農地の評価額」=「宅地の価格」―「造成費」
宅地の価格は、路線価が設定されている地域では路線価を用い、路線価の設定がない倍率方式の地域では近隣宅地の評価額を基に計算します。
近隣宅地の評価額は「宅地としての固定資産税評価額×宅地としての評価倍率」によって計算することになります。
なお、造成費については、地域ごとに定められた標準的な額が国税庁のホームページで公表されています。
市街地以外にある農地
市街地の周辺にある農地については、市街地農地として評価した額の80%として評価します。
一方、それ以外の地域については、倍率方式によって評価することになります。
農地価格の動向
農地価格については、(一社)全国農業会議所が毎年「田畑売買価格等に関する調査」を行って、公表しています。
この調査は、1956年以降毎年、全国で約1万1千地区を対象として、耕作目的の売買価格と転用目的の売買価格を調べているものです。
以下では、2021年3月26日に公表された、2020年の調査結果を紹介します。
価格と動向
市街地やその周辺を除く、純粋な農業地域における2020年の10当たり全国平均の農地価格は、標準的な田で113 万3千円、畑では83 万8千円でした。
農地の価格は、ピークとなった1994年を境に26年連続で低下しています。
ちなみに、2020年の農地価格を最高となった1994年と比べると、田は43.4%、畑は39.2%も下がったことになります。
地域別にみると、低下の幅には違いがあるものの全ての地域で低下し、特に農業が盛んな東北や九州などで低下の幅が大きくなっていることが明らかになっています。
低下の要因
宅地や商業地などと異なり、農地の価格は立地条件や経済状況、人気などに影響されにくいと言われているものの、需要が少ないことが低下要因となっているようです。
主な要因として、買い手の減少や買い控え、農産物価格の低迷、後継者不足、労働力不足などがあげられています。
少子高齢化や都市圏への集中が進み続けている現状では、農地価格の低下に歯止めをかけるのは難しいのかもしれません。
まとめ
市街地や周辺にある農地の評価額は、造成費分を差し引くことになるものの、宅地並みに路線価で評価することにはなることを覚えておきましょう。
一方、倍率方式の場合、農地の固定資産税評価額は低めに抑えられているものの、農地の倍率は思っているより高く設定されているかもしれません。
5倍、10倍前後の倍率が設定されている地域も珍しくありません。
気になる方は、国税庁ホームページの評価倍率表(一般の土地等用)を調べておくことをおすすめします。