所有者が分からないまま放置されている家屋や土地の存在は、地域の円滑な経済活動に支障を及ぼすケースが目立つようになっています。
所有者が死亡して名義変更されていない土地は、売買や貸借などの対象にできないケースが多く、有効に利用されないまま放置されていることも珍しくはありません。
今回のブログでは、工事を行うために一時的な設備の設置場所を確保するため、相続未登記の農地を借りて一時転用できた事例を紹介します。
今回のブログでは、所有者が不明な場合の連絡方法と、相続未登記の土地を借りることができる相手、農地の一時転用申請に添付しなければならない書類の3つがポイントです。
■相談の内容■
相談者は地元の建設業者の方で、建設資材置き場として、工事用地に隣接する耕作されていない農地を借り受けたいとのご相談です。
所有者は分からないが、ほかに代替地が無いため、どうしても借り受けたいので調べてほしいというものです。
■相談者への提案■
所有者と連絡が取れない農地の貸借は、大きく三つの問題をクリアしなければなりません。
一つ目は所有者と連絡が取れるかと、二つ目は農地として転用可能かということです。
そして、さらに大きな問題が相続未登記ではないかということです。
すべてを調べ上げるには時間がかかること、また、必ずしも借り受けられる保証がないことを説明しつつ、それぞれの調べ方を提案しました。
ほかに代替地が無いため、可能性がゼロでなければ調べてほしいとの回答であることから、調査と手続きに着手することとなった次第です。
所有者が分からない土地の連絡先を調べるには?
荒れ地になっているなど、不作付け地や荒廃地を借りたいケースでは、連絡を取るべき相手が分からないケースが多く見られます。
他出した所有者一家に代わり、地元に残る親族や知人が窓口になっていたものの、世代交代が進んで疎遠になれば機能しなくなる傾向にあります。
地番を探し出して登記情報を取得する
所有者の連絡先を知る親族や知人がいなくなれば、通常は連絡の取りようがありません。
そんなケースでは、登記情報または登記簿謄本を取得して、所有者の住所・氏名を確認することから始めます。
登記情報は、土地の地番さえ分かればインターネットから容易に得ることができます。
しかしながら、地番が分からない場合は、住宅地図で見当をつけ、登記所に備え付けられているブルーマップから地番を探し出す作業が必要になります。
ブルーマップは精密なものとは言えませんが、住居表示が黒字、公図と地番が青字で表記されていて、だいたいの地番を調べることができます。
地番を探し出したら、その地番の土地が描かれている公図を取得します。
公図には、最近の測量によって作成された「14条地図」と、旧土地台帳付属図面とも呼ばれる「14条地図に準ずる図面」の2種類あります。
「準ずる図面」は、明治の地租改正時に測量された地図をもとにしたもので、いわゆる「縄伸び」や正確な形状を示していないものなどもあり、現状に合わない部分が多く見られます。
知りたい土地の地番は、公図と住宅地図を見比べ、道路との位置関係や土地の形状や大きさから探し当てます。
登記情報の所有者に連絡
登記情報を取得すれば、最新の所有者について住所と氏名が確認できます。
ただし、登記簿の住所は登記した時の住所であり、その後に転居した場合でも、所有者が住所変更登記を怠っていれば反映されません。
また、世代交代が進み、所有者が死亡している場合がありますが、相続登記、いわゆる名義変更手続きが行われていなければ、相続人全員の共有状態です。
本題からそれてしまいますが、この2つが所有者不明土地の大きな発生要因となっています。
しかしながら、公的に得られる情報はここまでですから、登記情報に記載された住所と所有者名から連絡先を探し当てることになります。
農地の場合、近隣農家や地区担当の農業委員、管轄する農業委員会から連絡先に関する情報を得られるケースもあります。
また、連絡先について情報が得られなければ、住所地への訪問や、郵送で返信を依頼する方法があります。
なお、郵送の場合、特定記録郵便などの配達を確認できる方法で送り、切手を貼った返信用の封筒を入れておくと、返信の確率があがります。
所有者が死亡して相続未登記の土地を借すことができるのはだれ?
登記情報で確認した所有者本人と連絡を取ることができれば、土地を借りたい相談もスムーズに進むケースが多いことでしょう。
しかしながら、登記情報の所有者が死亡して相続未登記の場合、賃貸借契約に印鑑を押せる本人が実在しません。
相続未登記の土地を借すことができる相手方
所有者が死亡して相続未登記の土地は、相続人全員がそれぞれの相続分で権利を持っています。
したがって、相続未登記で所有者が確定していない土地でも、相続人全員の承認があれば、借りることができます。
この先を進めるためには、戸籍の調査が必要になります。
調査を進めるためには、相続人のうち一人と連絡が付き、その相続人から依頼を受けることが最低限必要な条件です。
相続人探し
ただし、戸籍を調べて相続人全員を特定する必要があります。
つまり、相続登記の手続きと同様、まず、死亡した所有者の出生から死亡までの戸籍を取得し、そこから順に相続人をたどっていく作業が必要です。
また、相続のために戸籍を取得できるのは、相続人あるいは相続人から依頼を受けた専門家に限定されますから、注意が必要です。
相続人全員から承認を得る
相続人探しが終わったら、相続人全員の連名方式で土地の賃貸借契約書を作成し、記名と実印での押印を依頼します。
農地を転用できる条件と手続き
農地を借りるためには、所有者の承諾、あるいは相続人全員の承諾のほかにも、農地を転用できるかという問題があります。
農地は、他の土地と異なり、農地法による規制があるため、転用不可能な農地であれば手続きを進めることができません。
転用可能な農地か確認
転用可能かどうかについては、あらかじめ管轄する農業委員会に相談しておく必要があります。
農地を転用するためには、農振農用地の指定から除外可能なことに加え、農地以外の目的に利用できない区域に該当しないことが必須の条件です。
農振農用地に指定されている農地の場合、除外を申請する手続きがありますが、すべてのケースで認められるわけではありません。
また、認められるケースでも、許可されるまでに長期間を要することが一般的です。
単純に言えば、農振農用地に指定されておらず、第3種または第2種農地に分類されている場合は、転用の可能性があると言えます。
農地法第5条許可申請
転用できる可能性がある農地なら、管轄する農業委員会に農地法第5条許可申請手続きを行って、審査を受けます。
知事決済のこの許可が下りれば、転用が実現できることになります。
農地の転用許可申請は、相続人であることを証明する戸籍などを添付
所有者が死亡している相続未登記農地の転用手続きは、極めて稀なケースと言っても過言ではありません。
土地の賃貸借契約同様、権利関係を確認しながら、手探りで手続きを進めることになります。
相続人全員が賃貸人側の申請者
通常、許可申請は、賃貸人と賃借人が連名で手続きを行います。
しかしながら、土地の所有者は死亡していますから、所有者に代わり相続人全員が相続分の権利を持つ状態で申請を行うことになります。
添付書類
相続人全員が賃貸人側の申請者となるため、所有者の相続人であることを証明する書類の束を添付しなければなりません。
具体的には、死亡している被相続人と相続人全員の関係を示す「相続関係説明図」、これを証明する全員の戸籍や戸籍の附票、印鑑登録証明書が添付書類です。
申請者は合計8名の相続人となったため、申請書とは別に賃貸人を連名で記した様式を用意し、全員が住所、氏名、職業を記載して、実印を押印します。
相談者への提案と解決
調査を進めたところ、死亡している所有者の相続人と連絡がつき、転用可能な農地と考えられることが判明しました。
さらには、相続人全員とも連絡が取れ、あわせて承諾を得られたことから、農地法第5条の許可申請を行う手順ことができました。
この事例では、様々な課題をクリアしながら進める必要があったため、相談者には逐次報告と提案を行いながら手続きを進めました。
この結果、「運よく」一時転用許可にたどり着いたというのが、今回の結果です。
まとめ
農地の転用手続きだけでも、かなり難関です。
今回は、これに加えて所有者不明、相続未登記という大きな問題がある農地でしたから、当初は実現困難かと思われました。
「運よく」実現に至りましたが、今回のように上手く行くケースは稀と考える方が良さそうです。