遺言で不動産を譲り受けたら、所有者の名義を変えるために「所有権移転登記」の申請手続きを行います。
名義を変更しておかなければ、将来的に売買や相続などでトラブルが発生する恐れがあります。
この手続きを行う際は、登録免許税と呼ばれる税金がかかりますが、「相続」と、遺言で贈与する「遺贈」で異なることをご存知でしょうか。
相続では、登録免許税率が低く、相続未登記に対応するための免税措置も設けられているのに対し、遺贈による登録免許税は割高になります。
また、「相続させる」場合は、単独で登記できるのに対し、「遺贈する」場合は他の相続人と共同で登記を行わなければならない制約もあります。
遺言の作成や執行の際には、このような不動産特有の登記についても把握しておくことが大切です。
「相続させる」と「遺贈する」の違い
遺言では、だれにどれだけの財産を与えるかなどを指定できます。
法定相続人には、相続の発生と同時に法定相続分の権利が与えられる一方、内縁関係にある配偶者や面倒を見てくれた義理の娘などは相続人になりません。
しかしながら、遺言で指定しておけば、特定の相続人に相続させることや、相続人にはなれない方に財産を譲ることができます。
このような指定を行う場合、通常、相続人に対しては「相続させる」、相続人以外の方には「遺贈する」と表現します。
なお、「遺贈」は、遺言で特定の財産を無償で与える「贈与」を意味し、だれに対しても遺贈できますが、ここでは第三者に対する贈与に限定して話を進めます。
では、「相続させる」と、第三者に「遺贈する」場合とでは、どのような違いがあるのでしょうか。
「相続させる」
「相続させる」遺言は、「特定財産承継遺言」と呼ばれ、複数の相続人のうち特定の相続人に、特定の財産を相続させる場合に使う表現です。
遺言は、通常相続開始時に効力が発生し、書かれたとおり、指定した相続人が指定した財産を受け継ぐ効果が発生します。
「遺贈する」不動産の登記は、相続人の反対があるとできない
一方、「遺贈する」遺言で、特定の第三者に、特定の財産を無償で与えることができますが、不動産の場合は「相続させる」とは法的効果が異なります。
「相続させる」場合は、譲り受けた方が単独で登記できるのに対し、「遺贈する」場合の登記は、相続人と共同で行わなければなりません。
つまり、単独では登記できず、相続人の反対があると、所有権移転の登記ができなくなってしまう恐れもあるのです。
「相続させる」と「遺贈する」では登録免許税額が異なる
以前は、相続人であっても、「相続」と「遺贈」では登録免許税が異なり、遺贈による場合の税額が高く設定されていました。
現在では、相続人に対する登録免許税は、相続でも遺贈でも同額ですが、相続人ではない方が遺贈を受ける場合は現在も割高になっています。
登録免許税とは?
相続や遺贈で不動産を譲り受けると、所有者を亡くなった方から譲り受けた方に変更する登記が必要です。
この登記には税金がかかり、その税金は「登録免許税」と呼ばれます。
登記は、不動産の所有者がだれか分かるように、法務局で管理する「登記簿」に記録する手続きで、その際に登録免許税がかかります。
登記簿には、土地や建物の所在や面積、所有者の住所や氏名などが記録され、だれでも閲覧することができます。
このような制度によって、他人に対して自分の所有物であることを主張でき、売買などもスムーズにできる仕組みになっています。
登録免許税の計算方法と税率
登録免許税の額は、土地や建物の「固定資産税評価額」に税率をかけて計算します。
税率は、新築した自宅の所有権保存、中古住宅の売買や相続、贈与などによる所有権移転、住宅ローンなどの担保とする抵当権設定などで異なります。
相続や贈与の登記手続きは「所有権移転登記」と呼ばれるもので、「相続」の税率は0.4%ですが、「贈与」の場合は2%です。
たとえば、固定資産税評価額が2,000万円の土地を譲り受けた場合に、相続では8万円で済むのに対し、贈与の場合は40万円の登録免許税がかかります。
免税
田舎にある不動産を相続するような場合は、点在する農地や山林、原野などを多数譲り受けるケースも珍しくありません。
このような場合も、所有権移転登記には登録免許税がかかりますが、すべてに登録免許税がかかるわけではなくなりました。
というのも、平成30(2018)年の税制改正によって、相続登記を促進するために、登録免許税の免税措置が設けられたからです。
指定された地域にある10万円以下の土地は免税
法務局ごとに、相続登記の促進を特に図る必要があるとして、法務大臣が指定する市街化区域外の土地については、評価額が10万円以下なら免税です。
2021年3月までの限定ですが、筆者の住む県では、県庁所在地と人口の多い市などを除く市町村で、多くの土地が指定に該当しています。
相続未登記分を登記する場合は該当部分が免除
相続未登記の土地を相続した方は、所有権移転登記を行う際に、まず未登記の部分を解消しなければなりません。
たとえば、亡くなった父が相続したものの、相続登記をしなかった場合は、その相続人が自分の名義に変更する際に、まず亡き父親名義に変更しなければなりません。
こうなると、亡き父と自分の相続登記で、2回分の登録免許税がかかってしまいます。
2018年の改正により、このような相続登記では、2021年3月まで、未登記部分の登録免許税が免除されることになりました。
まとめ
遺言の作成や執行では、相続税に注意を奪われがちですが、そのほかの税金や手続きなどにも注意を払う必要があります。
不動産の相続や遺贈でも、将来的な賃借や売買、相続などに登記が欠かせず、登記の際は登録免許税や依頼する費用がかかります。
また、遺贈では、単独で登記ができず、登録免許税も割高になるとともに、相続では課されない不動産取得税がかかるなどの違いもあります。
今回は登録免許税について紹介しましたが、遺言の作成や執行時には、不動産特有の税金や手続きなどについて把握しておくことも大切です。