「相続分の譲渡」揉める協議からの離脱や相続不動産の放棄

親の兄弟仲が悪く、疎遠になってしまった祖父が亡くなり、伯父から代襲相続人としての相続について連絡がありました。

 

山里奥深いところにある親の実家には、幼いころに数回行ったことがあるものの、場所や親せきの人たちの顔も記憶にありません。

 

主な遺産は、山林や原野、山間の農地などで、ほとんど魅力を感じていません。

むしろ、伯父や伯母が遺産分割協議で揉めているようで、関わりたくないと考えています。

 

相続放棄できることは知っていますが、家庭裁判所が遠いうえに、なにかと手間がかかると躊躇しているうちに、3カ月以上過ぎてしまいました。

 

このような場合に、遺産や遺産分割協議に関わらないで済む方法として、「相続分の譲渡」があります。

 

相続分の譲渡とは?

 

相続人になると、法定相続分を取得する権利が与えられますが、自分の相続分を他人に譲渡することを「相続分の譲渡」と呼びます。

 

相続分は、配偶者や子、親、兄弟姉妹などの相続人に与えられる、遺産の割合です。

 

図の例では、遺産を4人の子で均等に分けることになり、代襲相続人は、二男の相続分となった4分の1が相続分です。

 

なお、相続の連絡が来た時点では明らかではありませんでしたが、もし負債があれば、それも代襲相続人が受け継ぐことになってしまいます。

 

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揉める遺産分割協議からの離脱

 

譲渡の条件や相手

 

相続分の譲渡は、譲渡人と譲受人の合意があれば成立し、他の相続人の同意は不要です。

 

譲渡する相手方は、相続人でも第三者でも良く、複数の方に譲渡することもできるなど、配分は自由に決めることができます。

 

なお、第三者に譲渡された場合は、残りの相続人全員で行う遺産分割協議に、譲渡を受けた方が加わる必要があります。

 

また、譲渡は贈与とみなされ、有償・無償のどちらでもかまいませんが、有償の場合は、譲り受けた方によって相続税や贈与税などの課税対象になります。

 

負債も一緒に譲渡される

 

相続分を譲渡すると、プラスの遺産だけでなく、同時に相続債務も譲り渡されます

 

したがって、代襲相続人がオジやオバなどに譲渡すれば、負債があってもオジやオバなどが負うことになります。

 

ただし、これは当事者間の合意にとどまり、債権者には対抗できないことに注意が必要です。

 

つまり、譲渡された方が返済すれば問題ありませんが、債権者から請求された場合には応じなければならない可能性があります。

 

相続分の譲渡による相続債務については、相続放棄とは異なり、必ず取り立てや返済から免れるとは限りません。

 

譲渡できないケース

 

相続放棄のような3カ月といった期限はありませんが、譲渡できない場合もあります。

 

基本的に、遺産分割の前でなければ譲渡できず遺言で分割方法が指定された財産については、相続分の譲渡の対象とすることはできません

 

なお、相続人全員の同意があるなら、遺言や遺産分割後でも譲渡することが可能です。

 

揉めてしまった遺産分割協議からの離脱

 

譲渡してしまえば、相続する財産がなくなります。

 

このため、本来は相続人全員で行う必要がある遺産分割協議に、相続放棄と同様、譲渡した方は加わる必要がありません

 

一般的に、相続分の譲渡は、相続放棄や遺産分割協議の代わりに、共同相続人などの当事者を整理するために利用される方法です。

 

特に、相続分を取得したくない場合や、遺産分割協議やその調停手続などに関わりたくない場合に、離脱するための手段となります。

 

なお、相続分を譲渡したことを証明するためには、「相続分譲渡証書」を作成して署名と押印の上、印鑑登録証明書を添付すれば、家庭裁判所にも認められます。

 

相続放棄の熟慮期間を過ぎてからも不動産を相続放棄できる

 

相続分の譲渡は、相続分を特定の人に譲渡でき、後順位の相続人が相続権を取得しないことや、一部の相続分に限って譲渡できるメリットがあります。

 

これに加えて、期限や手続きについて、相続放棄にはないメリットがあります。

 

遺産分割前なら、いつでもできる

 

相続放棄であれば、3カ月の熟慮期間が過ぎると認められないのに対し、相続分の譲渡には特別な期限がありません

 

相続発生や相続を知ったときからの経過期間とは関係なく、遺産分割前なら、いつでも譲渡できます。

 

また、相続人の間で決めるだけで済み、相続放棄のような家庭裁判所での面倒な手続きが必要ありません。

 

つまり、他の相続人などへの相続分の譲渡は、遺産を取得しない、つまり、単純に表現すれば、放棄することになるのです。

 

相続分譲渡証明書

 

譲渡は、口頭でも成立するものの、「相続分譲渡証明書」あるいは「相続分譲渡証書」として、証明書を作成することが一般的です。

 

証明書を作成しておけば、後のトラブルを防ぐことができ、かりに遺産分割調停や遺産分割審判になった場合でも、これらに参加する必要がなくなります。

 

なお、この相続分譲渡証書があれば、相続した方が不動産を登記する際に、登記原因証明情報として利用することもできます。

 

まとめ

 

このように、相続分の譲渡は、相続人の間では相続放棄と同様の役割を果たしてくれます。

 

ただし、譲渡に負債がある場合は、あくまでも相続人間での取り決めと扱われることから、注意しなければなりません。

 

このため、遺産に債務がある場合は、相続分の譲渡ではなく、相続放棄を検討することをおすすめします。