相続した不動産の相続登記が義務化される?所有権放棄なども検討中

社会問題化した所有者不明土地の問題を解決するために、法整備に向けた検討が具体化され始めました。   2019年12月に示されたのが「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案」(全37ページ)です。   この中間試案を見ると、発生を予防するための方法として、相続登記の義務化や土地所有権の放棄など、新たな方向性が打ち出されています。 不動産の所有者や相続人に影響が及ぶ話でもあり、関心の高い方も多いことでしょう。   そこで、今回のブログでは、この中間試案から、検討の背景や課題、検討全体の概略を、また、相続登記の義務化と土地所有権の放棄についても、詳しく紹介します。  

所有者不明土地は、なにが問題なのか

 

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  土地の所有者が死亡すれば、通常であれば、相続する者の名義に登記を変更する「相続登記」を行います。   しかしながら、この相続登記が行われないケースが多いことなどが原因となって、登記簿で所有者が確認できないケースや、判明しても連絡がつかないケースが多く存在しています。   土地を売買する場合、買主が所有者であることを対外的に証明できるように、所有権移転登記を行います。この登記は、権利を主張するために行いますから、登記されないという事態は非常にわずかです。   一方、住所変更登記や相続登記については、行われないまま放置されていることが大きな原因となって、様々な問題を引き起こしています。   所有者に連絡がつかず、同意や承認が得られなければ、売買や賃貸借をはじめ、様々なケースで利用に支障が発生します。   また、所有者不明土地の場合、相続人の特定や現住所を探す必要やなどがあり、所有者探しや連絡に多大な労力と費用がかかります。   見つかれば良いのですが、結局、相続人全員が死亡しているケースや、相続人を特定しきれないケース、相続人が海外にいて連絡が取れないケースなどもあります。   所有者が不明だと様々な問題も  

所有者不明土地の発生を予防し、利用しやすくする検討

  所有者不明土地に対しては、主に、共有制度や財産管理制度、相隣関係、遺産共有、遺産分割など民法に関する部分と、不動産登記法に関する部分の見直しが検討されています。   以下では、発生予防と利用の点に分けて、概略を紹介します。  

発生を予防する仕組み

  発生を予防するための仕組みとして、相続登記の義務化や土地所有権の放棄、遺産分割の促進などが検討されています。  

不動産登記情報の更新を図り予防

  登記内容を現状と一致させる仕組みとして、相続登記申請の義務化や、登記所が自ら更新を図る仕組みが検討されています。  

土地所有権の放棄や遺産分割を促進して予防

  発生を抑制する方法として、所有権についての放棄を認め、公的な機関などに帰属させることや、遺産分割についての期間制限を設けることなどが検討されています。  

利用する仕組み

  土地の利用面からは、「共有制度の見直し 」、「財産管理制度の見直し」、「相隣関係規定の見直し」の点で検討が進められています。  

共有制度の見直し

  共有名義など、数人で土地を共有している場合に生じる「共有物の管理や共有物の変更・処分」「共有者の同意を得る方法」「共有物の管理者」などについて、新たな規律や制度が議論されています。  

財産管理制度の見直し

  管理コストの高い財産管理制度について、特定の財産だけ管理する制度や、共通の財産管理人を選任することができる制度などの整備が検討されています。  

相隣関係規定の見直し

  隣接する土地に関する問題については、規定や請求方法の見直しが行われています。 たとえば、隣地から越境する枝など管理不全状態の解消や、損害を受けている場合の請求方法、隣地との境界の確定や測量などが挙げられます。  

どう影響する?想像登記の義務化と土地所有権の放棄

  発生を予防する仕組みとしては、単純に表現すれば、所有するなら登記を義務付け、所有できないなら放棄を認めるというスタンスに立っています。   紹介する内容は、あくまでも検討中のものですから、今後変わる可能性があることに注意してください。  

相続登記の申請が義務化

  不動産の所有者が死亡し、相続などによる所有権の移転が生じた場合は、登記申請が義務化されます。   相続や遺贈によって取得した相続人や、特定の財産を承継させる遺言(特定財産承継遺言)による取得者は、登記申請をしなければなりません。   期間は、取得者が、相続の開始があったことを知り、取得の事実を知った日から一定の期間内です。 なお、「一定の期間」は、遺産分割や法定相続分による相続登記、簡素化した方法で申告する方法などが比較されていますが、議論が収束していません。   また、所有者が登記されていない不動産の扱いや、義務化するときに既に所有者が死亡している場合の扱いなど、今後の検討課題が残されています。  

申請義務に違反した場合の規律

  申請義務のある者が、正当な理由なく期間内に申請をしなかったときは、過料を科すことが検討されていますが、議論は収束していません。  

登記しやすくする方法を新設

  登記を義務化するといっても、単に法律で決めただけでは効果が薄いため、登記しやすくする方法が検討されています。  

相続人申告登記

  相続登記とは別に、相続人が行う登記として「相続人申告登記(仮称)」が新設されます。   相続人申告登記は、法定相続人からの申出に基づいて、その相続人の氏名と住所だけを登記します。 持ち分は登記されず、所有権移転登記(名義変更)とは異なる「報告的な登記」の位置づけとなります。   手続きは、法定相続人が、登記所に相続が始まったことや法定相続人であることを、戸籍謄本を添えて申告します。   なお、この登記を行うことにより、メリットが与えられることについても検討が行われています。  

登記手続きの簡素化

  相続登記や遺贈による所有権移転登記については、手続きを簡略化することが検討されています。 特に、複数の相続人がいる場合は、登記を共同で行う必要があるケースについて、単独でできるよう簡素化が図られる予定です。  

土地所有権の放棄

  個人の場合、一定の条件を満たす土地の所有権について、放棄を認める制度が新設されます。 土地は、宅地だけでなく、農地や林地も対象とされています。   なお、共有地については、共有者全員が共同で放棄した場合に限り、認められる方向です。 また、法人が対象になるかどうかは決まっておらず、今後の検討課題となっています。   ただし、建物と動産の所有権については、放棄の対象外となっていることにご注意ください。   建物は対象外  

放棄された土地は国のものに

  放棄された土地は、最終的に国庫に帰属することになります。  

放棄の要件と手続き

  放棄する場合は、次のように定められる要件全てに該当する必要があります。 なお、要件についての具体化は、今後の検討に任されています。   ・権利の帰属に争いがなく筆界が特定されている ・第三者の使用収益権や担保権の設定がなく、所有者以外の占有者がいない ・現状のままでの管理が容易な状態 ・所有者が審査手数料や管理費用を負担 ・所有者が相当な努力が払ったと認められる方法で譲渡などを試みたが、実現していない   要件についての審査と認可については、公的機関が担当し、放棄は、国や地方自治体と放棄する者との贈与契約(寄付)が想定されています。  

まとめ

  「中間試案」は、あくまでも2019年12月の中間とりまとめ結果です。 報道によれば、ここで紹介した検討は、今後、2021年秋の臨時国会での提出に向けて、法案作りが進められる予定とされています。   今後の議論などによっては変更があり得ますが、検討状況を把握しておけば、今後の議論の行方が理解しやすくなりますね。   また、今回紹介した事項以外にも、様々な関連する課題についての記述があります。 たとえば、共有持分の放棄のあり方や、所有権が放棄された土地に起因する損害の填補などです。   詳細を知りたい場合は、法務省の法制審議会「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)」で確認することをおすすめします。